ワイン対蒸留酒 他の飲み物との比較その2

目次

蒸留酒とは

 蒸留酒は、醸造酒を蒸留して造るお酒のことです。
原理自体は紀元前から知られていましたが、もともと醸造酒自体も貴重でわざわざコストをかけてアルコールを濃縮する必要のなかった時代には、嗜好品というよりも薬として使用されるくらいのマイナーなものでした。
蒸留酒がヨーロッパに伝わったのは12世紀頃、錬金術師による実験の一端であったとされています。
そしてちょうど同じ頃にはじまった、大型帆船で長期間の航海を行う「大航海時代」の影響によって需要が拡大し、各地で蒸留酒造りが本格化したのです。
現在では、世界各地で味も香りも様々な蒸留酒が造られており、すっかりお酒の一ジャンルとして定着しています。

蒸留酒の歴史との比較

 蒸留酒は錬金術の研究の中から生まれたお酒です。
特に、現在の蒸留器の原型となるアランビック蒸留器は、8世紀に中東の錬金術師であるジャービル・イブン・ハイヤーンによって発明されたといわれています。
そして11世紀頃から、オスマン帝国の拡大にあわせて蒸留の技術がヨーロッパをはじめとする世界各地へと広まっていきます。
ただこの時点では、ワインやビールを蒸留して高純度のアルコールを得ること事態は知られていても、それを嗜好品として飲用することはヨーロッパではほとんどありませんでした。
これは、燃料代や商用にするために大型の蒸留器を製造するコストに見合うほどの需要が見込めなかったこと、醸造酒自体が貴重品であったことなどが主な理由で、わずかに造られる蒸留酒は中世までは薬用として飲まれていたようです。
しかし、ワインの生産地が拡大し生産量が増えるのと同時に、ワインの品質にもばらつきが出るようになってくると、低品質なワインを再利用して価値を向上させる蒸留技術はにわかに注目を集めるようになります。
そして、強国による長期間の貿易航海が行われるようになると、スティルワインでは耐えられない高温や振動でも悪くならないアルコール飲料が求められるようになり、その需要によって蒸留酒造りが本格化することになるのです。
船に乗せられるお酒としては、ラムなど蒸留酒そのものはもちろん、ワインにブランデーやブドウ由来の中性アルコールを加えて造るフォーティファイドワインも各種発明されており、「航海中でもどうしてもワインが飲みたい!」という当時のヨーロッパの人々の熱いワイン愛が感じられます。
フォーティファイドワインは長期間の航海が少なくなった後も、各地の伝統的ワインとして造られ続けていますし、ユニ・ブラン(サンテミリオン)のようにブランデー用として栽培されている品種もあるなど、蒸留酒がワインの歴史に大きな影響を与えたのは間違いないでしょう。

蒸留酒の製造法との比較

 ワインのような醸造酒はアルコール発酵(と製品によっては熟成)がメインであるのに対して、蒸留酒の場合はアルコール発酵はあくまで準備段階にすぎません。
蒸留酒は、アルコールと水の沸点の違い(水の沸点が100℃の場合、アルコール(エタノール)の沸点は約78.4℃)を利用し、蒸留酒が沸騰した際に先に気体となってあがってくるアルコール分の多い蒸気を集め、再度冷やすことでアルコール度数を高めます この蒸発→冷却の流れが一度だけ起こる蒸留器を「単式蒸留器」といい、8世紀に発明されたアランビック蒸留器の原理をそのまま受け継いでいます。
単式蒸留を一度だけ行っても十分なアルコール濃度にならない場合は、集めた液体を複数回蒸留したり、一回の蒸留中に蒸留→冷却が何度も起こる「連続式蒸留器」を使用して必要なアルコール度数まで高めていくことができますが、アルコールの割合が高くなるほど他の成分が少なくなっていくため、もとの醸造酒の風味は失われていくことになります。
製品によって蒸留回数や濃縮の度合は異なりますが、一般的に原産地呼称やブランド名で販売される高級品は60%前後まで濃縮したあと加水して熟成、廉価な製品や添加用として精製するなら70~96%という高純度になるまで濃縮されるようです。
ワインの場合、貴腐化させたりブドウを干したり氷結させることで果汁を濃縮させることはありますが、これは水分量が減ることで相対的に他の成分の割合が高まるため、蒸留酒とは反対に風味が強くなっていきます。

 蒸留の最大のメリットは醸造では得られない高アルコール濃度を得られることですが、実はアルコール以外の成分量を減らすことも重要なポイントといえます。
蒸留によって本来の風味の一部が失われてしまうのはデメリットしかないように感じるかもしれませんが、逆に言えば醸造酒の状態では雑味が多かったり長所がぼやけたタイプの原酒でも、蒸留することで余計な成分が取り除かれ個性がくっきりと見えるようになるということでもあるのです。
実際、単独でワインにすると平凡でぱっとしないにも関わらず、ブランデーになると他では絶対に出せない複雑で高貴な香りを纏う、ユニ・ブラン(サンテミリオン)のような品種もあります。
ブドウよりも雑味の多い穀物原料や、醸造酒を絞った後のアルコールを含むかすを原料とする蒸留酒があることからも、そのメリットの大きさが良く分かるでしょう。

