フランスの地域データ 位置、歴史、気候など

目次

フランスとは

 フランスは、西ヨーロッパに位置する共和国です。
スペイン、イタリア、ドイツ、スイス、ベルギー、ルクセンブルク、そして海を隔ててイギリスと国境を接しており、国土面積は世界51位の約55万平方キロメートル。
ヨーロッパの歴史上、常に大きな役割を演じてきた主要な国家で、ドイツ国境付近のアルザス地方、ストラスブールにはEU議会の会議所が置かれています。
国土のほぼ全域にブドウの栽培に適した土地が存在し、主要産地は大きく分けても10にのぼります。
近年は価値観の多様化や気候条件の変化などにより、生産量やシェアの面で減衰が見られる部分もありますが、それでもワインに関する歴史や技術、規則、品質、価格などの面でフランスが占める地位は揺るがしがたく、現代のワイン文化において世界で最も重要な国のひとつであることは間違いありません。

フランスのワインに関する歴史

フランスの主要な生産地に関する歴史は、それぞれのページでご確認ください。

シャンパーニュ地方の歴史はこちら
ブルゴーニュ地方の歴史はこちら
ローヌ地方の歴史はこちら
ラングドック・ルシヨン地方の歴史はこちら
ボルドー地方の歴史はこちら
ロワール地方の歴史はこちら
アルザス・ロレーヌ地方の歴史はこちら
ジュラ・サヴォワ地方の歴史はこちら
プロヴァンス地方、コルシカ島の歴史はこちら
南西地方の歴史はこちら

フランク王国誕生以前

 フランスのワインに関する歴史は、その重要度の高さから、紀元前後からのワインの世界史と大部分が被ります。
ワインは世界中で愛され、各地でそれぞれの歴史と文化を育んできましたが、現代のワイン文化の中心地は常にフランスにあったと言っても過言ではないでしょう。

 現在のフランスに相当するガリア地方にワインが伝わったのは、まだ建国前の西暦前600年頃。
今で言うプロヴァンス地方のマルセイユ付近からのことでした。
ローマ帝国が領土を拡大する中、ワインの需要もどんどん伸びていきますが、当時はまだ栽培技術が十分ではなかったため、育つに任せてもちゃんと実ってくれる南部の各地方でブドウを栽培し、ワインの状態でアンフォラという素焼きの容器に詰められ、船で川を遡って北部の地域へと届けられていたようです。
しかし、ブドウの品種改良、醸造技術の発達、そしてキリスト教の普及によってじわじわと栽培範囲が広がり、北部でもワインが造られるようになっていきます。
5世紀後半に現フランスの前身であるフランク王国が誕生する頃には、ブドウの栽培とワイン造りはガリアの各地に広まっていました。

頭角を現し始める主要産地

 フランスはブドウ栽培に適した土地があちこちに存在したため、中世以前から多くの名醸地が知られるようになっていきます。
東部側を中心とする多くの産地では、キリスト教、特にベネディクト派の修道士が各地にブドウ畑を開墾し、発展させました。
特にブルゴーニュでは、ベネディクト派の分派であるシトー派がコート・ドールの畑をチェックして特別な区画を塀で囲み、他の産地と区別した「クロ」が生まれます。
また、アヴィニョンでは14世紀に教皇座がおかれたことで、周辺地域のワイン造りが急発展。
それまでの南部地域らしい平凡なワインから、長くフランス貴族界でその名を知られるような名ワインの産地へと生まれ変わったのです。
一方、西部の側では政治的な理由により歴史が動きます。
ボルドー地方や南西地方は、1152年のアキテーヌ女公と後のイギリス国王との結婚により300年に渡ってイギリス領になります。
その際に、イギリス王室に忠誠を示して開拓の援助と大きな市場での優先権を得たボルドー地方が大きく発展し、それまで名醸地として優位にあった南西部の各生産地区との立場を逆転させました。
最終的には1453年の百年戦争の終結により、ボルドー地方周辺を含む南西地方はフランス領に戻りますが、この期間の影響からボルドー地方はフランス国内でも一、二を争う有名産地となり、南西地方は「南西部」としてひと括りにされるという決定的な差がついてしまいました。

貴族のワイン文化と高級化

 15世紀以降はフランス王家の力が強まり、ルイ14世の時代には絶対王政が敷かれるようになります。
この時期には周辺への積極的、かつ攻撃的な領土拡大や都市の発展、近代化などが起こり、支配階級は庶民とまったく違う贅沢な暮らしをしていました。
各地の宮殿や城では舞踏会が頻繁に行われ、質の高いワインは貴族達の間で流行してさらに名声を高めていきます。
選ばれるワインは、最初は古くから名醸地として知られてきた産地のものでしたが、次第にブルゴーニュ地方やボルドー地方など、どちらかというと新興産地に注目が移っていきます。
通常の嗜好品の枠を大きく越える高級なワインが、ボルドー地方を中心に造られるようになるのもちょうどこの頃です。
17世紀にはすでに海を渡って盛んに交易が行われるようになっていましたので、そうした流行はもはや国内に留まらず海外にまで波及していきました。
ガラス瓶の普及やコルク栓の利用、それにともない発明されたシャンパーニュ地方のスパークリングワインの流行もあり、フランスワインの世界ワイン市場での需要と影響力がさらに高まることになります。

