メリディオナル(ローヌ南部)地区 ローヌ地方のワイン産地2

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メリディオナル(Meridional)地区

 ローヌ地方の中心付近に位置する都市モンテリマールから南下し、アヴィニョンをすこしすぎたあたりまで、東西に菱形に広がった地域を「メリディオナル(Meridional)地区」と呼びます。
地中海性気候の、厳しい暑さと雨の少ない夏を大きな特徴とし、北部と同じく北風「ミストラル」によって病害から守られている地域です。
ローヌ川の右岸と左岸では土壌の様相がことなり、右岸地域では基本的に石灰質の砂利や石、左岸地域ではもっと大きくサッカーボール大くらいまでのごろごろとした大きな石が表土を覆っています。
特に左岸ではこの石が日中の強い日差しを受けて温まり、夜間に気温が下がった後もブドウの熟成を促すという、他の地域とは一風異なる特徴があります。
このため、気候条件以上に果実の完熟が進み、北部地区と同じように濃厚なワインを産出することができるのです。

 シラーをメインで使用し、それ以外はほぼ補助でしか使えない北部地区と異なり、南部地区は20種類近い多様な品種を使用することができます。
特にアヴィニョンに教皇座が移ってから三代目のクレメンス6世が別荘を置いていた「シャトー・ヌフ・デュ・パプ(Châteaunuef du Pape)」では、限定的なAOCではかなり珍しく13種類もの品種の使用が許されています。
ただ、実際にはグルナッシュが圧倒的に多く、栽培面積の80%以上を占めています。

メリディオナル地区の主要産地

コート・デュ・ヴィヴァレ(Cotes du Vivarais)

 南部地区、ローヌ川右岸側のうち、もっとも北側にある地区です。
AOCへの昇格が1999年と比較的新しく、あまり知名度が高くありません。
赤ワインが生産量の80%以上を占めますが、ロゼワインや白ワインも少量造られており、種類ごとに最低限使用しなければいけない品種やその割合が定められています。

グリニャン・レ・ザデマール(Grignan les Adhemar)

 南部地区、ローヌ川左岸側のうち、もっとも北側にある地区です。
1973年にVDQS(Vins délimités de qualité supérieure)からAOCに昇格したアペラシオンで、2010年以前は「コート・デュ・トリカスタン(Coteaux du Tricastin)」と呼ばれていました。
南部地区ではありますが、まだ北部側に近いためそちらよりの特徴も持っています。
シラーとグルナッシュで70%以上を占めていれば、バラエティに富んだ候補の中からいろいろなブレンドを行える点は、南部地区らしいといえるでしょう。

ヴァンソーブル(Vinsobres)

 南部地区の北側、ローヌ川左岸に位置する区域です。
南部地区では唯一の赤ワインだけが認定されたアペラシオンとして知られています。
北風「ミストラル」の影響を強く受ける土地で、その冷涼さが育む印象的な酸味が特徴とされています。
2006年にAOCに昇格したばかりなので、あまり知名度は高くありません。

ラストー(Rasteau)

 南部地区の北側でローヌ川の左岸、そしてローヌ川に注ぐ支流のウヴェーズ川から見ると右岸に位置する区域です。
ローヌ川左岸の畑らしく、土壌表面の石が保温の効果をもたらしてくれている地域です。
もともとヴァン・ドゥー・ナチュレル(Vin doux Naturel/VDN)で知られたAOCでしたが、2010年から赤ワインも昇格し加わりました。
VDNはグルナッシュ100%。
ただし、グルナッシュ・ノワール、グルナッシュ・グリ、グルナッシュ・ブランと、タイプに合わせたグルナッシュが使用されています。
赤ワインはグルナッシュを50%以上使用し、シラーやムードヴェードルをブレンドすることで果実味豊かな味わいになります。

ジゴンダス(Gigondas)

 南部地区の中央付近、ローヌ川左岸の産地です。
自然公園に近い南東側はガリッグと呼ばれる白亜紀の石灰質の斜面、北西側は砂利質や砂質の平野になっています。
造られているのはほぼ赤ワインですが、ロゼワインも少量生産されています。
グルナッシュを主体にシラーやムードヴェードルをブレンドしたタンニン豊かなどっしりとした酒質が特徴です。

ヴァケイラス(Vacqueyras)

 南部地区の中央付近、ローヌ川左岸の産地です。
アヴィニョンに教皇座が移されてからフランス革命までは教皇領だった土地で、水路などの整備が進んだ、発展した農業地としても知られています。
ジゴンダスの南西側に接する地域で、ガリッグの土壌など共通する部分も多くなっています。
ジゴンダスよりはグルナッシュの配合割合が低く、畑がなだらかな平野に造られていることもあり、やや口当たりのやさしいタイプの赤ワインがメインです。

ボーム・ド・ヴィニーズ(Beaumes de Venise)

