枝の形にも意味がある ワイン用ブドウの育成その1

目次

整枝する理由 つる性植物をコンパクトに育てるための知恵

 ブドウの樹はつる性植物ですので、放っておくと毎年細長い枝がどんどん伸びていきます。
これを伸びるままにしておくと、高い所や入り組んだ所につるが伸びて、収穫がどんどん大変になってしまいます。
また、枝同士や隣の樹などと絡み合ってしまうと、生育を妨げかねませんし、作業もできません。
また、葉が重なり合うと日光を十分に利用できないので、重ならないように形を考えながら枝を誘導する必要があります。

 ワイン用のブドウの場合、樹をあまり大きくせず果実の数を少なくして、ひと房ごと、一粒ごとにより成分を凝縮させます。
そのため、あまり高く広く枝を広げていく必要はありません。
むしろ、根から吸い上げる樹液を効率よく利用できるよう、あまり高さを出さない方が良いとも言われています。
枝を伸びるままにすると、樹の成長にエネルギーを奪われ、実が充実しないのも問題です。

 これらの理由から、ブドウ栽培は枝の形を整える剪定作業(せんていさぎょう)が必要になってくるのです。
どの枝を使用するかを決めて樹を形作ることを「整枝(せいし)」、枝の形を整える際のロジックや樹形のパターンを「仕立て」といいます。

仕立ての形と特徴 もっとも代表的な三つの仕立て方

 枝を剪定して形を整えるというと、盆栽などが思い浮かぶかもしれません。
でも、見栄えをよくするために枝や葉を落とす盆栽と、より良質な実を収穫するためのブドウの仕立てでは、目的がまったく異なります。
ワイン用ブドウの樹形は、こうしなければいけない、という決まりがあるわけではありませんが、地域や品種によっていくつかのパターンに分かれます。

ギュイヨ・サンプル(guyot simple)

 ブルゴーニュ地方を中心に、世界的にも広く普及しているポピュラーな仕立て方。
「ギョイヨ」はこの方式を確立した博士の名前で、地方によって「ギヨー」「グイヨ」とも呼ばれます。
「サンプル」はひとつ、とか一本、という意味。
その名の通り、主幹(地表から一番上の主枝までの部分)から最終的に結果枝(果実をつける枝)をつけるための亜主枝(主枝から生えて結果枝や側枝を出す枝)(バゲット/baguette)を一本と、成長したらその役目を引き継ぐ予定の亜主枝(クロッシェ/crochet)を一本だけ伸ばして、他を落とす形状です。
長く伸びているバゲットにだけ結果枝をつけさせて、ワイヤーや垣根に誘引して上向かせるので、少量の果実を実らせて管理し収穫する、という目的に対して一切無駄のない、非常に合理的な形になります。
収穫が終わった結果枝は剪定し、その根元が次の年の結果枝を伸ばすための結果母枝(結果枝をつける枝の一種)になりますが、土台になっているバゲットは何年もそのままにしておくと疲弊してしまいます。
そこで、予備の亜主枝であるクロッシェを伸ばしておいて、準備が整ったらバゲットを剪定して役割を譲ります。
(当然、そのときにはさらに次のクロッシェをひとつ確保しておきます)
この方式で仕立て続けると、基本的に収穫を行う枝の高さが何年経っても変わりません。
そのため、50年以上ブドウを実らせてきた古木と最近実をつけ始めたばかりの若木が並んでいても、なにも変わらず作業を行うことができるのです。
畑に機械や車を入れやすくなり、いろいろな作業も効率的に行えるので、質の良さに対して価格を押さえられるという利点も。
ちなみに、ボルドー地方や土壌に余力のある場所では、バゲットを二本仕立てにする「ギュイヨ・ドゥーブル(guyot double)」という方式をとっている所もあります。

ゴブレット(ゴブレ)

 ボージョレー地方などフランス南部や、イタリア、スペイン、カリフォルニアなどで見られる方式です。
主幹と3~5本の短い主枝を残して剪定(せんてい)してしまうことで、主枝の先端が結果母枝になり、毎年そこから結果枝を生やします。
樹の形が、足つきのグラスのように見えることからその名が付きました。
昔からある伝統的な仕立てで、このようなパターンのものを「株仕立て」と呼びます。
かつてはヨーロッパ中で使用されていましたが、樹形のコントロールが難しいことや作業の機械化に向かないことなどから、現在はギュイヨやコルドンなどの垣根式に切り替える生産者が多くなりました。
葉が株を包み込むように付くため、中に実るブドウの実を強すぎる日差しから守ることができます。

コルドン・ド・ロワイヤ(cordon de royat)

 ギュイヨと同じ垣根式の仕立てです。
これも世界中でメジャーな方式の一つで、シャルドネなどの品種に用いられます。
主枝(ブラ/bras)を横に伸ばし、そこから上に向かって結果母枝(クロッシェ/crochet)を短く伸ばします。
あとは毎年、収穫後の結果枝のうち一本をクロッシェとして短く残して剪定していきます。
ギュイヨ・サンプルから派生したような樹形になりますが、ブラを何年も残し続けるのが大きな特徴。
そのため、平均的に体力のある品種でなければなりません。
剪定がシステマチックでわかりやすいため、作業者に臨時雇いの人が多くなるような大きな畑などで有利です。
ブラは年を重ねるごとに太く頑丈になっていくため、機械による作業にも向いています。
ただし、剪定の方向や長さを間違えると、年を追うごとに望ましくない方向へ伸びていってしまう可能性もあり、そうなると一度根本で切り落として主枝を仕立て直さねばならないので注意が必要です。
ギュイヨと同じように、ブラを一本ではなく二本、左右に伸ばすドゥーブルもあります。

 他にも、大きな区分としては日本の食用ブドウなどでよく見られる「棚仕立て」(頭上の高さに広く枝を伸ばす方式)があります。
また、パターンは同じでも、作業効率やブドウ作りに関する考え方の差などで、畑ごとに微妙に違うアレンジがはいっていることも多いようです。

 枝を整える剪定(せんてい)は12月から1月にかけて、畑にある全てのブドウの樹に対して一本一本手作業で行っていきます。
樹形を思い描きながら、芽の位置や樹勢なども考慮しつつ、できるだけ短時間で剪定していくこの作業は、単純作業のように見えながら神経をすり減らす非常に大変な作業です。
こうした、地道で忍耐力を要するひとつひとつの作業が、翌年の秋にたっぷりと果汁を溜め込んだブドウとして、文字通り結実するのです。