その他のワインの醸造方法 ワインと名の付くいろいろなお酒ができるまで

目次

フルーツワイン

 ブドウ以外のフルーツから造るフルーツワインも、基本的な造り方はワインとそれほど変わりません。
ようは、ブドウ果汁の変わりにその他のフルーツの果汁を使用するだけです。
ただし、ブドウのようにちょうど良い糖分を最初から持っているフルーツは限られるため、ほとんどの場合は加糖が必要になるようです。

 圧搾したフルーツ果汁に蔗糖などを加えて糖度をあげ、精製したワイン酵母を添加します。
開放型のタンクに入れて、15~20度程度の温度で1~2週間。
アルコール度数が上がるか糖分が分解されて発酵が終了したらできあがりです。
酸や風味を整えるためにブレンドが行われたり、樽やタンクで熟成されたり、場合によっては添加物で調味が行われる事もありますが、基本的にはブドウを使用したワインに比べれば見劣りするものが多いようです。
ただ、今までは果物の栽培はできてもワインを機械的な補助なしでうまく発酵・熟成させることが難しかった国や地域、もしくは逆にワイン醸造に適した地域では育たない種類の果物でも、技術や機械の進歩によって条件を整える事ができるようになってきています。
今後の研究によっては、ワインのように世界中の人々を魅了するフルーツワインが開発されるかもしれませんね。

サングリア

 サングリアは、フルーツワインというよりは「フルーツとワインを使用したアルコール飲料」、いわゆる「フレーバードワイン」です。
スティルワインやスパークリングワインに、スライスした果物やスパイスを漬け込む事で風味をうつして作ります。
作り方は簡単で、大きなボウルやガラス容器にうつしたワインに、果物やスパイス、蜂蜜、蒸留酒などを加えて、冷蔵庫などで半日~一晩寝かせるだけです。
加えるワインの質やフルーツの種類、それ以外の材料によって千差万別な味わいを作り出すことができますので、いろいろ試して自分好みの組み合わせを探してみるのも良いでしょう。

大麦ワイン(ビール)

 麦を使用して作られる醸造酒、ビールのうち、ワインのようにアルコール度を高めて長期間の熟成を可能にしたものを「大麦ワイン(バーレイワイン)」と呼びます。
ここでは、通常のビールの造り方を中心に、バーレイワインの醸造方法の一例を解説します。

発芽

 果汁に最初から糖分が含まれているブドウと違って、麦はそのままでは発酵させることができません。
酵母がアルコールを作り出すためには、まず麦に含まれている多糖類(でんぷん質)を分解して糖に変える必要があります。
麦には、発芽の際にでんぷんを分解する酵素(アミラーゼ)を発生する性質があるため、ビール作りにはこの性質を利用するのです。
麦(通常は大麦)を水につけておくと、数時間から十数時間で発芽し、でんぷんを分解する酵素を精製し始めます。
もちろん、あまり長時間放っておくと糖化したでんぷんが発芽のためのエネルギーに使用されて減ってしまうので、適度に進んだところで水から引き上げて次の工程へ速やかに進まなければいけません。
大麦ワインでは、より高いアルコール度数を得るために、通常より大量(2~3倍)の麦芽を使用します。

粉砕

 酵素が十分働き始めた時点で、麦芽を温風で乾燥させて細かく粉砕します。
この乾燥時に適度に焙煎される事によってビールに独特の香ばしい香りがつきますが、通常よりも高い温度、もしくは長時間の焙煎を行うことで、アンバービールや黒ビールのような、より濃い水色と強い風味を持つビールを造ることもできます。
粉砕した麦芽は、ホップやコーンスターチなど他の副原料と共に温水に投入されて混ぜ合わされます(マッシング)。
アルコール度数を高めようとするとできるだけ濃い溶液が必要になるので、大麦ワインの場合は混ぜ合わせる温水の量が抑制され、半固形のような粘度の高い状態になります。
麦芽に含まれるでんぷんと酵素が温水中に溶け出し、でんぷん質が分解される事で糖度があがっていきます。
糖化終了直前に再度ホップを追加することで、苦味や香りを強化する製法をとる場合もあります。

麦汁の分離

 麦芽からしっかりとでんぷんや他の成分が溶け出し十分糖化が進んだら、濾過して液体部分と固形部分を分離します。
この液体部分の事を麦汁と呼び、一度目に得られる麦汁のことを「一番搾り麦汁」と呼びます。
通常は、一番搾り麦汁を取ったあとの固形部分に再度温水を投入して残った成分を溶かし、これを濾過する事で得られる「二番搾り麦汁」もブレンドして次の工程へ進みますが、一部のメーカーでは一番搾り麦汁だけを使用していることを売りとする製品もあります。
麦汁はでんぷんが糖化したもの(麦芽糖)が大量に溶け込み、水あめのように非常に甘くなっています。
この糖分が、後にアルコールや二酸化炭素のもととなるのです。
大麦ワインの場合は、ここからさらにホップを敷き詰めたタンクの中を通すことで、より強い香りと苦味を添加することもあります。

