グラスの形で味わいも香りも激変! タイプ別おいしいグラスの選び方

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 近年では常識として知られるようになって来ましたが、ワインを飲む際に使用するグラスの形は、思った以上にワインの印象や味わい、香りに大きな影響を与えます。
ワインを楽しむ際、人は味覚や嗅覚だけでなく視覚や触覚なども使用していおり、グラスに注いだワインの外観、グラスの雰囲気、重さ、材質、手触り、口に運んだときのグラスの縁の感触なども重要な情報となるのです。
また、グラスの形状によって、香りのたち方、濃度、どれくらいの勢いでどれくらいの量が流れ込んでくるか、口のどの部分に触れるかなどが変わり、これもワインの印象を左右します。
ワインのタイプごとに合わせたいグラスの形状について見てみましょう。

全体に共通する特徴

 ワインのタイプによって選びたいグラスが変わってくるのは間違いありませんが、それ以前にワインを飲むのであれば最低限満たしておきたい条件もあります。

材質

 ワインはその美しい色合いも重要な特徴のひとつです。
グラスに注がれるワインの水色を楽しむのももちろんですが、それ以上に様々な情報を読み取ることもできます。
赤ワインであれば「どんな種類の赤か」「色の濃さや透明度」などから味わいやボディ、産地、ブドウの種類を推測できますし、白ワインであれば「黄色寄りかオレンジ寄りか」で産地、ブドウ品種に加え醸造手法をうかがい知ることができるのです。
そのため、金属や陶器などの不透明な材質のものではなく、ガラス製、それもカットや色の入っていない無色透明なものが最適です。
また、アウトドアや屋外のイベント会場などやむをえない場合以外は、プラスチック製も避けたほうがいいでしょう。
手触りや口当たりが中のワインの印象まで安っぽくしてしまうだけでなく、使用を繰り返すごとに色や匂いが移ってしまいます。

形状

 一般的なワイングラスは、ワインを注ぐ「ボウル」、脚とも呼ばれる「ステム」、テーブルに置くための「プレート」から構成されています。
これはボウルを直接掴むと手の熱でワインの温度が変わってしまうと考えられていたからだと言われており、現在でもスタンダードな形状として認知されています。
(ただし実際には、立食形式のパーティでもなければそこまで長時間ワイングラスを持ったままでいることも少ないため、かつて考えられていたほどの影響はないということでボウルだけのワイングラスも現れ始めているようです)
ボウルに指がかからない状態で持てるワイングラスは、テイスティングの際に外観をしっかりチェックするのに適した形状といえます。
ステムやプレートはある程度デザインが施されていてもかまいませんが、ワインを見やすいように色や飾りの入っていないプレーンなボウルのものを選びましょう。
口元は、ワインが広がらずに流れ込んでくるように、盃(さかずき)のような広がった形ではなく軽くすぼまっているべきです。
ただし、すぼまり方はワインの特徴によって適した形が変わります。
深いボウルとすぼまった口元は、ワインの香りを逃さず溜めておく点でも有効です。

価格

 せっかくのおいしいワインをいただくのに、あまり安物のグラスを使用するのは避けたほうがいいかもしれません。
ぱっと見ではさほど変わらなかったとしても、材料や細部、加工の仕上げなどに差があることが多く、結局のところワインの印象を損なうことになりかねません。
しかし逆に、あまりにも高価なグラスを用意すると、壊してしまわないかと気になってワインを十分に楽しめない可能性もあります。
場合によってはそれが原因でワインを飲むこと自体が億劫になってしまう、なんてことにも。
ワイングラスにかける費用は、一般的に「そのグラスで飲むワインの一本分」が目安だとされています。
この点に気をつけておけば、気軽なテーブルワインに必要以上に緊張したり、高品質な名ワインをチープなグラスが台無しにしてしまうことはないはずです。

ワインのタイプ別に適するグラスを使用する

 最初はどんなワインにもだいたいあわせることのできるオールマイティなグラス(やや小ぶりの赤ワイン向け)がひとつあれば問題ありませんが、良質なワインを長く楽しんでいくのであれば、やはりそれぞれのタイプに合わせたグラスがあったほうが良いでしょう。
適した形状のグラスはワインの特徴を引き立て、味や香りをより鮮明に感じさせてくれます。