蒸留酒の生産地との比較

 蒸留酒を造るにはまず原料として醸造酒が必要になります。
そして、蒸留の技術が広く知れ渡りその需要も拡大した現代では、醸造酒と蒸留酒の生産地は大きな地図で見ればほぼ重なっているといえます。
もちろん、地域や村レベルで言えば醸造酒は造っているけど蒸留酒は造っていない、という場所もありますが、その逆はありえません。
果物や穀物はもちろん、イモ類、サトウキビや甜菜、竜舌蘭なども主な蒸留酒の材料となっており、生産地は人の住むほぼ全域に渡ります。
ワインの場合穀物などから造られる醸造酒とは異なり、そのままの状態で飲みづらいほど雑味が多いということは(あえて低品質な造り方をしなければ)あまりなく、むしろ蒸留で失いたくはない風味を持っているものが一般的です。
そのため、ワインの生産地に比べるとワインから造られる蒸留酒であるブランデーの産地は限定的であるといえます。
逆に言えば、それでもあえてブランデーに力を入れているということは、それだけの理由があるといえるでしょう。

蒸留酒の成分との比較

 蒸留の過程では一度気化したものを冷却して液体に戻しますので、気化することのできない固形成分は一切持ち越すことができません。
ワインの場合は、有機酸やミネラル類、ビタミン類、ポリフェノール、糖類などの微量成分が多数含まれていますが、これらは全て蒸留によって取り除かれてしまいます。
そのため、蒸留直後のお酒は無色透明で、アルコール以外の味もありません。
ただし、エステル類などアルコールと同じ程度の温度で揮発する成分だけは蒸留後も残ります。
また、フォーティファイドワインなどへの添加用、もしくは混成酒や料理に使用されるもの以外の蒸留酒は、その多くが樽での長期間の熟成を行いますが、この間に樽から溶け込む成分もあります。
この成分には、ポリフェノールや銅、微量の糖分、たんぱく質などが含まれ、ブランデーやウイスキーの独特の水色も主にそうした成分によって付きます。
ただ、それらの成分は本当にごく微量なので、栄養素やカロリーの面ではほとんど影響がありません。
蒸留酒のカロリーはほぼアルコール度数に比例し、100mlあたり「アルコール度数×7kcal」でだいたい算出することができます。
スティルワインに比べるとかなり高カロリーですが、当然ながらワインと同じ量を飲むことはできませんので、仮に同じだけアルコールを摂取できる量でそろえたとすると、結局カロリーも大差ないものになるようです。
蒸留酒の中には、各種のハーブやスパイス(ボタニカル)を漬け込んだり蒸気に当たるように蒸留器の中にセットして香りの成分を移すもの(ジン)や、熟成や瓶詰めの際にハーブなどの副原料を漬け込んで成分を溶かしだすもの(ウォッカなど)、色や香りをつけるのにカラメルなどの香料・着色料の使用が認められているもの(日本のウイスキーなど)もあり、これらの場合は一般的な蒸留酒よりも多くの成分を持つようになります。

蒸留酒の賞味期限との比較

 もともと、13世紀頃からヨーロッパで蒸留酒が一気に普及したのは、長期間の航海でもスティルワインのように劣化したり腐敗しない、安定したお酒が求められたからでした。
その実績が示すように、蒸留酒は一般的に醸造酒に比べて非常に劣化しにくく、特に冷蔵などをせずとも長期間の保存が可能です。
スティルワインであれば、開栓後はしっかりと密栓し直して冷蔵庫に入れたとしても、おいしく飲みたいのであれば数日以内には飲んでしまう必要がありますし、常温で放置した場合はワインビネガーになってしまっている可能性すらあります。
これがブランデーになると、開栓後も軽く栓をして直射日光を避けていれば常温保管で問題ありませんし、数ヵ月後に飲んだとしてもほとんどかわらない風味を楽しむことができるでしょう。
その安定性ゆえに瓶内での熟成はほとんど望めませんが、ワインと同様100年以上の保存に耐えうるものも少なくありません。
ただ、廉価なものや一度開栓したものは、蒸留酒といえども少しずつ香りが飛んでしまうのは確かなので、1年程度を目安に飲みきったほうが良いでしょう。

蒸留酒の価格との比較

 蒸留酒は醸造酒にさらに手を加えて造るものなので、蒸留酒より平均して高価であると思われがちですが、蒸留するぶん原料が多少低品質でも問題ないことや、現代では工業的に大量生産することが可能なこと、醸造酒よりも安定しているため保管や輸送に有利であることなどから、安価な製品も少なくありません。
日本の甲類焼酎など、アルコール度数を合わせればテーブルワインでもなかなか見ないレベルの価格になっているものもあります。
ただし、蒸留酒は高価な方向にも振り切っているものがあります。
ブランデー、特にコニャックは、高級なワインに匹敵するかそれ以上の価格で取引されているものが多く、最も高額であるとされているものだとボトル一本でなんと2億円以上! 2位以下も1000万円オーバーの製品がごろごろしており、グラス一杯でも軽く数十万円~数百万円という宝石並みの価格になっています。
これはブランデー自体の質が極めて良いのはもちろんですが、ワインと比べて格段に扱いやすくその分品質の証明もしやすいという、資産的な価値の高さが反映されているようです。

蒸留酒との比較 まとめ

 蒸留酒は中東で生まれ、はじめは薬として飲まれる液体でした。
しかしアルコール度数を醸造酒では不可能な域まで高められることによる保存性の高さと、不必要な雑味を省けることで得られるすっきりとした味わい、そして香り高さから嗜好品としても求められるようになり、やがて世界中の醸造酒とペアになるように様々なタイプのものが生み出されていきます。
ワインに比べて安定しているため、開栓後も比較的安全に保管しておけるのもうれしいポイントの一つ。
価値を維持しやすく、またそれを証明しやすいことから、資産としてワイン以上に高価なボトルも少なくありません。