世界で愛されるワインへ 現在の状況と今後の展望 (現代~)

 西暦も2000年を過ぎ、交通手段や通信網の発達により、世界が小さくなった現代。
ワインはますます世界中で飲まれるようになっています。
現代のワインを取り巻く状況をまとめてみましょう。

 まず、先進国を中心に価値観の多様化が進み、選択肢の幅が広がったことから、ワインの種類や傾向も複雑化・多様化しました。
伝統的な価値観を重視し、テロワールを反映した複雑で繊細なワイン。
長期間の熟成はあえて視野に入れず、安価でシンプルなおいしさを楽しめるワイン。
果実味のたっぷりしたものや、強い味を押さえて香りを際立たせたもの。
極端な甘口、辛口。
そして、進歩の方向性を見つめなおし、あえて一歩後退する方向へ可能性を見出したビオワインと、さらに科学というより呪術的な理論形態を骨子とするビオディナミワイン。
旧世界、新世界という大きなくくりではもちろん、同じ国の同じ地域、場合によっては隣り合った生産者でさえまったく異なる特徴のワインを造っていることも珍しくありません。
現代は歴史上最も多くのタイプの中から自分の好みのワインを選べる時代と言えるでしょう。

 もちろん、選択肢は「どんなワインを飲むか」だけではなく「飲むか飲まないか」というものもあります。
アルコールが体や心にもたらす効果について、科学的な根拠が多くそろうようになったことから、19世紀末ころのアメリカのようなヒステリックな禁酒主義ではなく、冷静な判断としてアルコールを避ける生き方を選ぶ人たちが増えてきています。
また、周囲もそれを特別異常なことと考えず、個人の自由意志での選択を尊重するという考え方が主流になってきました。
世界的なワインの消費量は、1970年代を頂点として減少傾向にあります。
逆にブドウを栽培しワインを造ることのできる土地は、科学技術の進歩によってじわじわと増えてきています。
消費量が減って供給量が増えていけば、当然シェアの奪い合いは避けられないでしょう。

 環境の変化の問題もあります。
最近の研究では単純な温暖化については疑問符がついていますが、地球規模での気候や環境に変化が起こりつつあるのは間違いないようで、以前は観測されなかったような異常気象が増えてきています。
暑過ぎる夏や降雨量の変化によって、ブドウ栽培に最適な環境とされていた土地で思うような収穫が得られなくなってきてる一方、今までブドウの樹が育たなかった高緯度の土地に新しいブドウ畑が作られるケースも珍しくなくなってきました。
それでも伝統ある名醸地では、生産者の栽培技術や経験などによっていままで通りの品質をなんとか保持しているようですが、このまま変化が大きくなっていけばいずれ限界が来るかもしれません。
その場合、最新のテクノロジーによる人為的な介入も積極的に行う新興生産地との間で、評価の逆転が起こる可能性も十分ありえます。

 このような予想が、一部の(特に保守的な)ワインファンたちに不安を与えているのは間違いありません。
しかし、その悲観的な観測は正しいと言えるでしょうか。

 歴史を紐解けば明白なように、ワインとは単なるアルコール飲料ではなく社会や生活に強く結びついた飲み物です。
有史以前の遠い古代から、いつの時代も人類に寄り添い、生活スタイルや思想の変化に合わせて柔軟にそのあり方を変えてきました。
変化の急激な現代、ワインの変化やその行く末も見通しにくくなっているのは間違いありません。
しかし、一部で規模や勢いを減じたり、かつて知られていたのとは違った姿になっていくことはあっても、人々の生活が続く限りワインもまたそこにあり続けるはずです。

 8000年以上の歴史の積み重ねの上に、今後どんな展開が訪れるのか。
未来と同じように、ワインはいつでも未知の可能性に満ちているのです。