汚れたラベルや傷ついたラベルなど ラベルから読み取れるダメージの情報 ラベルの読み方その2

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 ラベルには様々な情報が記してありますが、そこから読み取れるのは書いてある内容だけではありません。
基本的にどんな状態にあっても傷つきにくく汚れもつかないワインボトルのなかで、唯一傷みやすいラベルは、そのワインが生産者の手を離れてからどんな経験をしてきたのかを推測するための手がかりになります。
早飲みワインかセラーで大切に保管された超高級ワインが中心の日本では、敬遠されがちなラベルの汚れや傷みですが、そこからどんな情報を読み取れるのかを考えてみましょう。

ラベルにカビ

 ワインを熟成させるのに適した条件としては、日光が当たらない、気温が適温の範囲内でゆったりと変化し極端な温度や急激な気温差にさらされない、湿度はやや多湿くらいで安定している、といったものが挙げられます。
そのため、機械式のセラーが発明されるまでは、ワインは洞窟や地下室に寝かせるのが良いとされていました。
そして、これらの条件はワインだけでなくカビにとっても快適なものであるため、機械式のワインセラーではなく伝統的なセラーで寝かせていたワインのラベルがカビてしまうのは実は良くあることだといえます。
良くお風呂などで見かけるような黒や緑のカビ染みがあるラベルは、確かに気持ちのいいものではないかもしれませんが、適正な状況で保管されてきたワインであるという証拠でもあるのです。
固くて丈夫なガラスをカビが侵食することは、現代の製造技術で作られたものであればまずありえませんし、コルク栓をすり抜けてカビの胞子が瓶内に侵入することもありません。
むしろ、良い環境でしっかり熟成されたワインである可能性が高いので、高い品質が期待できるといえるでしょう。
ただし、カビがコルクにまでついていた場合は注意が必要です。
コルクは多孔質で柔らかいため、カビの根が奥まで入りこんでしまい、ワインの香りや味わいにも悪影響がでている可能性があります。
あからさまにカビているものはもちろん避けるとして、テイスティングの際にコルクのチェックを忘れずするようにしましょう。

ホコリやそれに伴う染み

 なんとなくホコリっぽい、もしくはホコリが付着していたと思われる染みがラベルに見られる場合は、ホコリのつき方を見てみましょう。
コルクは乾燥すると収縮してしまい、ボトルとの間に隙間ができてワインが酸化してしまうため、熟成中はコルクの内側が常にワインと接触している状態で寝かせておかねばなりません。
ボトルの側面にまんべんなくホコリが積もっていたということは、ボトルがちゃんと寝かせてあったということを示します。
また、厚く積もったホコリは毛布のように温度変化や日光からワインを守ってくれますし、長期間動かさずに保管されていたという証拠でもあるため、理想的な環境で熟成されていた可能性が高まります。
逆に、キャップやボトル上部のいわゆる「肩」の部分にだけホコリが積もっていたら、長期間立てたまま保管されていたということですから、注意が必要になります。
購入の際にはコルクの状態をチェックし、万全である確信が持てないならやめておいたほうがいいかもしれません。

傷、破れ

 ラベルの種類にもよりますが、紙でできたラベルは基本的には破損しやすいものです。
ちょっとした傷や破れは、特に古いヴィンテージのものであれば輸送の際などにつくのが普通ですので、さほど気にする必要はありません。
ただし、あまりにも大きな傷がついていたり一部が判読できないほど破けている場合には注意が必要です。
手荒に扱われてきたワインは、振動による変質が起こっている可能性があるからです。
また、一部の接着剤や一般的なラベルは水に弱く、濡れた状態だと破れやすくなります。
ラベルがふやけるほどの水がついたとなると、大雨で輸送用の箱が浸水したのでもなければ(それはそれで問題ですが)、極端な温度差や急激な温度変化で結露が生じた恐れがあります。
温度差はワインにとっては天敵で、時に致命的なダメージになってしまう可能性もあるため、ラベルがふやけて破けたように見えるワインは避けたほうがいいかもしれません。