煮沸、冷却

 分離した麦汁は一度煮沸されます。
これによって液中に残っていた酵素が壊れて失活し、麦汁が煮詰まる事で相対的に糖分などの濃度があがります。
煮沸した麦汁は、発酵に適した温度にまで冷却されます。
この時点で、ようやく「圧搾直後のブドウ果汁」と同じ状態まで準備が進んだことになります。

発酵、熟成

 準備が整った麦汁に精製された酵母を添加し、ついに発酵工程がスタートします。
ラガーと呼ばれる「下面発酵」のビールは10度以下、エールと呼ばれる「上面発酵」のビールはワインと同じように15~20度くらいの温度に保って発酵させます。
大麦ワインは後者のエールに属しますが、糖度も粘度も非常に高いため、数週間から場合によっては一ヶ月以上の発酵期間を要します。
エールは通常数日で発酵が終了するため、大麦ワインの発酵期間は異例の長さと言えるでしょう。
発酵が終了したら、温度を0度前後まで落として低温で1~2ヶ月熟せさせます。
発酵直後のビールはまだ味も香りも安定していませんが、この低温での熟成によって一般的に流通しているようなバランスの取れた風味を獲得します。
ちなみに、大麦ワインの場合は数ヶ月~1年近く熟成させるものもあります。

瓶詰め

 味がととのったら瓶や缶などに詰めて出荷されます。
基本的にはこの前後で60度前後に加温殺菌する「低温殺菌(パスチャライズ)」が行われますが、日本の場合は加温せずにそのまま流通する「生ビール」も少なくありません。
大麦ワインをはじめとする瓶詰め後も長期間貯蔵して熟成を進めるタイプのビールの場合は、シャンパーニュ方式のスパークリングワインのように糖液を追加してから打栓するものもあります。

ライスワイン(日本酒)

 麦と同じように収穫時点では糖分を持たず、さらに自家精製する酵素も持たない米を使用した日本酒の場合、醸造方法はさらに複雑になります。

精米

 日本酒造りに使用される米は、一般的に食用に作られているものとは違い、粒が大きくて中心部のでんぷん質(心白)が大きい「酒米」に分類される品種が使用されます。
でんぷん質の周囲には、お酒になったときに雑身のもととなってしまう成分が多い層がありますので、最初にこれを取り除く必要があります(精米)。
玄米の状態に対して残った米の割合を「精米歩合」といいますが、一般的な日本酒で精米歩合60~70%、より高級なものになると40~50%まで削り込むことも。
食用の白米が精米歩合でいうと90~92%程であることを考えると、どれだけたくさん削ってあるかが分かります。
この工程には数十時間、精米歩合によっては数日かかる事もあります。

吸水、蒸米

 精米した米に吸水させ、炊くのではなく蒸し上げます。
吸水にかかる時間は米の状態や品種、精米歩合によっても大きく変わりますが、大吟醸など精密な造りを要するお酒の場合、1秒単位で水と接する時間を管理する事も珍しくありません。
ここまでくると洗米作業中に吸水時間が終わってしまう事もあるほどです。
米を蒸すのは、このあとの工程(特に製麹)で外がぱりっと固く中が柔らかい状態が求められるからで、蒸気で熱を加えられることでぱらぱらとほぐれやすいご飯に仕上がります。

製麹(せいぎく)

 蒸しあがった米を即座に麹室(こうじむろ)と呼ばれる専用の部屋に運び、広げて麹菌をふりかけて製麹を行います。
「即座に」なのは、蒸しあがった直後の水分量や温度が麹菌の繁殖に適しており、タイミングをはずしてしまうと品質が低下してしまうからです。
麹菌とは「コウジカビ」といわれるカビの一種で、酵素によってでんぷん質を糖に変える役割を担う重要な菌のこと。
製麹の段階ではこのあとの工程で麹がうまく働けるように理想的な米麹を作ることを目指します。
「突き破精(はぜ)」「総破精」など、最終的に仕上げる酒の種類や品質によってどんなタイプの麹にすべきかが変わってくるため、日本酒造りの中でももっとも難易度が高く経験を要求される工程のひとつといわれています。
温度と湿度を管理し、頻繁にかき混ぜて米一粒一粒に均等に、それも狙った通りの形に麹菌を繁殖させるため、職人が約2日間泊り込みで作業を行います。

酒母作り

 麹が完成したら、その一部と少量の水、そして蒸した酒米を混ぜ合わせ(水麹)、ここに酵母菌を加えて酒母を作ります。
酵母菌は麹菌がでんぷんを分解して作った糖を養分として、水麹内で増殖します。
酵母が働くので当然アルコールも発生しますが、この時点では酵母の増殖が主目的なので、それに適した温度や濃度管理を行います。
同時に乳酸も添加され、酒母はさながらお米を原料としたヨーグルトのような見た目と味わいになっていきます。

