シラー 世界的に主要な赤ワイン用ブドウその4

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シラーとは

 フランスの、コート・デュ・ローヌ地方原産の黒ブドウ品種です。
非常に濃厚で、パワフルなワインを生み出します。
パワフルすぎて、若いうちは飲み疲れしてしまうほど攻撃的との評価も。
熟成するにしたがってぴりぴりするほどの攻撃性はなりを潜め、内に秘めたエネルギーはそのまま、丸みを帯びたどっしりとした質感へと変化していきます。
また、表面的な荒さが取り払われるからか、熟成するごとに生産地の個性を濃く示すようになる性質もあります。

 かつてまだ生産地呼称統制の制度がなかったころは、各地の高級ワインの生産者たちが、自分のワインに力強さや熟成で表れるコクを足すために、コート・デュ・ローヌのシラーをブレンドしていたという逸話もあります。
現在はカベルネ・ソーヴィニヨンなどに押されて、ヨーロッパでは主要品種には数えられていませんが、平凡になりがちなブドウが主体のワインに、ぴりっとスパイシーな刺激を加える補助役として活躍しています。

 パワフルなボディからなのか複雑な香りのどれかが作用しているのか、ジビエ料理にぴったりのワインとされています。
スパイシーさが臭みを消してくれることや、濃厚な脂に負けないタンニンも一因と考えられていますが、実際のところ何故なのかはまだ解明されていません。

世界のシラー

オーストラリア

 シラーといえばオーストラリア、というほど、切っても切れない関係にある国です。
ただし、この国ではシラー「ズ」と呼ばれます。
19世紀に苗が持ち込まれると、気候や土壌などの環境条件がぴったりマッチしていたことからたちまちオーストラリア中に生産地が拡大。
世界大戦後に本格的なワイン造りが始まった後は、カベルネ・ソーヴィニヨンへの植え替えも進みましたが、現在でも作付け面積の実に1/2がシラーズであるとされています。
その植え替え時期に、カベルネ・ソーヴィニヨンが不足していたことから仕方なくシラーズとのブレンドでワインを造り始めたことがきっかけで、現在ではオーストラリア独特のブレンドとして親しまれるほど定番の組み合わせになりました。

 本来、シラーズは濃厚でパワフルなタンニンを多く含んでいますが、オーストラリアで造られるものは、実はタンニンの含有量が非常に少なくなっています。
これは製法の違いからきており、オーストラリアでは種からタンニンが抽出される発酵後半(アルコール度数が高くなる時期)に入る前に一度圧搾し、ロゼワインのように固形部分(マール)と分離してしまうのです。
タンニンはアルコール度数がある程度高くないと溶出しづらいため、この方法をとると色や他の成分はしっかり抽出されているのに、タンニンをあまり含まないワインになります。
これは、ただでさえパワフルなシラーズが、さらにタンニンたっぷりになってしまうと飲みづらくなってしまうため、また同じように骨太なタンニンを持つカベルネ・ソーヴィニヨンとうまくマッチするためであると考えられています。
ただ、他の成分まで薄くなってしまうことがないように、摘房による収量の制限や収穫直前の水分管理を厳格に行い、果実を熟成させる段階から成分の濃縮を十分に進めるため、ロゼワインのような薄い色や味わいにはなりません。
濃厚な赤ワインの風味を保ちながら、若いうちから軽やかさも兼ね備えるシラーズは、近年世界中でファンを増やし続けています。

アメリカ

 がつんと攻撃的なパワータイプのシラーは、ある意味アメリカ好みの品種と言えます。
カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどの主要品種に次いで、作付け面積はアメリカ国内で第五位。
変異種のプティ・シラーとともに、生産量を増やしつつあります。
他の品種と同じように、ヨーロッパで栽培されたものよりもダイナミックで芳醇、香りも濃厚で力強く、シラーの特徴であるスパイシーさも十分楽しめます。
ともするときつすぎる感がありますが、そこは各醸造家の腕の見せ所で、強引なのになぜかエレガントな側面を持つ、といった良質なワインも少なくありません。