ラングドック地方

 ラングドック地方は、ローヌ川の西側からナルボンヌを越え、やや南に下ったあたりまでを含む広大な地域です。
海沿いの土地から山岳地、平野、斜面などバラエティに富んだ土地を含み、気候も地中海性の海洋気候から大陸性気候、そしてそれぞれの特徴を異なる割合で持つ独特な気候の地域もあります。
本来であればテロワールごとにまったく違う特徴を持つワインを産出する地域になっていてもおかしくないのですが、残念ながらごく最近まで全体的に特徴のない大量生産系のワインが全域で造られていました。
収穫量を増やすことを最大の目的とする栽培方法や、質を均一化するブレンドによって無個性になった安価なワインは、長く水代わりのテーブルワインとして飲まれ、現在でもフランスにおける同地方のイメージを低いままにしています。
しかし、20世紀も後半に入ったころからは人々の生活スタイル、ひいてはワインの飲み方も変化し、「水代わりのワイン」の需要も大きく落ち込みました。
こうした動きに合わせて、古代から品質向上の必要性が低かったラングドック地方でも、ようやく最新の技術や機械の導入が広がってきているようです。
それを象徴する動きとしては、AOCの細分化や新設が挙げられます。
例えば「ラングドック(Languedoc)」は、ラングドック・ルシヨン地方全体をカバーする広域AOCで、もともとは「コトー・ド・ラングドック」という単体で使用されるものでした。
しかし、近年の品質の向上に伴ってテロワールごとの差や個性が顕著になったため、「ラングドック・ラ・クラップ(Languedoc La Clape)」や「ラングドック・ピックプール・ド・ピネ(Languedoc Picpoul-de-Pinet)」などの「ラングドック+地区名」の形、もしくは「ラングドック・モンペルー(Languedoc Montpeyroux)」「ラングドック・サン・サトゥルナン(Languedoc Saint Saturnin)」など「ラングドック+区画名」の独自AOCが追加されています。
他にも、「フォージェール(Fougeres)」や「サン・シニアン(Saint Chinian)」の白、「マルペール(Malepere)」「コルビエール・ブトナック(Corbieres Boutenac)」など、今世紀に入ってからも多くのAOCが追加認定されており、急激な品質の向上が進んでいるのがわかります。

 ただ、それとは対照的に伝統的なワイン造りを行っている地域もあります。
フランスで最も古い歴史を持つラングドック地方には、少数ではあるものの独特の伝統製法を持つワインが存在します。
それも最近までは画一的な評価基準や大多数を占める低品質ワインのイメージによって脇へ追いやられていましたが、価値観の多様化、伝統の再評価などによって徐々に見直されるようになってきています。
例えば、シャンパーニュ(トラディッショナル)方式が確立する前の最も初期の手法でスパークリングワインを造っているピレネー山脈のふもとに位置する地域「リムー(Limoux)」や、かつてボルドー地方で多く行われていたシラーとのアッサンブラージュを行う「フィトゥー(Fitou)」、そしてフランスの甘口ワインであるヴァン・ド・ナチュレル(Vins doux Naturel/VDN)を造る幾つかの地域などが有名です。
こうした古い伝統は、他の地域では効率化、近代化によって消滅したものも少なくないため、近年までそうした動きから距離を置いていたラングドック地方ならではのものであるともいえるでしょう。