シャンパーニュ(トラディッショナル)製法 スパークリングワインの醸造方法その1

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 フランス、シャンパーニュ地方で造られる、世界に名だたるスパークリングワイン「シャンパン」。
この名称を使用するには、製法が指定された物であることはもちろん、収穫、醸造、熟成のための地域がシャンパーニュ地方である必要があります。
ただ、非常に優れた製法であるため、他の国や地域でも同じ製法を用いてスパークリングワインが造られています。
「シャンパーニュ製法」「トラディッショナル製法」と呼ばれる、その独特なスパークリングワインの造り方をみていきましょう。

圧搾(プレシュラージュ)

 シャンパーニュ製法では、収穫した果実から果梗(かこう)を取り除いて果粒をばらしたあと(エグラパージュ)、白ワインと同じようにすぐに圧搾して果汁を絞ります。
シャンパンの場合は、原料に白ブドウのシャルドネのほか、黒ブドウのピノ系の品種のうち7品種の使用が認められていますが、浸漬(マセラシオン)の工程がないため、どのブドウを使用しても白ワインと同じ果汁だけの色合いになります。
ただし、ロゼ・シャンパーニュの調合に使用する赤ワインだけは、例外的に浸漬発酵工程(マセラシオン・アルコリック)で色とタンニンを溶け込ませて造ります。

アルコール発酵(一次発酵)(フェルマンタシオン・アルコリック)

 絞ったブドウ果汁に、通常は純粋培養した酵母を加えて、アルコール発酵が始まります。
シャンパーニュ製法の場合は主要な発酵工程が2回あるため、こちらを一次発酵と呼びます。
この発酵過程でも当然二酸化炭素が発生しますが、通常のワインと同じように開放型のタンクで発酵させるため、この時のガスは液中に留まらず抜けていってしまいます。
発酵は1~2週間、白ワインと同じく15度前後でゆっくりと行われます。

マロラクティック発酵(フェルマンタシオン・マロラクティック)

 発酵が終了したら他のタンクや樽へ移していったん休ませます。
この際に、目立った液内浮遊物を沈殿させて取り除いたり、リンゴ酸が乳酸菌によって分解される「マロラクティック発酵」を行う場合もあります。

調合(アサンブラージュ)

 原酒の状態が落ち着いたら、通常は瓶詰めの前に調合(アサンブラージュ)を行います。
これは、品種別、生産者別の原酒だけでなく、別の年代のワイン(リザーブワイン)も用いて行われます。
この年代を超えた調合はシャンパーニュ製法の大きな特徴のひとつで、この工程によってその年のブドウの出来不出来に関わらず一定以上の品質のワインに仕上げることが可能になるのです。
ただし、特別良質なブドウがとれた年には、例外的にその年度のブドウだけで造られることもあり、これは「ミレジメ(Millesime)」と呼ばれます。
これは毎年できるわけではない希少性に加え、生産者が技術と誇りをかけて造る最高級のシャンパンとして高い評価を得ることになります。

 また、シャンパーニュ製法ではここで赤ワインとのブレンドが行われることもあります。
赤ワインと白ワインを混ぜてロゼワインにする混成法(アサンブラージュ法)は、シャンパーニュ製法以外では認められていない、シャンパン独特の手法です。
赤ワインと同じように種や果皮と果汁を一緒にしておいて程よく色づいた所で分離する「セニエ法」や、時間をかけて圧搾することで果皮から少しだけ色を移す「直接圧搾法」などでは、果汁に溶け込む色素やタンニンの量を発酵前に一度で判断せねばならず、発酵による味や色の変化によって設計どおりに仕上がらない恐れがあります。
その点、発酵が終了して色や香味ができあがった後でブレンドするアサンブラージュ法では、仕上がりをチェックしながらの作業が可能なので、他の方法では難しい高いレベルでの微調整が可能になります。

瓶詰め(ティラージュ)

