ワインの外観の表現の仕方 ワインの表現その4

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 ワインをテイスティングすると聞くと、多くの方は味や香りについてのテイスティングコメントや、しゅるしゅると音を立てる独特の味わい方を思い浮かべるのではないでしょうか。
でも、実はワインを口に含むよりも前、グラスに注がれたワインの外観(アパランス/Apparence)をチェックする事によっても、非常に多くの情報を得ることができるのです。

 ここでは、テイスティングの際に確認すべき視覚情報と、その表現の仕方について見てみましょう。

ローブ(Robe/色)

 ワインの外見でもっとも分かりやすいのは、やはり何と言っても色です。
ワインの色は「ローブ」と呼ばれています。
ローブとは、もともと聖職者などが羽織っている「外套」を意味する言葉です。
外套が聖職者の階級や地位を色で示したように、ワインの色からは産地や性質、そのワインがどれだけの年数熟成されてきたか、などをうかがい知ることができます。

 ワインの色を見る場合は、グラスを斜めに倒して各部を確認します。
液面は「ディスク(Disk)」、その縁やグラスと接する付近は「エッジ(Edge)」と呼ばれます。
グラスを斜めにすると、ワイン全体の色がグラデーションのように見えるのが分かるでしょう。
上からのぞくときは、テーブルクロスやナプキンなど色の付いていない白いものを背景にするとグラデーションが良く分かります。
また、目の高さまで持ち上げて下から覗き込むようにするのも良いでしょう。
あらゆる角度からチェックすることで、そのワインの情報をより具体的に集めることができます。

赤ワイン

 赤ワインの場合、使用するブドウの品種や産地によって、色合いに系統が生まれるケースがあります。
例えば、フランスで言えばブルゴーニュのワインは赤みのはっきりしたルビー色、対してボルドーのワインは紫がかったガーネット色といわれています。
これは、使用するブドウの系統(ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローなど)の差や、その産地で良いとされる味や香りの系統の差で生まれるものです。
近年では同じ産地であってもいろいろなタイプのワインが造られていますが、有名で高級なワインであるほど伝統に忠実な造りになっているため、色からおおよその出身地を推測しやすくなります。

 またワインの色、特にスティルワインの色は熟成が進むにしたがって大きく変化していきます。
赤ワインの色は果皮由来のアントシアニンなどによって発色しており、このポリフェノールは時間の経過とともに重合して澱となって沈殿していきます。
つまり、赤ワインは熟成が進むごとに次第に色褪せ、薄くなっていくのです。
ただし、全ての色が退色していくわけではなく、果汁そのものの持っている色は残ります。
これは透明な樹脂がそうであるように、だんだん黄色から褐色へと変化していきます。
よって、赤ワインの色の変化は「品種や産地の特徴をうつす赤→その赤を薄めていった色と黄色の混色→さらに薄まった赤と褐色の混色→透明な褐色」となります。
色の系統はディスク手前側、水深が深くなっているところで確認し、色の変化がどれくらい進んでいるかはエッジでチェックすると分かりやすいでしょう。
丁寧に熟成された赤ワインのエッジには、赤と黄色が混じって美しいオレンジ色が表れてきます。
褐色は熟成というよりピークを大きく超えて老化が進んだものにしか表れないため、普段飲むワインではほとんど見る機会はないかも。
もし、まだそこまで古くないはずのワインが赤みを感じられない褐色を呈していたら、保管方法などに問題がなかったか確認したほうがいいかもしれません。

 色の表現としては、

  • 透明なルビー
  • 深みのあるガーネット
  • 紫がかった
  • オレンジがかった
  • 真紅
  • レンガ色

 などがあげられます。
美しく表現する場合には、「宝石の色」や「フルーツ、花の色」を組み合わせると良いでしょう。

白ワイン

 白ワインも、赤ワインと同じように産地や使用する品種によって色あいが異なりますが、ほとんど透明に近いなかにほんのり黄色やオレンジがさしている程度の白ワインは赤ワインに比べて色の差が小さく、見分けるのはかなり難しいようです。
また、同じ品種を使用した同じ産地のものでも、ステンレスタンクを使用するか樽熟成を行うか、マロラクティック発酵やシュル・リーを経るかなどによって色が変化してしまうため、傾向がつかめたとしても油断ができません。
細かい判断は味や香りをチェックするまで待ったほうが確実と言えそうです。

 白ワインも熟成によって色が変化していきます。
赤ワインと違ってアントシアニンを含まない白ワインは、熟成が進んでも退色は起こらず、果汁由来の液体そのものの変化だけが進んでいきます。
そのため、次第に色が濃くなり、「輝くような金色がかった黄色→透き通ったオレンジイエロー→琥珀のような薄茶色→透明な褐色」と変化していきます。
近年では瓶詰め前の清澄を行わず、若い状態でもかなり色が濃くでているものも増えてきていますが、いずれにせよ熟成が進むごとに黄変→褐変していくのは同じです。
白ワインの色は赤ワインからアントシアニンなどを抜いたのと同じ色なので、最終的には赤ワインも白ワインもほとんど同じ色合いになっていきます。
100年単位で熟成させたワインには、その外観からは赤か白かがほとんど分からなくなっているものもあるそうですよ。

