カリフォルニアのワイン造り 特徴、製法など

目次

独特なアメリカの「ワイン法」

 アメリカのワイン法は1978年にスタートし、何度か改定を行っています。
基本的にはヨーロッパのワイン法をお手本にして作られていますが、EU加盟国ではないためEU法の縛りがなく、ヨーロッパ諸国のものとは違っている部分も少なくありません。
例えば、ワインの原産地を保証するための制度として「A.V.A.(American Virticultual Area/アメリカ栽培地域)」というものがありますが、これは単純に指定地域内の原料使用や醸造を保証するものであって、ブドウの品種やワインの醸造方法を指定するものではありません。
よって、周辺のワイナリーと異なる品種や手法を試した実験的なワインだったとしても、条件を満たしていれば地域呼称を使用することが可能です。
また、A.V.A.は地域によってはヨーロッパのアペラシオン・ジェネラル(Appellation Générales)やアペラシオン・リジョナル(Appellation Régionale)、アペラシオン・コミュナル(Appellation Communal)の関係のように、大きな地域の中に小さな地域をいくつも内包する構造になっていますが、これに上下関係はありません。
つまり、EUワイン法であればより小さな範囲の呼称を使用できるほど上質である証明になるのですが、アメリカの場合は単に地理的な条件さえ満たしていれば、重複する呼称のうちのどれを使用しても構わない(逆に言えば品質の証明にはならない)ということです。
これは、ヨーロッパのワイン法に慣れた人だと、ちょっと混乱してしまうかもしれませんね。

ラベル表示の規則

 アメリカのワイン法では、ラベルの表示内容に対してもいくつか規定があります。
例えば、産地やブドウ品種を表示する場合には、それぞれ規定の割合以上該当するブドウを使用していなければなりません。
カリフォルニア州の場合、州名を表示するなら100%、ブドウ品種を表示するなら75%、ヴィンテージは85%以上が求められます。
他の州や、州名ではなくA.V.A.名を表示する場合にはまた違った割合になります。
その他、ワインを醸造元で瓶詰めしたものと、別の場所で瓶詰めしたもの、ワイナリーとブドウ畑が同一区域内にあるかどうかなどで、住所の前につける標記が以下のように変わります。

  •  瓶詰めだけを行った場合
  •  ブレンドと瓶詰めを行った場合
  •  自社で醸造したワインを10%以上ブレンドして瓶詰めした場合
  •  自社で醸造したワインを75%以上ブレンドして瓶詰めした場合
  •  ドメーヌやシャトーのように、ブドウ栽培からワイン醸造、瓶詰めまで全て行った場合
  •  ドメーヌやシャトーのように、ブドウ栽培からワイン醸造、瓶詰めまで全て行い、さらにブドウ畑が同一栽培区域内にある場合

大規模ワイナリーとブティック・ワイナリー

 アメリカのワイン生産量の約9割がカリフォルニアで造られていますが、そのうちのさらに9割はわずか数十社の大規模ワイナリーが生産しているものです。
アメリカ全土の年間ワイン生産量が約190万キロリットルですので、カリフォルニアの大規模ワイナリーがそのうちの150万キロリットル以上を生産していることになり、例えば50社あったとすると1社あたりの生産量は約3万キロリットル。
フランス、ボルドー地方の年間生産量が約54万キロリットルで生産者が7800軒といわれていますので、あくまで平均ですが、カリフォルニアの大規模ワイナリー1社でボルドーのシャトー430軒分のワインを造っている計算になります。
これは、カリフォルニアの場合ヨーロッパのブドウ畑と違い平地に広大な面積を用意できるため、大型の機械を運用する前提でブドウを植えていることが関係しているようです。

 その一方で、非常に小さな畑で実験的な栽培方法やこだわり抜いた高品質なワインを造っているワイナリーが多いのも、またカリフォルニアの特徴のひとつです。
「ブティックワイナリー」「カルトワイナリー」などと呼ばれるこの小規模ワイナリーは、家族経営だったり質を追求する醸造家だったり、あるいはセミリタイアした会社経営者だったりと、所有者の属性や方向性、目的までもまちまちです。
しかし基本的に、大量生産品はもちろん厳格なルールの多いヨーロッパのワインともまた違ったものが多く、他では手にはいらないということでコアなファンがつき、価値が急騰している銘柄も少なくありません。

 機械化による大規模ワイナリーと、極小のブティック・ワイナリー。
両極端ではありますが、これはどちらもカリフォルニアワインの事情を良く反映していると言えるでしょう。

テロワールの尊重と干渉のバランス

 基本的に乾燥していて夏は高温になるカリフォルニアでは、本来ブドウの栽培は至難の業であるといえます。
海からの冷たい風が霧や雲によって多少助けてくれるとはいっても、広い西海岸の全ての地域が十分な恩恵を受けられるわけではありません。
そこで、特に内陸部の乾燥地帯でなくてはならないのが、灌漑の設備です。

 ヨーロッパ、特にフランスのような古くからテロワールを重視したワイン造りを行ってきた国や地域では、灌漑どころかホースで水をまいたり逆にシートで雨をよけたりといった操作を行うことはすべきでないとされており、ほとんどのアペラシオンでは完全に禁止されています。
これは、自然のままの環境をワインに写すことでその価値を高めるのに貢献している一方で、どんなに良い条件が揃った土地でも、たったひとつ致命的な点があればもうワイン用ブドウの栽培には使用できないというデメリットもあります。
逆に、カリフォルニアでは灌漑を導入することでいままでなら諦められていた土地もブドウ畑として開拓することができ、広範囲でワイン産業が発展し機械化による大規模なワイン造りも行えるようになりました。
しかしこれをやりすぎれば、農業というよりも工業に近くなっていき、いずれ品質や価値が低下することは避けられません。

 近年では消費者の嗜好や需要の変化もあり、従来のような集約農法的な大規模栽培から方向転換を行うメーカーも増えてきました。
カリフォルニアでも小規模で品質を重視したワイン造りを行うワイナリーが増えてきており、灌漑などの設備や技術を使用するにしても無理やり農地を拡大する、という方向性ではなくなりつつあります。
気候の変動でヨーロッパの伝統ある名醸地でも栽培が厳しくなるケースが出てきている中、テロワールの尊重と人の手による干渉のバランスをうまく取っていけるか、サンプルケースとしての価値が高まってきているといえるかもしれません。