日本ソムリエ協会(JSA)と全日本ソムリエ連盟(ANSA)

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 現在、日本ではソムリエは国家資格ではなく、二つの民間団体によって認定される民間資格となっています。
そのため、自称するだけであれば特になんの資格も根拠もなくソムリエを名乗ることができますが、社会的にこれだけ認識された資格を無根拠に自称するのはリスクのほうが大きいと言えるでしょう。
正式にソムリエを名乗る場合は、いずれか一方の団体の提示する要件を満たして認定を受ける必要があります。

一般社団法人日本ソムリエ協会(JAPAN SOMMELIER ASSOCIATION/JSA)

 ワインを中心とした飲料の普及、ソムリエ等の接遇技術の向上、食品衛生の向上を目的とした一般社団法人です。
1969年に飲料販売促進研究会という名称で設立され、1976年に現在の日本ソムリエ協会という名称に改められました。
1986年からは国際ソムリエ協会(ASSOCIATION DE LA SOMMELLERIE INTERNATIONALE/ASI)にも加盟しており、ごく近年まで日本でソムリエ資格を管理する唯一の団体でした。

 JSAでのソムリエ資格の取得には、まず「アルコール飲料を提供する飲食サービス」「ワイン・酒類飲料の仕入れ、管理、輸出入、流通、販売、教育機関講師、酒類製造」「アルコール飲料を取り扱うコンサルタント業務」のいずれかの職業に3年以上(2年以上協会員資格を保持している場合は2年以上)携わり、資格試験日も現役である必要があります。
資格試験は、筆記の一次試験、テイスティングの二次試験、サービス実技の三次試験に分かれており、さらに三次試験合格後に書類審査を経てようやく認定を受けることができます。
途中まで合格していた場合は、3年までであれば同じ試験を免除され、不合格となった試験から受け直すことが可能です。
JSAソムリエには、上位資格として「シニアソムリエ」「マスターソムリエ」が存在します。
シニアソムリエは「ソムリエ資格を取得してから3年以上」かつ「ソムリエ資格受験要件と同じ職業に累計10年以上携わっていること」を条件として試験を受けることで認定されます。
マスターソムリエは、シニアソムリエの資格を有するソムリエ歴20年以上の協会役員の中から選ばれる名誉称号で、功績などを元に推薦され選考委員会で認定されます。

 ワインに関する仕事をしていない一般人は、どれほどワインに関する知識や技術があったとしてもJSA認定のソムリエを名乗ることはできませんが、愛好家にも取得できる資格として「ワインエキスパート」という資格が存在します。
これはソムリエとは違い、20歳以上であれば誰でも試験を受けることができる資格です。
ソムリエ試験と同程度の筆記、テイスティングの試験が課され、サービス実技試験と書類審査はありません。
自分のワイン知識やテイスティング能力を試し、それが一定以上であると客観的に証明することができるため、ワイン愛好家はもちろん勤続年数がソムリエ資格に満たない飲食店従事者なども利用しているようです。

 2016年現在、ソムリエ、シニアソムリエは合わせて25132人、ワインエキスパート、シニアワインエキスパートは合わせて13996人となっています。
なお、2016年まではその中間資格として「ワインアドバイザー」「シニアワインアドバイザー」という資格もありましたが、現在はソムリエ資格に統合されており、新規認定試験は行われていません。
(申請すればアドバイザーからソムリエへ再認定できますが、そのままにしておくことも可能なため、過去に認定された資格保持者もまだ存在します)

全日本ソムリエ連盟(ALL NIPPON SOMMELIER ASSOCIATION/ANSA)

 NPO法人料飲専門家団体連合会(FBO)の下部組織の1つです。
1997年設立なのでまだ発足から日が浅く、知名度ではJSAには及びませんが、ANSAのソムリエ資格は実務経験や現在の職業を問わないため、ワイン業界で働いていないけどソムリエ資格を取得したい、という人にとっては魅力的な資格となっています。

 ANSAソムリエ資格の認定は、「今もっている知識や技術を認定してもらう」というより、「資格取得に必要な知識や技術を身につけるための講座を取る」というスタイルで、大学の単位取得に近いイメージです。
通信教育の教材を購入して規定数の添削を提出する無試験のコース(添削で一定以上の点数を取得する必要あり)と、DVDや集中講座で勉強したあと試験を受けるコースがあり、基本的に合格できるまでサポートしてくれる仕組みになっています。
誰でも挑戦できて必要な教育も受けられるのですが、その分試験だけのJSAよりも資格取得にかかる費用が高額で、受講・受験費用のほかにも認定費、入会費、年会費などがかかります。
同一の試験で、ソムリエではなくワインコーディネーターという名称を選んで取得することもできます。

二つのソムリエ資格 メリット・デメリット

 JSAとANSAはどちらが上位団体というわけでもなく、同じ「ソムリエ」資格といえど性格が異なるため、どちらが良いという単純な比較はできません。
JSAソムリエは知名度が高く、業界内での信頼性という意味ではANSAソムリエよりも有利ですが、取得に関する要件が比較的厳しく、誰でも取れるというわけではありません。
特に飲食業界での累計勤続年数は、若い世代の参入を制限している壁といえるでしょう。
また、逆に一定期間関連業界で働いていれば受験資格を取得できてしまうため、実際はワインに関する経験が薄くても挑戦できてしまうという問題も指摘されています。
ANSAソムリエは、費用はかかりますが誰でも受講することができ、経験年数に縛られずにソムリエになれるという点が最大のメリットといえるでしょう。
受験時の講座やテキストで一定の知識を付けられるため、資格取得時点での知識不足の心配も少ないといえます。
ただし、まったくの未経験でも合格できてしまうシステムである以上、経験やそれに裏打ちされた技術面は資格取得後に積み上げていく必要があり、それゆえに就職などでのアピール力が弱いことは否めません。
まだ成立から日が浅い組織の認定資格なので、信頼できるものとみなされるかどうかは現在の資格保持者にかかっているとも言えます。

 最終的には、それぞれの資格の取得要件や性質を理解し、自分の目的に合ったほうを選ぶと良いでしょう。