マルケ州 中央イタリア2

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マルケ州(Marche)

 マルケ州は、イタリア半島の中央東側に位置する州です。
トスカーナ州(Toscana)、エミリア・ロマーニャ州(Emilia Romagna)、アブルッツォ州(Abruzzo)、ラツィオ州(Lazio)、ウンブリア州(Umbria)と州境を接し、アドリア海に面しています。
西側にはアペニン山脈が南北に走り、ローマのあった中央地域と隔絶されていたことから、「辺境の地」扱いされることが珍しくありませんでした。
イタリアが南北で分かたれていた時期の「北側の南端」となっていた期間も長く、激動の歴史を持つイタリア各地のなかでも、特に争いや支配者の変更の多い地域だったとされています。
平地のほとんどない州で温暖な地中海性気候に恵まれているためワインの生産は古くから行われてきました。
DOPワインの生産量は、イタリアの州のなかではちょうど真ん中くらい。
赤ワインと白ワインは半々くらいですが、赤のいくつかの銘柄は特に優良であるとされています。

マルケ州のワイン造りに関する歴史

 現在のマルケ州に当たる地域、特にアドリア海の沿岸部は古代からワインの名産地として知られた地域で、紀元前のポエニ戦争の際にはハンニバルが戦馬をねぎらうためにコーネロ(Conero)の赤ワインを与えたというエピソードもあるほどでした。
しかし、ローマ帝国が東西に分裂したあとは各勢力がせめぎあう境界上の地域となることが多く、イタリア半島の情勢がある程度落ち着く中世頃になっても、比較的混乱の多い時期が続きます。
そのため、各地を統治する貴族の力が伝統的に強く、少数の権力者や教会が主導した他の州と異なり全体的なワイン造りの発展が起こりにくい土地でもありました。
教皇領となったあとは、ラファエロ・サンティやジョアキーノ・ロッシーニなど優れた芸術家を輩出する学術都市、また現在の州都であり古代から知られた港町のアンコーナを有する港湾都市として発展する一方、ワインの生産については影が薄くなっていってしまいます。
結局、マルケ州のワインの品質が向上するのは、イタリアの他の地域と同じように1970年代に入ってからのことでした。
ただ、もともと優れたテロワールに恵まれていたこともあり、現在ではかなり良質なワインも少なくありません。
海外での知名度がまだ低いことから、品質に対してかなりリーズナブルな価格で購入できるものも多くなっており、近年では「知る人ぞ知る産地」として注目を集め始めているようです。

マルケ州のワイン造りとテロワール

 マルケ州では、今のところ5つのDOCGレベルのDOPワインが造られており、赤・白の割合は少しだけ赤ワインが多くなっています。
平地がほぼなく、水はけと日当たりの良い斜面に畑が作られていることや、地中海性の温暖な気候に恵まれていることなどから、凝縮味のある力強い赤ワインを生産することができるのです。
特に沿岸部のいくつかの地域は紀元前からワインの名醸地として知られていたほどで、「アドリア海沿岸で最も優れている」と評されるコーネロ(Conero)などが有名です。
しかし、世界的な知名度でいうと、もっとも知られているのは実は白ワインのほうです。
州都アンコーナの南西に位置するイエージを中心とした地域で造られている白ワイン、「ヴェルディッキオ・ディ・カステッリ・ディ・イエージ(Verdicchio dei Castelli di Jesi)」は、魚料理に合う白ワインとして有名で、生産量の7割以上が欧米諸国に輸出されているため、海外ではマルケ州を代表するワインとして認識されています。

 マルケ州のワイン造りのもうひとつの特徴は、中小の生産者がそれぞれ個別の考えを基に比較的自由に活動しているという点です。
この地域では歴史的に強力な支配者が統治していた期間が比較的少なく、地方貴族が力を持っていた地域が多いこと、また度重なる争いや支配者の変更に伴い価値観の変化を何度も経験してきたことから、個人主義的な考え方が一般的になったとされています。
地域的な連携を行いにくいというデメリットもありますが、個々の生産者の創意工夫を反映させやすいため、同一の地域でも異なる特徴を持つワインを生み出すことが可能です。
みんなで同じことをやっていくよりも、新しい技術や設備を柔軟に取り入れることができるため、品質向上のスピードが上がりやすいという利点があります。
そのため、マルケ州はワイン造りの近代化についてどちらかと言うと後発に属するにも関わらず、近年では注目を集めるほど良質なワインが作られるようになってきています。

 マルケ州のテロワールは、地形的にも気候的にも優れているとされていますが、現在のようにワイン造りに注力されるようになったのは20世紀の後半に入ってからのことです。
そのため、品質に対して価格が低いものが多く、輸出量も比較的多いことから「狙い目」のワインであると言われています。