フランス革命と格付けのスタート

 しかし、そうした恩恵にあずかれるのは飽くまで一握りの支配階級だけでした。
都市部では異常なほど高い税がワインにかけられ、一般市民は市内でワインを飲むのが難しいほどの状況でした。
庶民は税金逃れのため郊外で営業する臨時居酒屋で、質の悪いワインや搾りかすを再利用した酒を飲むのが一般的だったのです。
こうした圧迫された生活状況や、贅沢と戦争で浪費を繰り返す貴族達への不満、都市が発達したことによる権利意識の高まりなどが積もり積もって、ついに18世紀末にフランス革命が勃発。
新政府によって貴族や修道院所有の多くのブドウ畑が没収され、市民の手によって運営されるようになりました。
この頃には「テロワール」の概念も知られていたため、政府側としてもできるだけ畑ごと、区画ごとに新しい所有者に買い取ってもらうべく、あえて競売にかけて販売しましたが、結局その後の相続や売買の繰り返しでどんどん細分化が進んでいってしまいます。
特に評価が高く購入希望者の多かったブルゴーニュの畑はその傾向が著しく、現在では非常に小さな区画が大量に生まれ、一番ひどいところでは一区画を100人近い所有者で分け合うというような状況になっています。
また革命直後には、それまで主導的だった修道院からワイン造りを行ったことがない市民へと経営が移ったことで品質が低下するのを防止するため、国家主導で低温殺菌法(パストゥリザシオン)や品質を安定させるための補糖などが広められました。
さらに1855年には、第一回パリ万国博覧会に合わせてボルドー地方のメドック地区、ソーテルヌ地区の格付けが発表され、高品質なワインの産地としての地位をアピール。
世界的な知名度やブランド力を磐石のものとしました。

フィロキセラ大災害

 しかし、1860年代に思いもよらない大きな事件が発生します。
ローヌ地方を通じて輸入されたブドウの苗についていたフィロキセラが、フランス中のブドウ畑で猛威を振るい始めたのです。
ブドウの樹の根に寄生してわずか数週間で枯らしてしまう上、土壌に住み着くため新しい気を植えても育たず、有効な薬品もなく、成長すると羽虫となって飛び回るフィロキセラは、被害が確認されてからわずか10年余りでフランスだけでなくヨーロッパ中のブドウ畑を壊滅状態に追いやってしまいます。
特に発生源として被害の甚大だったフランスでは、度重なる植え替えやほとんど収穫のない年が続く事態に経済的にも心理的にも追い込まれ、多くの生産者が廃業を余儀なくされました。
そして、接木によってなんとか被害が沈静化した後も、フランス国内ではワインが大幅に不足し、周辺の国々からの低品質なワインや、原料・添加物・製法などに問題のある「ワインもどき」の流通が問題となります。
こうしたワインもどきは価格が非常に安かったため、フランス産のワインの供給量が元に戻った後も市場に出回り続け、せっかくフィロキセラ災害を生き残った生産者を苦しめました。
最終的には死者まで出した大規模なデモの末、政府が折れる形で1935年にAOC法が制定。
それ以降、ヨーロッパ諸国におけるワイン法のお手本となります。

世界のワインをリードするフランス

 フィロキセラ災害からの回復にかかった時間は地域ごとに異なり、遅い地域は第二次世界大戦終結後もしばらく荒廃したままの状態でしたが、戦後の需要増加と設備・技術の近代化によって、20世紀後半にはおおむね復活。
ヨーロッパ諸国だけでなく「新世界」と呼ばれる新しい産地との競争も激しさを増してきているが、依然として世界一のワイン産地としての地位を保ち続けています。

フランスのテロワール

 フランスはヨーロッパ諸国の中でも、特に広大な国土を誇る国のひとつです。
そのため、産地ごとにまったく違うテロワールを持ち、そこから生み出されるワインも非常にバラエティ豊かです。
緯度的には日本の北海道と同じかそれより高緯度の地域になりますが、日本より全体的に温暖な地域が多く、かなり北部でもブドウの栽培が可能となっています。
気候は大西洋や地中海の沿岸部では海洋性の気候、内陸部では大陸性気候で、両方の特徴が混じりあう産地も少なくありません。
平均して乾燥した暑い夏を持ち、特に収穫期に一貫して雨が少ないことが、ブドウの品質を大きく向上させています。
川が浸食してできた急な斜面や、逆になだらかな平野部、標高の高い丘陵地帯など、畑が造られる地形はいろいろとありますが、特筆すべきは主要な産地に散見される石灰質土壌。
石灰質の土壌は水はけが良く、豊富なミネラルによってブドウに複雑味やコクを与えてくれるワインの産地としてもっとも良質な地質のひとつとされていますが、世界のブドウ栽培可能地域のうち数%しかないとされているこの地質の、実に過半数がフランスに集中しているのです。
そのほか、砂利質や砂礫質、粘土、花崗岩、片岩、火山岩などバラエティ豊かな地層がミルフィーユのように折り重なった土地が多く、フランスのワインを他の国や地域ではなかなかまねできない、唯一無二のものにしています。