シャルドネ 世界的に主要な白ワイン用ブドウその1

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シャルドネとは

 フランスのシャンパーニュ地方からブルゴーニュ地方にかけて原産の品種です。
果実は早熟で寒冷地から温暖地まで適応するため現在は世界中で栽培されており、「白ワイン用ブドウ品種の女王」とも呼ばれています。
ブルゴーニュ地方のシャルドネ村が原産と考えられていますが、この村の原産だからブドウがシャルドネになったのか、シャルドネというブドウの原産地だったから村がシャルドネ村になったのかは定かではありません。
近年の研究により、ピノ種とグアイス・ブラン(Gouais Blanc)種というクロアチア原産の古代種ブドウとの交配によって生まれたことがわかっています。

 シャルドネは品種そのものの固有の特徴というものがほとんどなく、その土地のテロワールに影響されて、驚くほど特徴を変化させる品種です。
例えば気温の変化。
フランスのシャブリ地区のような冷涼な気候だと、レモンやライムのような酸味とさわやかな風味、南仏やカリフォルニア州のような温暖な気候だと、南国フルーツの酸味と桃のような風味を持ちます。
特に柑橘系の酸味は、時として生牡蠣など強い生臭みを持つ魚介類などにさえ合わせられるほど。
近年は(特にアメリカなどで)この酸味の元となるリンゴ酸の刺激的な酸を嫌って、マロラクティック発酵でマイルドな乳酸に分解してしまうため、口に入った瞬間にきゅっとなるようなものはあまり市場では見かけませんが、本来はそこまでの酸味を作り出せる品種なのです。
そして、そんな酸味を一度味わってから温暖な地域で作られたまろやかなワインを飲むと、同じブドウからここまで違う味わいが生まれるのかと驚くはずです。

 また、人為的な作業も味わいに大きく作用します。
ワイン用のブドウは、どの品種であっても多かれ少なかれ手をかけて作られるものですが、シャルドネはその中でも特に、手をかければかけただけ応えてくれる品種だとされています。
収量をしっかり絞り、不必要な枝葉を早めに排除し、日照や防湿に気を配っていくと、漫然と栽培しているのに比べて明らかに味や香りが良くなっていることに気づきます。
特に早熟タイプであるため、果実が完熟する直前の手のかけ方は非常に重要であるとされています。
そういう意味では、生産者にとって作業しがいのある良品種であるといえるでしょう。

 土壌や地質も当然重要な要因です。
シャルドネは基本的に、貝殻などの化石を主成分とする石灰質の土壌を好みます。
根を下ろした土壌に石灰質が多いほど、輪郭のくっきりとしたシャープさを持つようになります。
逆に、石灰質をどの地層にも含まない土壌に根を下ろすと、なんとなくぼんやりとして焦点の合わない味になりがちです。
もちろん、100%石灰質なら最高なのか、というとそういうわけでもないのがブドウ栽培の難しいところですが。

 これだけ性質が変化する品種であるため、白ワインであるにもかかわらず樽熟成によるニュアンス付けに合うものも多いようです。
特に南仏やカリフォルニアなどの暖かい地方で作られた、酸味がまろやかで甘いフルーツのような特徴を持つものは、樽で寝かせることによってバターや蜂蜜、ナッツ、なめし皮のようなコクを感じさせるニュアンスを獲得することで、より香味に深みが出るのです。
さらに、最初のアルコール発酵からタンクではなく樽を使用し、発酵終了後も滓を残したまま同じ樽で数週間熟成、さらには定期的にかき混ぜて滓に含まれる旨み成分をしっかり溶け出させるという「バトナージュ」という手法によって、白ワインとは思えない深いコクを持たせたものもあります。
このあたりになってくると、北仏の酸味の効いたワインと並べて飲んでも、同じ品種のブドウが原料とは到底信じられないのではないでしょうか。