発酵

 大きなタンクに水と酒米、麹、酒母を投入し、いよいよ発酵が始まります。
ただし、一度に全ての材料を混ぜるのではなく、三回に分けて合わせる「三段仕込」という手法を使用します。
これは、酵母の数やアルコール濃度が一気に高まって、発酵の勢いが途中で落ちるのを避けるための処置で、これによって日本酒は20度前後という醸造酒にしては通常ありえないような高いアルコール度数を獲得する事ができるのです。
ビールやワインの例を見ると分かるように、アルコール度数が高まるごとに影響を受けて勢いが弱まる酵母菌を、アルコール度が15%を越えても失活させずに保つのは大変なことなのです。
タンク内は、麹菌がでんぷんを糖に、酵母菌が糖をアルコールに分解する「並行複発酵」という非常に珍しい状態になります。
発酵期間は20~40日前後。
早ければ数日で終わるビールや基本的に1~2週間のワインに比べて、かなり長い期間をかけてゆっくりと発酵が進んでいきます。

搾り

 発酵が終了する頃には、分解作用によってどろどろに溶けた固形成分(酒粕)が液内にまんべんなく溶け込んだ、おかゆのような状態(もろみ)になっています。
これを専用の袋に詰めたり機械にかけて、液体部分と固形部分を分離します。
赤ワインでも、発酵後に固形部分(マール)とワインを分離する工程がありますが、日本酒のもろみはもっと粘度が高いため、しっかり分離するにはより強い圧力が必要になります。
基本的に、あまり圧力をかけずに自然と流れ出してくるものの方が質が良くなるとされますが、同時に手間や時間も多くかかってしまうため、仕上がりの品質や価格にあわせて搾りの方式を変えるのが一般的です。
例えば、価格を抑えて作る普通酒や本醸造酒などは、もろみをポンプで送り込んで空気圧で一気に搾るヤブタ式もろみ搾り機、品評会に出すような全商品の中でももっとも気を使う製品は、人の手で布の袋に入れて吊り下げそこから滴る雫を集める袋吊り、などという具合です。
赤ワインを分離する際も、自然と流れ出してくるものを「フリーランワイン」、圧力をかけて搾ったものを「プレスワイン」と区別しますが、日本酒の場合もどの時点で流れ出してきたかによって「荒走り」「中取り」「責め」、圧力をかけないものを「はな垂れ」「雫取り」などと呼び分けます。

火入れ

 現在、ワインは亜硫酸塩の添加などによって防腐や過発酵を抑える処置をしますが、防腐剤などの添加が許可されていない日本酒の場合は加温による殺菌処理である「火入れ」を行います。
これはいわゆる「低温殺菌(パスチャライズ)」と同じ作業になります。
一般的には、日本酒の火入れは二回、搾った直後と瓶詰めの直前に行います。
ただし、例外的に火入れを施さないものもあり、一回目の火入れを行わないものを「生貯蔵」、二回目を行わないものを「生詰め」(もしくは、「ひやおろし」「秋あがり」)、両方行わないものを「生酒」、あるいは「本生」と呼びます。
この区分で言うと、ワインは多くが「生酒」という事になりますね。
この処理でまだ残っていた酵母が死滅して流通中の望まない発酵や変質を防ぐほか、雑菌が繁殖する「腐造」「火落ち」などのリスクを避ける事ができます。

滓引き、濾過

 搾りに使用した器具の目を抜けてきてしまった微細な浮遊物を、静置したり濾過することで取り除きます。
濾過の際、以前はワインのように吸着剤として活性炭を使用することが多く、繊細な風味や色まで根こそぎ除去してしまう点が問題視されていましたが、近年では業界や一般消費者の評価の仕方が変わったこともあり、活性炭を使用せずフィルターのみで濾過するか、使用しても問題にならない程度の量に抑えることが多いようです。
滓引きや濾過も、火入れと同じように搾った直後と瓶詰め直前の二回行われるのが一般的です。

加水

 二回目の濾過が終わったら、加水してアルコール度数や味わいを調整します。
日本酒は通常、ワインと比べると倍以上のアルコールを含んでいますが、そのままでは飲みづらいため、14~15度程度に調整してから出荷するのです。
現代のワインでは考えられない手法ですが、古代ギリシャやローマ帝国時代に水で割って飲んでいた事を考えると、あながちまったくの異文化とはいえないかもしれません。

瓶詰め

 全ての工程が終わったら、瓶詰めして出荷されていきます。
日本酒は火入れを施していますし、アルコール度数も高いため熟成が可能な醸造酒ですが、酒税法の関係で近年まであまり熟成酒は飲まれてきませんでした。
ここ数十年、ようやく5年や10年、長いもので30年ほど寝かせた古酒が出回るようになりましたが、まだ「ものめずらしい酒」の域から出ておらず、ワインのように何十年もの年を経た酒に高い価値が認められるようになるまでには、まだ時間がかかりそうです。