 南部地区の中央付近、ローヌ川左岸の産地です。
ジゴンダスの南東側に接する地域で、より標高が高い場所に位置しているため、ローヌ地方の南部地区としては比較的繊細な、さっぱりとしたタイプのワインを産出します。
もともとは「ミュスカ・ド・ボーム・ド・ヴィニーズ(Muscat de Beaumes de Venise)」という赤と白のヴァン・ドゥー・ナチュレル(Vin doux Naturel/VDN)で知られる地域でしたが、2005年に新たに赤ワインが認定されました。

シャトー・ヌフ・デュ・パプ(Chateau neuf du pape)

 ローヌ川左岸で南部地区の中央付近、アヴィニョンから少し北上したあたりに位置する区域です。
アヴィニョンに移ってから二代目の教皇、ヨハネス22世の建てた城があることから「教皇の新居(の城)」という名がつきました。
こぶし大から大きいものではサッカーボール大にもなる丸石が表面を覆う土壌が特徴で、これが日中の陽光を吸収してカイロの役割を果たし、夜間でも果実の熟成が進みます。
メインとなるグルナッシュのほか、ピックプール、ピカルダン・ブラン、ブールブーラン、ルーサンヌ、クレレット、シラー、ムールヴェードル、サンソー、ヴァカレーズ、クノワーズ、ミュスカルダン、テレ・ノワールの合計13品種のブドウの使用が許されており、これはフランスのAOCワインの中で最多です。
このうちの幾つかの品種を使用しても、あるいは全ての品種をブレンドしても良く、グルナッシュがメインとなる以外はそれぞれの比率も様々なので、生産者によって大きく特徴の異なるワインが造られています。

リラック(Lirac)

 南部地区の中央西部、ローヌ川右岸にある地域です。
中世の頃は大いに栄えた河港町で、周辺地域のワインの多くがここから出荷されていきました。
しかし、1860年代に輸入したブドウの苗木にフィロキセラが寄生していたことから、ヨーロッパ中のワイン産業を大混乱に陥れたフィロキセラ災害の発生地となってしまいます。
もっとも長い期間フィロキセラの脅威にさらされていたため、フランスの他の地域よりも被害の度合が大きく、回復までに長い時間を要しました。
現在では復興を果たし、対岸のシャトー・ヌフ・デュ・パプに似たタイプの濃厚で長期熟成型のワインを生産していますが、知名度はいまひとつ上がっていません。
赤ワインが主流ですが、白ワイン、ロゼワインも少量造られています。

タヴェル(Tavel)

 南部地区の中央西部、ローヌ川右岸にある地域です。
ロゼワインだけが造られる珍しい産地で、ロゼとしては最も早い1936年にAOC認定されています。
リラックの南側に接しており、中世には司祭の領地だったことや王族、貴族にも飲まれていたことから、リラック同様に栄えた地域でした。
フィロキセラの被害も大きかったのですが、ロゼワインのブームによって復興を果たします。
プロヴァンス地方などとことなり辛口でしっかりしたタイプのロゼワインで、良質なものは10年前後の熟成にも耐えることができます。
ヌーヴォーが造られることでも有名です。

ヴァントー(Ventoux)

 南部地区の東部、アヴィニョンの東側に位置する広大な地域です。
石灰質の丘陵地帯にあり、やや冷涼な気候が軽めのワインを育んでいます。
世界的自転車レースのツール・ド・フランスの山岳コースとして有名なモン・ヴァントゥのふもとも畑に含まれます。
基本的には気軽な早飲み系ワインが大半ですが、生産者によっては価格以上の品質を持つエレガントな有良ワインに出会えることもあります。

リュベロン(Luberon)

 南部地区の東部、アヴィニョンの東側でヴァントーの南側に位置する地区です。
ローヌ地方南部地区でもっとも東側にある区域で、北風「ミストラル」の影響が強い地域のひとつでもあります。
地理的に近いことからプロヴァンス地方の特徴も混ざっており、ローヌ地方の他の地域と異なりシラーをメインとした赤ワインを生産しています。
非常に美しい自然で知られており、パブロ・ピカソやピーター・メイルなど数々の芸術家、作家の作品モチーフとなったことで有名。
2006年に公開された同地を舞台とした映画がヒットしたことから知名度が上がり、それに比例して新たなワイナリーなども増えてきており、品質の向上も期待されています。

コスティエール・ド・ニーム(Costieres de Nimes)

 ローヌ川の右岸側、ローヌ地方全体でもっとも南に位置する産地です。
ワイン生産の歴史はローヌ地方でも最も古く、南のプロヴァンス地方やラングドック・ルシヨン地方に近いテロワールを持ち、ブドウの栽培との相性はローヌ地方でもトップクラス。
しかしそれゆえに近年まで品質のあまり高くない、大量生産のデイリーワインを造る地として知られていました。
その位置的、実情的な理由から、ローヌ地方ではなくラングドック地方の一部として扱われるケースもあるほどです。
赤ワインがメインですがセニエ法で造られるロゼワインも生産量が多く、クレレット100%で造られる白ワインは生産量はわずかですが独自のAOCを持ちます。