 色の表現としては

  • レモンイエロー
  • ストロー(わら)
  • オレンジがかった
  • ゴールド
  • 琥珀色
  • トパーズ

 などがあげられます。
こちらも赤ワインと同じように「フルーツや花の色」と「宝石、鉱物の色」による表現が良いようです。

濃淡

 色合いを見る際には、同時にその濃さもチェックします。
赤ワインでは色が薄いほど、白ワインでは色が濃いほど、熟成が進んでいる証拠です。
また、濃淡はワインの産地や瓶詰め前の熟成についても教えてくれます。
赤ワインの場合、色が濃いほど温暖で日差しの強い地方で造られている可能性が高くなります。
赤ワインの色はブドウの果皮の色をうつしますが、強い日差しや高温にさらされるブドウは、果汁を守るために果皮を厚くし色をより濃くする傾向があるからです。
白ワインの場合は、果皮の色合いは関係なくなりますが、樽熟成やシュル・リーなどでタンニンを多く含むようになるほど、初期状態での色が濃くなるようです。
同じブドウを使用した同じヴィンテージの、まったく別の国や地域のワインを並べて比べてみると、その差が良く分かるかもしれません。

 表現としては、

  • 濃い
  • 薄い
  • 強い
  • 弱い
  • 深い
  • 暗い

 などがあげられます。
傾けたグラスの手前側、ワインに厚みのある部分を見て確認します。
濃淡のチェックの場合は、照明の強弱も念頭に起きましょう。
薄暗いレストランやバーの席と、太陽光の差し込む日中のパーティとでは、同じワインでもまったく違う濃さに見えてしまいます。

清澄度合(ランピディテ/Limpidite)

 ワインが澄んでいるかどうかは、基本的にはそのまま品質の高低に直結します。
澄んだ曇りのない水色は、そのワインが健康である事の証明となりますし、逆に曇ったり濁って見える場合は細菌などによる汚染を疑ったほうがいいかもしれません。
ただし、近年では瓶詰め前の清澄をほとんど、もしくはまったく行わない生産者も増えてきています。
自然派ワインに多いこの種の「無濾過ゆえの濁り」は、かえってありのままの味や香りを証明するものとして好ましく見られることが多いようです。
もちろん、それにしても強すぎる濁りが出ていたら、ちょっと注意が必要になるのは同じですが。

 表現としては、

  • クリスタルのような
  • 澄んだ
  • 透き通った
  • 曇った
  • 濁った

 などがあげられます。
赤ワインでは、若い色の濃いタイプのもので向こう側が見えない深い色を持つものがありますが、これは清澄度とは異なる特徴ですので、混同しないように気を付けましょう。

輝き

 主にディスクの光の反射を見ます。
きらきらと輝くワインはそれだけで良質に見えるもの。
実際にはワインの酸度と比例し、より酸の強いものほど輝きが増すようですが、心理的な影響のほうが大きいかもしれません。

 表現としては、

  • よく磨いたような
  • きらきらした
  • ぴかぴかの
  • ややくすんだ
  • 曇った

 などがあげられます。
素晴らしいワインであることを称える際に、ストレートに「輝きをまとった」と表現されるケースもあります。

粘性

 ワインは、含む糖分やアルコールなどの成分によって粘度に違いが出ます。
通常の飲み方で「どろどろしている」「さらさらしている」と感じるほどではありませんが、ワインの正体に迫るための重要なヒントになりますので、忘れずチェックしておきましょう。
粘度をチェックする際は、グラスのなかでワインを数回くるくると回し(スワリング)、グラスの内壁についたワインが円形に滴となっておりてくる様子を見ます。
この円形に残る跡や滴を「涙(ラルム/Larme)」、もしくは「脚(ジャンブ/Jambe)」と呼びます。
涙、もしくは脚がくっきりと長く残るほど、粘度が高く濃いワインであることが分かります。
例えば、シャブリなど寒冷地の辛口白ワインでは、涙は流れても比較的すぐに消えてしまいますが、甘みやアルコールの強いフォーティファイドワインでは、くっきりとした大粒の涙の跡がいつまでも残るはずです。

 表現としては、

  • とろりとした
  • さらさらした
  • 濃厚な
  • すっきりした

 などがあげられます。
ただし、涙はグラスの内側の状態によっても流れ方が変わり、油や洗剤が残っていると同じワインでもまったく違う形になってしまいます。
当然、他のワインを飲んだあとよく洗わずに使いまわしたりすると、前に入っていたワインの影響を受けてしまうことも。
粘度をチェックする場合は、よく洗浄した清潔なグラスを使用しましょう。