山梨県 日本のワイン産地4

目次

山梨県とは

 山梨県は、日本の中部地方(甲信越地方)に属する県です。
日本では珍しく海に接していない内陸県、いわゆる「海なし県」で、四方を高い山々に囲まれた山岳地主体の土地を持っています。
そのため、人が住むことのできる面積は非常に少なく、人口も100万人に満たないのですが、その分農業に適した土地が多くなっており、ブドウはもちろん桃やさくらんぼなどの生産でも知られています。
現在、日本におけるブドウの栽培面積、(食用を含めた)ブドウの生産量、ワインの生産量の全てでダントツの一位。
また、平安時代に輸入され野生化・自然交配した「甲州」が発見された地であり、日本で一般的な仕立て方の「棚仕立て」の発明や日本初の本格的な醸造所が設立されるなど、名実ともに日本ワインの歴史上もっとも重要な地であることは間違いないでしょう。

山梨県のワイン造り

 山梨のワイン造りの歴史は、12世紀に山中で甲州が「発見」されたところから、近年の品質の急激な向上に至るまで、ほとんど日本のワインの歴史と被ってしまいます。
山梨県はそれくらい日本のワインにとって重要な地域なのです。
もともと土地のほとんどが山岳地で稲作に適さなかったことから、山の斜面でも植えられる果樹のほか、養蚕が発達していた土地でした。
近代化以降は桑畑から果樹園へと転向する形で果物の生産が増えており、甲州などのブドウの栽培拡大がワイン産業の足がかりとなったようです。
1870年に日本で初めての醸造所である「ぶどう酒共同醸造所」が甲府に設立された後、需要の少なさや品質の低迷に苦しみながらも次々に醸造会社が生まれ、70年後の1940年には約3700軒もの醸造場が軒を連ねていました。
さらに、地形的に他の作物用の農地や工場などへの転化が難しいこともあってか、第二次世界大戦中も(酒石酸の生産が主目的ではあるものの)ワイン造りが奨励されたため、他の主要産地と違ってワイン産業へのダメージが少なかったのも、他の産地と差が付いた大きな原因となったといえるかもしれません。
戦前のフィロキセラ災害や関東大震災、戦後の物資不足などに悩まされつつも、順調に発展を続けた結果、現在では第二位の長野県に倍以上の差をつけてダントツのブドウ・ワインの生産量を誇る主要産地となったのです。
現在は、甲州市を中心に80以上のワイナリーが醸造を行っています。

山梨県の主要なブドウ品種

 山梨県で最も多く生産されているのはやはり「甲州」です。
1186年に勝沼の雨宮勘解由(あまみや かげゆ)によって「発見」され、江戸時代までは食用、観賞用としてこの地域の名産として愛されていた甲州は、総生産量の90%が山梨産となっており、ワイン用ブドウとしても山梨のシンボルとなっています。
そのほか、ブドウの栽培に適したテロワールを生かしてヨーロッパ系品種を中心に様々なブドウが栽培されていますが、2017年現在では日本で唯一のワインに関する地理的表示制度の関係で、アメリカ系品種や交配品種については「マスカット・ベーリーA、 ブラック・クイーン、ベーリー・アリカントA、甲斐ノワール、甲斐ブラン、サンセミヨン、デラウェア」以外の品種を使用すると「山梨」という表示をすることができません。
そのため、生産量1位と2位の「甲州」と「マスカット・ベーリーA」以外は、ヨーロッパ系のメジャーな品種が多くなっているようです。
また、近年ではミューラー・トゥルガウなどヨーロッパでも北部で主に栽培されている品種が気候的に相性が良いということで、徐々に栽培面積が増えてきているようです。

山梨県のワイン造りの強み

 山梨県は2000m級の山々に周囲を囲まれており、土地の8割以上が山岳地に該当する県です。
お隣の長野県と同じように水はけと日当たりの良い斜面に恵まれ、標高の高さによる昼夜の寒暖差などもあいまって、日本では類を見ないほどワイン用ブドウの栽培に適した地域となっています。
また、その険しい地形から明治以降の都市化が遅れ、大規模な農業に適した土地が多く残っています。
そのため、高品質なブドウはもちろん、一定以上の品質のブドウを大量に生産することも可能で、サントリーやマンズワインなどワイン生産量で上位5位に入るような大規模ワイナリーの主要なブドウ畑が山梨県内に作られているのです。
また、それとは裏腹に関東圏の大都市ともアクセスが良いことから、他の主要産地よりも流通の面で優位であるともいえます。

 梅雨時の湿度の面では、残念ながら山梨県は北海道や山形県のような優位性はありません。
湿度が高く、長雨で地面近くの病害のリスクが高いことは、江戸時代初期に「棚仕立て」が考案され広く採用されるようになったことからもよく分かります。
しかし、梅雨の影響が少ない地域に比べて南に位置する分、日照については主要産地の中でもっとも恵まれています。
日当たりが良い斜面の畑が多いこともあり、長期間の熟成が可能となるような十分な力を蓄えたブドウを収穫することができ、それが山梨県産のワインの高い評価に繋がっているのです。
実際、2013年には日本初のワインに関する地理的表示制度がスタートしましたが、その中で「山梨」の表示を使用する場合は「山梨県産のブドウを100%使用していること」と指定されています。
また、長期間の熟成を行えることを示すように、山梨県ワイン酒造組合が運営するサイトで山梨のヴィンテージチャートも公表されています。

山梨県のワイン造りの問題点

 山梨県は地形的に大規模な産業が行いにくく、ブドウなど果樹の栽培のほかにはミネラルウォーターや精密機器の生産くらいしか目立った産業がありません。
そのため、全国的な流れよりも急速な高齢化と人口減少が問題となってきています。
特にここ10年ほどは世帯数は増えているのに人口が減り続けるという危険な状況が続いています。
山梨県のワイナリーは、中小の農家というよりは大規模なものが多く、高齢化が即産業の縮小に繋がることはないかもしれません。
しかし、ワイン造り、特に高品質なワイン造りは多くの人手を必要とするものです。
せっかく国内の市場が成熟し国産ワインにも注目が集まり始めている現在、生産の拡大や品質の維持に向かうための労働力の確保、そして若い世代への訴求は急務といえるでしょう。