 ワインの世界ではどうしてもフランスやイタリアといった「旧世界」のものが最上である、という価値観に陥りがちですが、シャルドネはその多様性と柔軟性で多くの国と地域に溶け込み、しかもその土地でしか出せない味わいを作り出してくれます。
自分の好きな味わいはどれなのか、と考えながらあちこちのシャルドネを試しているうちに、ワインの生産地に対する見方も大きく変わってくるかもしれません。

世界のシャルドネ

フランス

 シャルドネ発祥の地であるフランスでは、特に北部のシャンパーニュ地方とブルゴーニュ地方において白ワイン造りに欠かせない品種です。
特にシャンパン(シャンパーニュ)の原料は、シャルドネと7種類のピノ系黒ブドウと決まっているため、シャルドネ抜きでシャンパンを語ることはできません。
シャンパーニュ地方はフランスワインの北限であり、生産されるシャルドネは北の冷涼な環境によって磨かれたような酸味を身につけます。
この酸が、瓶内二次発酵と熟成に1年半以上をかけ、場合によっては10年以上も瓶内で熟成を続けるシャンパンの底力となるのです。
シャンパーニュ地方で生産されるワインは、シャンパン以外も含めて年間3億本以上。
世界中で飲まれ続けるシャンパーニュが、この地域のシャルドネの偉大な力を証明し続けているといえるでしょう。

 ブルゴーニュ地方の土壌は基本的に石灰質で、おそらく日本人が見るとちょっと驚くくらい白っぽく見えるほどです。
石灰質土壌を好むシャルドネは、当然その全域でよく育ちますが、これだけ狭い範囲に限定してもやはり場所によって特徴をころころと変えるため、ピノ・ノワールと同じように順番に飲み比べていくといろいろな発見をすることができるでしょう。
特にコート・ドール(黄金丘陵)の南、コート・ド・ボーヌには名作が多く、世界的にも有名な「モンラッシェ」など超優良白ワインも輩出されています。
もちろん、もっと手軽な価格のものも多いので、気になるワインがあったらその近くの畑を重点的に試してみる、なんて楽しみ方もできます。

アメリカ

 他の品種でもそうですが、アメリカで育つシャルドネは強い日照と環境条件に支えられて、がっちりとしたパワータイプに仕上がります。
これでもかと凝縮した果実味に高い酸度とアルコール度数、樽での熟成や「バトナージュ」によるこってりとしたニュアンスもしっかり追加しているケースが目立ちます。
とろみを感じるほどに力強い風味は、白ワインであるにもかかわらずクリームやバターを使用したこってりした料理に良くあうでしょう。
また、そうかと思えばもう少し肩の力を抜いた安価な白も多く生産されており、こちらはそれこそ水や清涼飲料水のようにするすると飲めてしまうものも。
条件によって姿を変えるシャルドネの性質がしっかりと引き出され、旧世界ではありえないほどの振れ幅を楽しませてくれます。

日本

 シャルドネはワイン用ブドウ品種の中では、比較的どんな気候条件でも対応できる品種です。
日照が少なく雨の多い日本でも育てやすいということで、日本におけるワイン用白ブドウで作付け面積第一位になっています。
しかし、土壌については、日本にはシャルドネが好む石灰質土壌はほとんどありません。
そのため、なんとかして理想の地質に近づけようと、高温で焼いた貝殻を漉き込んだり石灰を撒いたりと、さまざまな試みがなされています。
また逆に、日本の環境で育つ日本独特のシャルドネを生かしたワイン造りも研究されており、ややボリューム感にかけるものの繊細で上品なワインや、バトナージュによってふくらみを持たせたバランスの良いワイン、人工的な氷結濃縮である「クリオ・エクストラクション」を使用して果汁を濃縮した濃い味わいのワインなど、良質なものも出始めています。
日本のワインづくりはヨーロッパなどに比べてまだ始まったばかりで、この品種についても今後の進化に期待が寄せられています。