ラングドック・ルシヨンの地域データ 位置、歴史、気候など

目次

ラングドック・ルシヨン地方(Languedoc-Roussillon)

 ラングドック・ルシヨン地方は、フランス南部に位置する主要なワイン生産地域です。
ブドウ栽培面積は約2450平方キロメートルで、これはボルドー地方の約2.5倍、ブルゴーニュ地方(ボジョレー地方含む)の約5倍の広さ。
フランス全体の約1/4の量のワインを生産し、年間30万キロリットル以上のワインを国外へ輸出する、まさにフランス最大のワイン生産地となっています。
地中海に面し、豊かな日照と夏に乾燥する気候、石灰質が主となる土壌を持つこの地方は、ブドウの栽培に最適なテロワールに恵まれており、それだけに「放っておいても勝手に実る」ということで他の地方に比べて品質の向上などの改善努力があまり意識されてきませんでした。
プロヴァンス地方に続いてブドウ栽培が始められるという長い歴史を持ち、その適性からフランスで始めて大規模なブドウ栽培が行われたという由緒ある土地であるにもかかわらず、1960年代までは「お茶代わり」「水代わり」と揶揄される、低品質な大量生産ワインの産地として侮られてきたのです。
しかし、近年では需要の変化に合わせて方向性を転換。
フランス国内でも特殊な産地として注目を集めつつあります。

ラングドック・ルシヨン地方のワインの歴史

 ラングドック・ルシヨン地方にワインが持ち込まれたのは、紀元前のことであるとされています。
東側に位置する現在のプロヴァンス地方、マルセイユにギリシャ人が入植してきたのが紀元前600年頃、そこから西進してラングドック・ルシヨン地方の中心都市であるナルボンヌまで進出してきたのが紀元前400年頃、そして急拡大するローマの属国となったのが紀元前118年のことでした。
ギリシャ人の植民地時代から小規模なワイン造りは行われていたようですが、本格的なスタートはローマの他の属国のように都市として開発された際、他の地域からやってきた人々によってであると考えられています。
当時はまだブドウの栽培もワインの醸造も技術があまり発展していない時期でしたが、環境条件に恵まれたこの地域では比較的容易だったため、生産地は急速に拡大していきました。
また、主要な街道と河川の通る交易の拠点として都市が発達したこともあり、フランス全土にワイン産地が拡大していくまでの長い期間、各地へのワイン輸出が盛んに行われていたことが、大量に出土するアンフォラなどの痕跡からわかっています。
初期のフランス(ガリア地方)にとって、ラングドック・ルシヨン地方はまさにワイン文化の中心地だったのです。
しかし、その後フランス各地にブドウが植えられ、修道院が主体となってより良質なワイン造りが行われるようになると、次第に重要性が薄れていってしまいます。
土壌や気候などの環境条件に恵まれているラングドック・ルシヨン地方は、その好条件ゆえに技術進歩の必要性に迫られることがなかったため、他の地方が名声を高めていく中、凡庸なワイン産地として埋没していってしまいます。

 同地方で次に歴史的事件が起こったのは、長い時間の流れた16世紀のことでした。
1531年、リムーの町に合ったキリスト教ベネディクト派のサン・ティレール修道院で、その少し前から徐々に流通するようになったガラス瓶とコルク栓で密閉し保存していたワインが、スパークリングワインになっているのが発見されたのです。
これはシャンパーニュ地方でシャンパンが造られるようになる100年以上も前のことで、リムーは世界最古のスパークリングワインの産地であるとされています。
ただ、残念ながらピエール・ドン・ペリニョン師によるアッサンブラージュ(調合)の技術やマーケットの需要とのタイミングなどから、世界的にはシャンパーニュ地方のほうが有名になってしまいました。
さらに17~18世紀頃には都市人口が増えたことから量的な需要が増加し、19世紀のフィロキセラ大災害でワイン不足が発生したことから、ラングドック・ルシヨン地方は決定的に「質より量」へと舵を切ることになります。
1851年の第一回パリ万博に合わせて作成された格付けシステムの成功によって、世界的に評価される高級路線を突き進むワイン産地や生産者が続々と現れる中、それとは逆行するように低価格化・大量生産化が進んでいきました。
「お茶代わりのワイン」「水代わりに飲むワイン」、時には「うがい用」などと揶揄されるほどのこうした方針は、1960年代頃まで続いていくことになります。

 しかし20世紀の後半に入り、人々が量よりも質の充実を求め嗜好が多様化していくようになったことから、こうした状況にも変化が現れるようになりました。
それまで地理的表示なし、もしくはヴァン・ド・ペイ(Vins de Pays/現在のI.G.P.)がメインだったラングドック・ルシヨン地方の中に、いくつもの細分化されたAOCが認定されていきます。
品質の向上を進めることで、A.O.V.D.Q.S.(Appellation d’Origine Vin Delimites de Qualite Superieure)からAOCへと昇格したアペラシオンも複数表れました。
時代の変化に合わせた品質を目指すことで、テロワールの真価を発揮する生産者が増えてきたのです。

 また、近年ではボルドー地方やブルゴーニュ地方の「伝統的な」ワイン造りの縛りを嫌い、新しい技術や理論によるワイン造りを行うべく、国内外から移住してくる生産者も出てきます。
彼らはあえてAOCではなくIGP表記を選択し、使用品種などの面でより自由なチャレンジを行っています。
こうした側面から、ラングドック・ルシヨン地方は現在「旧世界の中の新世界」と呼ばれることも。
フランスの最も古いワイン産地は、新しいワインを生み出す可能性のある地として、長い不遇の時代を経ていまようやく実力相応の注目を集めはじめていると言えるでしょう。

ラングドック・ルシヨン地方の地理的な特徴

 ラングドック・ルシヨン地方はフランスの主要なワイン生産地のなかでも最も面積が大きく、気候も土壌も様々なため一貫して言えるような特徴はありません。
海岸に近い土地もあれば内陸側の土地もあり、平地も山間部も傾斜の異なる斜面もあります。
地中海型の海洋性気候と大陸性気候、そしてそれぞれの影響を異なる割合で受ける地区があります。
ある程度共通していることとして、ブドウ産地の中でも特に長い年間日照時間や夏の降雨量の少なさによる凝縮味の強さが挙げられますが、これも一本の樹あたりの生産量にも寄るため絶対とはいえません。
ましてや比較的縛りの緩い土地を求めて国内外から生産者が集まってきている近年においては、同じ地域とは思えないほどの多様性こそがラングドック・ルシヨン地方らしさといえるかもしれません。