 調合によって味が決まったら瓶に詰めますが、この際に原酒に酵母と蔗糖を溶かした物(リキュール・ド・ティラージュ)を加えます。
これは甘さを加えるためではなく、一次発酵であらかた消費されてしまった糖分を補い、この後さらにもう一度発酵させるための処理です。

瓶内二次発酵(ドゥジエム・フェルマンタシオン・アン・ブテイユ/Deumixieme Fermentation en Bouteille)

 瓶詰めされ仮栓で打栓されたシャンパンは、追加された酵母と糖分によって密閉された空間の中で再度発酵を始めます。
この時発生する二酸化炭素は外気に逃げていくことができないため、ワイン液内に溶け込んでいくことになり、発泡性を獲得するのです。
この瓶内二次発酵は、シャンパーニュ製法の工程の中でも最も大きな特徴と言えるでしょう。
この発酵工程は6~8週間続き、その後の熟成期間も含めると、終了まで短くて1年弱、長ければ数年に渡って続けられます。
ちなみに、シャンパンでは最低15ヶ月以上熟成させることが義務付けられています。

動瓶(ルミュアージュ)

 瓶内発酵を行っている間、アルコール発酵を行い役割を終えた酵母の残骸が滓となって溜まっていきます。
これは熟成期間中にワインとよく接触させておくことによって(シュル・リー)、コクや独特の風味を与えてくれますが、最終的には取り除かねばなりません。
そのため長期間の熟成期間中、瓶を転がすように動かして滓が固まってしまうことを避け、少しずつ排出しやすい位置へ移動させる必要があります。
これを動瓶(ルミュアージュ)と呼びます。
これによって発酵初期から中期は滓とワインの接触をできる限り確保し、最終的にきれいに取り除けるように滓の溜まる位置を瓶の口のほうへと移動させるのです。
ワインの瓶を口を下にして傾けて刺しておける、穴あきのラックなどが使用されます。

抜滓(デゴルジュマン)

 発酵が終了し、しっかりと熟成させたら、いよいよ仕上げ。
口のところに集まっている滓の部分を、急速に冷却して凍らせてから仮栓を抜くと、内部で高まった圧力によって滓の塊が音を立てて吹き飛ばされます。
同時にシャンパンそのものも少し吹きこぼれますが、実はこれも最後の工程のためには必要なことなのです。

門出のリキュール(リキュール・デスクペディシオン)

 滓を抜いたらシャンパンの醸造は完了ですが、栓をする前にしなければいけないことがあります。
それは、滓を吹き飛ばす際に減った分のワインを継ぎ足すことです。
一般的にこの継ぎ足す分のワインにも糖分が溶かされており、生産者にとって長い期間育ててきたシャンパンを送り出す際の餞(はなむけ)のような物であるという意味で「門出のリキュール(リキュール・デスクペディシオン)」と呼ばれています。
これはティラージュのときとは違い、純粋に甘さを調整するために加えられ、その糖分量によって仕上がりのシャンパンの甘さの度合いが決まります。
これはラベルなどの表記で確認でき、甘い方から順に、ドゥー(残留糖分量50g/リットル以上)、ドゥミ・セック(残留糖分量32~50g/リットル)、セック(残留糖分量17~32g/リットル)、エクストラドライ(残留糖分量12~17g/リットル)、ブリュット(残留糖分量6~12g/リットル)、エクストラ・ブリュット(残留糖分量0~6g/リットル)、ノン・ドゼ(残留糖分量3g/リットル未満、もしくはリキュール・デスクペディシオンに糖類無添加)の6段階に分類されています。

打栓・出荷(プシャージュ)

 甘さの調整も済んだら、内圧で飛んでしまわないように裾が広がった形のコルクで打栓され、針金で固定されて出荷されます。
すぐに店頭に並ぶ物もありますが、多くは専用のセラーや設備を持つ販売店の保管庫へ入り、さらに長い年月をかけて熟成することになります。