タンニンを多く含むワイン

 カベルネ・ソーヴィニヨンを主体とした、フランスのボルドー地方に代表されるようなタンニンを多く含むワインは、大ぶりで縦に長いグラスが適しています。
下側がまるく膨らみ口元が少しだけすぼまった、ちょうどしずくを途中でカットしたような形状がもっともポピュラーです。
ワインを適量注ぐとちょうど一番膨らんだあたりに液面(ディスク)がくるため、空気との接触面が多くなり、繊細で複雑な香りがしっかりと立ち上がります。
同時に液面で酸素に触れた部分から酸化が進み、強いタンニンもまろやかな口当たりになります。
ボウルが大きいので少量ずつ飲むことができ、口に入ったワインが舌全体に広がるように流れることで複雑な味わいをしっかりとキャッチすることができます。
高級なワインが含まれることの多いタイプであるだけに、グラスのメーカー各社も力を入れており、高価なラインナップが目立ちます。
メーカーごとに設計思想とそれを反映する形状に違いがあるため、HPなどでよく確認するか、専門店で相談しながらの購入をお勧めします。
また、この形状の小ぶりなグラスは、タイプを選ばないオールマイティ型としても使用できるので非常に便利です。

華やかな香りと果実味のワイン

 ピノ・ノワールを主体とした、ブルゴーニュ地方に代表される華やかな香りのワインには、ボウルが大きく膨らんだ形状のグラスが適します。
できればこちらも大型で、上部に向かってすぼまりつつも口元が少し開いたような形のものがいいでしょう。
空気との接触面を大きくとり、スワリングで香りを立たせ、その香りをグラスを傾けるまで保持するには、ボウルの空間の大きさが重要です。
まるく膨らんだボウル内で動くことで、ワインからは華やかな香りがしっかりと立ち上ります。
そして、口をつけるとちょうど鼻先までがすっぽりとグラスに包まれるような形になるため、内部に溜まった香りを余すところなく楽しめるのです。
味の面では、果実味のしっかりとしたワインは酸味も強いことが多いため、舌の奥へ流れ込んでくる細口よりも、歯のすぐ裏側に柔らかく触れるようなやや広がった口元のものが良いとされています。
同じ理由から、軽めの白ワインにも適する形状です。

スパークリングワイン

 かつて、スパークリングワイン用のグラスとしては「クープグラス」という浅く広がった形状のグラスが一般的でした。
その発祥については「パーティなど一気にグラスを用意しなければならない場合に注ぎやすかったから」「あまり甘くないビスケットを甘口のスパークリングワインに浸して食べるのが流行ったから」「シャンパンタワーなどイベント用に重ねて使用するように開発された」など諸説ありますが、本当の理由ははっきりしていません。
泡が盛んにあがって華やかではあるのですが、その分一気に気が抜けてしまい香りも楽しめないため、今ではスパークリングワインには適さないとする意見が一般的です。
現在のところ、スパークリングワインには縦に細長いフルートグラス、もしくはフルーティなスティルワインと同じ丸く膨らんだ形状のグラスが合うと考えられています。
フルートグラスは液面が非常に小さくなるため炭酸ガスの放出を遅らせることができ、縦に長いボウル内を満たしたワインの中を、細い泡の筋がきらきらと上っていく姿を楽しめます。
丸く膨らんだ形状のグラスは、立ち上る泡が絶えず放出する香りを逃がさずとどめ、ワインの流れをコントロールすることで隠れがちな果実味もしっかり味わうことができます。
甘みが強いスパークリングワインや気軽なパーティなどで楽しむ場合は前者、シャンパーニュ(トラディッショナル)方式などで造られた高品質なワインをじっくりと楽しむなら後者、という具合に、ワインの特徴とシチュエーションで使い分けるといいでしょう。

糖分やアルコールを多く含む濃厚なワイン

 フォーティファイドワインや果汁濃縮系ワインなど、糖分やアルコール分を多く含むワインには、小ぶりなグラスが適しています。
濃厚なワインはそもそもたくさん飲むのが難しく、少量をなめるように楽しむのが一般的なので、大きなグラスを使用する意味があまりありません。
また、果汁濃縮系ワインは成分が非常に濃いため粘度も高く、グラス内部に残ってしまう分も多くなりがちです。
ただし、高級な貴腐ワインなど温度変化で芳しい香りが楽しめるものもあるので、ショットグラスなどは避けましょう。
タンニンを多く含むワイン用のグラスを小さくしたようなものや、蒸留酒をストレートで飲むためのグラスが内容量も形状もちょうど良く、ワインによっては専用の匙などもあります。
冷やして飲むワインに使用する場合、どのグラスでもワイン自体と同じ程度に冷やしておきましょう。