ソーヴィニヨン・ブラン 世界的に主要な白ワイン用ブドウその2

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ソーヴィニヨン・ブランとは

 シャルドネ、リースリングに並ぶ、世界三大ワイン用白ブドウのひとつです。
ボルドー地方発祥の品種で、かつてはフランス北部の地域で特徴的な白ワインの原料として知られていました。
ただし、現在のこの品種の中心地は、原産国であるフランスではありません。
1971年、アメリカのカリフォルニアで造られたソーヴィニヨン・ブラン単独使用のワインが、非常に高い評価を得ることに成功すると、それに追随する生産者によってムーブメントが発生。
アメリカだけにとどまらず、南米諸国や南アフリカなど「新世界」の各国、そして逆輸入的にヨーロッパにまでソーヴィニヨン・ブラン単独使用の波が広がっていきます。
さらに90年代、ニュージーランド南島の北東にあるマールボロ地区で73年から栽培されていたソーヴィニヨン・ブランから、他の国や地域を軽く凌駕するような傑作が誕生し、世界をあっと驚かせました。
その衝撃は、あっという間にニュージーランドを新時代の白ワインの中心地にしてしまうほど。
今でもソーヴィニヨン・ブランといえば、フランスでもアメリカでもなく、ニュージーランド、なのです。

 ソーヴィニヨン・ブランは、シャルドネと同じように気温などで香りや酸味の傾向が変化しますが、どんな場所でも変わらないこの品種独特の特徴として、「青草のような香り」を持つブドウでもあります。
この、特徴的な「青草の香り」は、果実が未熟な状態で収穫したりワインとして熟成し損ねたりすると強くなり、焼いたゴムのような、腐ったたまねぎのようなとにかく不快な香りに変化してしまうこともあります。
実はこの香りは、「チオール」と呼ばれる成分が関係しています。
この成分はブドウ以外にも様々な環境に存在しますが、主に有機的な悪臭の成分として知られているもので、本来ならできるだけ消してしまいたいものと考えられていました。
しかし研究が進むと、悪臭だけではなくさわやかな「青い」香りや、温暖な気候で日に当てて育てたときに醸される南国フルーツ系の香りのもとにもなっていることがわかったのです。
そこで、この成分を分析していたボルドー大学の研究者が中心となって、チオール系のよい香りを引き出す製法が考案されました。
それは、チオールが最大になる頃合に収穫し、圧搾後もしばらく固形成分(マール)を果汁に漬け込んでおくことで、主に果皮に大量に含まれているチオールを最大限溶出するというものです。
また、チオールは銅や酸素に触れるとたちまち香りが消えてしまうので、栽培中に硫化銅が含まれる「ボルドー液」と呼ばれる農薬を避けたり、発酵を小さな樽で行いそのままかき混ぜつつ熟成させる「バトナージュ」という製法をとることも重要です。
こうして造られたソーヴィニヨン・ブラン100%のワインは、独特のさわやかな青草の香りに加えて、パイナップルやマンゴーに例えられる甘い南国系の香りを持つようになるのです。
この手法は現在では広く知られるようになり、多くの地域で取り入れている生産者がいます。

 ちなみに、チオールが多く含まれるということは、熟成に失敗すると前述した悪臭がさらに酷く出る恐れもあるということです。
万が一そんなワインに当たってしまった場合は、チオールが銅に弱いという作用を利用すると解決する場合があります。
グラスに注いだワインを、磨いた銅製のスプーンなどで軽くかき混ぜてみてください。
ほんの数秒で、悪臭がうそのように消えてしまいます。

世界のソーヴィニヨン・ブラン

フランス

 ソーヴィニヨン・ブランの原産地はボルドー地方ですが、この品種から連想されるフランスの産地は、ロワール地方、サントル・ニヴェルネ地区のサンセールとプイィ・フュメです。
アメリカでの大ブレイクが起こるずっと前から、ソーヴィニヨン・ブラン単体のワインを作っていて、現在でも生産されている白ワインは全てブレンドなしとなっています。
柑橘系に近い酸味と印象的な香りを持つすっきりとおいしいワインですが、上位互換のような特徴を持つニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランが登場したあとは、残念ながらあまり注目されることはなくなってしまいました。
しかし今でも、昔のままの方針で良質なワインが造られています。

アメリカ

 1971年に白ワイン界の大事件を引き起こしたのが、アメリカ、カリフォルニアのロバート・モンダヴィでした。
以来、カリフォルニアでのソーヴィニヨン・ブランの作付け面積は増え続け、「事件」以前は300ha程だったものが、半世紀ほど経った2011年では6000haをゆうに越えています。
すっかり本家を超えた感がありますが、もともと最初のロバート・モンダヴィが造って絶賛されたワインは、フランスのプイィ・フュメをリスペクトしたもので、現在でも樽での熟成を経たものは「フュメ・ブラン」の名を冠することが多いようです。
樽香の有り無し、ある場合は強弱、酸味の残し方、チオールを重視するか否かなど、さまざまな特色を持ったワインが造られています。

ニュージーランド

 現在のソーヴィニヨン・ブラン、さらには「新世界」における白ワインの最重要地です。
ワイン造りの歴史はあまり古くなく1800年頃といわれており、ソーヴィニヨン・ブランの栽培もアメリカでの大ブレイクよりあと、1973年に開始されました。
驚くべきことに、現在ニュージーランドのワイン用ブドウ作付け面積の65%以上を占めているマールボロ地区のブドウ栽培も、この73年がスタートの年でした。
現在ではニュージーランド全域で栽培されるブドウのうち1/2以上、輸出されるワインのうち80%以上がソーヴィニヨン・ブランです。
複雑でさわやかな香りとはじけるような果実味、印象的な酸味をもつマールボロのソーヴィニヨン・ブランは、誰もが一度は試してみたい白ワインだといえるでしょう。