トレンティーノ・アルト・アディジェ州 北イタリア5

 トレンティーノ・アルト・アディジェ州(Trentino Alt Adige)は、イタリア全州の中でもっとも北に位置する州です。
フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州(Friuli Venezia Giulia)、(Lombardia)、ヴェネト州(Veneto)、ロンバルディア州(Lombardia)と州境を、オーストリア、スイスと国境を接しています。
州の70%以上が森林で、ブドウの産地はわずかな栽培可能地である山間の谷に集中して作られています。
北部のアルト・アディジェ地方と南部のトレンティーノ地方で異なる歴史と文化を持ち、使用されるブドウ品種、ワインのタイプもそれぞれ異なります。
DOCG級のDOPワインはありませんが、DOC級には古くからその名を馳せた良質な銘柄も多く、総生産量の実に70%以上がDOPワインという高品質ワインの一大産地として有名です。

 現在はイタリアに併合されていますが、この地域は歴史的にみると神聖ローマ帝国領、そしてオーストリア領だった期間が非常に長く、文化的にもその影響を強く受けています。
特に北部は、カール大帝がイタリア王国を北イタリアに樹立した際に、バイエルン公国領に含まれたため、ヴェローナ候国領だった南部とは違ってドイツ風の気質が一般化しました。
その後、1027年にはどちらも神聖ローマ帝国の司教領(ただし、担当司教はそれぞれ異なる)となり、1803年からはオーストリア領に、そして第一次世界大戦の結果1919年からはおおむねイタリア領となっています。
そのため、隣接する北イタリアの各州とは違って、10世紀以降の海上交易による都市国家の興隆や都市間の対立といった歴史を経験していません。
幾つかの特に有力なDOPは存在するものの、北部と南部、それぞれがある程度同一の方向性のワインを造っているという点で、北イタリアの中では比較的特殊な地域であるといえるでしょう。

 トレンティーノ・アルト・アディジェ州のブドウ畑は、高山が作る谷の丘陵地に斜面を利用して拓かれているため州内では相対的に低地にはなりますが、それでも高標高であることに違いはなく、気候もほとんどがアルプス気候とも呼ばれる山岳性気候帯に属しています。
乾燥した空気や斜面によって得られる日照と水はけの良さはブドウ栽培に適していますが、平均して寒冷な気候は果実の熟成を妨げ、特に黒ブドウについては十分な成分の凝縮やボディの獲得が難しい原因となっています。
そのため、一部の例外を除いては基本的に軽くてさっぱりとした早飲み系ワインの産地として知られ、例外的に評価の高い地域で生産されるワインもほぼ白ワインでした。
近年ではブドウ栽培や醸造の技術が向上したため、徐々に全体の品質も向上してきていますが、北部でも生産量の約半数、南部では70%以上が白ワインとなっています。