シチリア州 南イタリア2

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シチリア州(Sicilia)とは

 シチリア州は、地中海(ティレニア海)のイタリア半島至近に浮かぶシチリア島とその周辺の島からなる州です。
半島のつま先部分、カラブリア州に非常に近く、接地はしていないのですが数キロしか離れていないため、橋をかける計画もあります。
イタリアを構成する20の州のうち最大の面積を持ち、全体の約1/12を占めます。
ローマ帝国時代から農作物の生産基地として活躍し、帝国崩壊後は様々な勢力が支配権を争ったため、複雑な歴史と文化を有します。
アラゴン王家による圧政が敷かれていた期間が元ナポリ王国領だった地域よりも長く、イタリア統一後もどちらかとうと辺境地として後回しにされたため、ワインを含めた各種産業の発展があまり進んでいません。
中央集権型の支配者に対抗する勢力として反政府組織の必要性が高かったことから、マフィアの存在が社会に深く根ざしてしまっているのもその原因のひとつとされていますが、20世紀末からはようやく構造の変化もあらわれはじめ、ワイン産業も少しずつ近代化が進んでいるようです。
ワイン生産量が非常に多く、常にヴェネト州、エミリア・ロマーニャ州、プーリア州とイタリア最多生産州の地位を争っていますが、それらの州に比べてDOPワインの割合は非常に低く約3%程度。
生産量のほとんどがVdTやバルクワイン(原料ワイン)という、19世紀のイタリアワイン産業の方向性をいまも引きずる地域のひとつとなっています。
ただ、温暖で夏に乾燥する海洋性気候と火山活動によって形成された土壌という優良なテロワールに恵まれているため、品質の向上が見られ始めた近年では良質な銘柄も徐々に増えてきているようです。
イタリアを代表するフォーティファイドワイン、「マルサラワイン」の産地としても有名です。

シチリア州のワインに関する歴史

 シチリア州の中心であるシチリア島にギリシャ人がワイン文化と共にやってきたのは紀元前8世紀頃とされています。
紀元前3世紀にローマ帝国領となったあとは、ブドウ栽培に適したテロワールを持つことからワインはもちろん、他の農産物も大量に生産する食糧生産基地として活用されることとなりました。
ローマ帝国の崩壊後、ランゴバルド王国や東ローマ帝国の支配を経て、9世紀にはアラブ系のイスラム首長国が成立。
イスラム教ではワインはもちろんアルコール飲料全般が禁止されているため、もし文化的なイスラム化を強制されていればシチリア島のワイン文化はここでいったん途切れることになるところでしたが、幸い宗教的・文化的に寛容な支配体制がとられたので、ワイン造りも継続されました。
11世紀、フランス北部のノルマンディー地方からやってきたノルマン人が南イタリアを征服。
シチリア島もキリスト教圏に戻ります。
そして1130年、イタリア半島南部とシチリア島を領土とするシチリア王国が誕生しました。
成立当初はもとのイスラム首長国の方針を受け継ぎ文化的に寛容な政策を取ったため、東西の様々な文化が混在する国際都市として栄えることになります。
王が積極的に学者を呼び寄せたり書物を集めたこともあって、現在の州都パレルモは当時ヨーロッパで最先端の都市だったと評されることもある程です。
しかし、数世紀の間にその多様性とそれに基づく優位性が失われると、政治的混乱と共に急速に衰退。
神聖ローマ帝国領、フランス領となったあと、反乱の鎮圧を契機としてアラゴン王家に支配権が移ります。
それ以降、イタリア統一の機運が高まる19世紀までスペインによる圧政に苦しむこととなりました。
1773年に「マルサラワイン」の発明があった以外は、このスペイン領期間にはワインに限らず文化的・産業的な進展がほとんどなかったとされています。
1861年にイタリア統一が成った背景には、シチリア島をはじめとする南イタリアの人々の、長い圧政に対する不満の蓄積があったことも大きかったと言えるでしょう。
マルサラから上陸し、シチリア島、ひいてはイタリア半島南部の反乱軍をまとめたあげたジュゼッペ・ガリバルディは、現在でも英雄として尊敬を集めています。
イタリア統一によって不当な搾取から開放されたとはいえ、裕福なイタリア北部と前時代的な文化水準しか持たない南部の格差は簡単には埋まらず、その影響はワイン造りにも及びました。
フランスのラングドック・ルシヨン地方やプロヴァンス地方のようにテロワールに恵まれすぎているシチリア州は、「質より量」を基本方針とする当時のイタリアの戦略もあり、テーブルワインやバルクワインなど低品質なワイン造りが主流となってしまいます。
その後、第二次世界大戦後に大きく方向が転換し、南北の格差解消に国が本腰を入れるまでこの状況が続いたため、21世紀にはいった現在でもシチリア州のDOPワインの比率は低いままです。
しかし、近年ようやく品質向上の努力が結果となって現れるようになってきており、今後の発展に期待がもたれています。

シチリア州のワイン造り

 シチリア州はワイン造りに適したテロワールに恵まれています。
エトナ火山を中心に火成岩や火山灰を多く含む土壌を持ち、ブドウは豊富なミネラルを得ることができますし、温暖で暑く乾燥した夏を特徴とする気候は、ブドウ果汁の濃縮と完熟を助けてくれます。
しかし、イタリアでも最上位を争うワイン生産量のうち、DOPワインはわずか3%程度です。
DOPワインも、DOCG級こそ1つしかありませんがDOC級は周辺の島々も含めてたくさん認定されておりバラエティも豊かなのですが、それぞれの生産量が少なすぎて知名度はどれも低めです。
これはフランスのフィロキセラ災害によって発生した大需要に合わせて「質より量」の方針でのワイン造りが行われたことに加えて、統一後しばらくイタリアの政策が北部偏重で進んだことで近代化が遅れたことが原因と言われています。
ただ、20世紀末頃からようやく本格的な品質向上の取り組みが行われるようになってきており、近年では注目に値するワインもあらわれはじめています。
シチリア州は複数の島々からなる地域で、魚介類が豊富に採れるため、ワインもそれに合わせて軽快な白ワインの比率が高くなっていますが、場所によってはエジプト方面から吹く季節風によって非常な高温になることから、長期熟成にも耐えられる濃厚なタイプも少なくないようです。

 もうひとつ、シチリア州で忘れてはいけないのが、「マルサラワイン」でしょう。
マルサラワインはイタリアを代表するフォーティファイドワインで、シチリア島のマルサラで造られています。
ジョーン・ウッドハウスというイギリス人によって開発されたもので、最初からイギリス市場向けの輸出品として作られました。
通常のフォーティファイドワインと異なり、蒸留アルコールだけでなく風味を追加する香草漬け果汁や原料ワインなども加えるのが特徴で、独特の味や香りを持つことからソースなど料理にも多用されています。
シチリア州のDOPワインの中では生産量が多く、輸出量も多いことから知名度も高めで、フォーティファイドでありながらスティルワインを抑えてシチリアを代表するワインとなっています。