ワインの染み

 ラベルについている染みが、カビでもホコリでもなくワインが付着したものである場合は、かなり警戒すべき状況だといえます。
言うまでもなく密栓した状態のボトルであれば、寝かそうと逆さにしようとワインがたれてくることなどないため、本来ラベルにワインの染みがつくことはないからです。
ラベルにワインがついている場合、原因は「熟成期間中の注ぎ足しの際にたれてしまった」「そのボトルのものではなく別のワインがついた」「一度開栓されている」「ボトルの中身が吹きこぼれている」などが考えられます。

 「熟成期間中の注ぎ足しの際にたれてしまった」は、非常に古いワインでかつプロのソムリエによる管理を委託していた場合などには、確率は低いとはいえ起こりうることであるといえます。
コルク栓は弾力がある多孔質物質なので、密封してあってもごくゆっくりと換気もしています。
それがワインの熟成を進める酸素の供給に好都合でもあるのですが、10年単位の長期間で見ると少量ずつ蒸発してワインが減っていってしまう原因にもなります。
ワインが減れば内部の空洞が大きくなって酸化が進みやすくなってしまうため、同じワインが複数確保できている状態であれば、10年程度に一度コルクを抜いてワインを注ぎ足すのが理想的であるとされています。
それだけの管理を素人が行うことはほぼなく、熟練したソムリエであればそうそう扱いを失敗することもないため可能性はかなり低いのですが、この時にワインがたれてラベルに跡がつく可能性もゼロとはいえません。

 「そのボトルのものではなく別のワインがついた」は、カジュアル寄りのレストランやバーであればありうるかもしれません。
ワインセラーから直近で販売が見込まれる分を取り出して作業台の近くにストックしてある場合、近くでコルクを抜いたりグラスに注いだりするなかで雫が周囲に飛ぶ可能性は十分考えられます。
日本ではグラス売りも珍しくありませんので、鮮度を保つためにボトル内部の空気を抜くワインセーバーなどを使用したり何度も抜き差しをしていれば、さらに飛び散る可能性は高くなります。
ただし、セラーから直接取り出してきたりリカーショップの棚に並んでいるのに他のボトルのワインがつくというのは、近くで保管していたボトルが破損したのでもない限りあまり考えられません。

 「一度開栓されている」「ボトルの中身が吹きこぼれている」はかなりリスキーな状況であるといえます。
先述の注ぎ足しの作業でもない限り、ワインは打栓されてから消費者の手元で開けられるまで密栓されているべきです。
実際、ボトルのラベルはその前提で内容を保証しているのですし、開栓されていないことを担保するためにコルクにはなんらかの形式で封印がなされています。
一度開栓されているとなれば、ワインの劣化などの問題以前に中身のすり替えやブレンド、他成分の混入までなんでもありになり、内容に関してはなんら保証されていない状態であるといえます。
内容物の吹きこぼれは、ワインとコルクが正常な状態であればまずありえません。
雑菌の混入によるガスの発生、コルクの劣化や収縮、極端な高温にさらされての内容物膨張などが重なっていることが考えられ、ワインの状態もまずまともではないでしょう。
この場合は、コルクの状態や封印の有無など、外見的なチェックである程度見分けることができます。
封印やホイルの下からコルクが盛り上がってきていたり、ホイルの内側から液だれの跡があるなども同様です。

 ラベルのワイン染みについては、自分で判断ができなければ売り場の販売員やソムリエなどに確認するのが一番確実です。
特に高級なワインの場合、目立つ染みについては(所有者が何度も変わっていなければ)どんな状況でついたか把握されている場合も少なくありません。
店員もわからず、見た目からの判断も難しい場合は、リスクを負い切れなさそうなら避けたほうが無難かもしれません。

日焼け

 ラベルが目に見えて日焼けしているワインは、まず避けたほうがいいでしょう。
ワインは光の刺激に敏感なお酒です。
自然光はもちろん、人工の光でも長期間当たっていると影響があるといわれています。
近年は紫外線カットの効果が高い暗色の瓶が使用されてはいますが、熟成期間中は光に当てないのが基本です。
見た目で分かるほどラベルが日焼けしているということは、かなりの量の光をワイン自体が浴びているはず。
かなりの確率で変質していると考えていいでしょう。
もしかすると偶然好ましい効果がでているかもしれませんが、よほど貴重なワインでもない限りそんな勝ち目の薄い賭けに出る必要はありません。