ロゼワインの醸造方法 ブドウ果汁がロゼワインになるまで

目次

 印象的なピンク色の水色を持つロゼワインの醸造は、果皮や種の持つ成分と色味をどれくらい果汁に移すかがポイントになります。
基本的に「セニエ法」と「直接圧搾法」のどちらかの製法で造られ、どちらを選んだかによって「ごく軽めの赤」か「コクとうす赤い色を持つ白」になるかが決まります。
(赤ワインと白ワインをブレンドする手法は、認められていない国や地域が多いため、ここでは省きます)
どちらの手法でも、イメージ通り仕上がりを得るためには経験とカンが必要な特殊な工程を経る、ロゼワインのできるまでを見てみましょう。

セニエ法

果実の破砕(フラージュ)

 セニエ法とは本来は中世から近代にかけて行われていた「抜血療法」(体内の悪い要素を血を抜くことで除去する治療法)のことで、赤く色づいたブドウ果汁を途中で分離する作業が血抜きに見えることから呼ばれるようになったものです。
分量を調整すると濃い赤ワインを造るための手法を兼ねる事もあります。
その工程は途中までは赤ワイン造りとまったく同じで、まずは果梗(かこう)と果実を分離して果実を破砕するところから始まります(エグラパージュ)。
果梗とは果実がついている枝の一部で、房で買ってきた食用ブドウを食べ終わると残るあの木質の部分のことです。
果梗からはずれてばらばらになった実をカットしたり潰したりすると、果皮が破れて果肉と種、そして果汁が流出してきます。
これを分離することなく、全て一緒に発酵用のタンクへと投入します。

アルコール発酵(フェルマンタシオン・アルコリック)

 ブドウの果汁と固形部分(マール)が入ったタンクに酵母を添加すると、酵母が糖分をアルコールと二酸化炭素に分解するアルコール発酵が始まります。
(ブドウの果皮には天然酵母がついていますが、腐造を防止するため純粋培養した酵母が添加されることがほとんどです)

浸漬(マセラシオン)

 アルコール発酵と並行して、一緒に果汁に浸かっている果皮や種から色素(アントシアニン)やタンニンが溶出します。
その量は浸かっている時間に比例しますが、タンニンについてはアルコール濃度が高くなるほど溶け出しやすいため、少しの時間の差が含有量に大きく影響します。

圧搾(プレサージュ)

 赤ワインの場合は、果汁内の糖分が消費されて発酵が終了するまで浸漬を続けますが、ロゼワインの場合は適度に色と成分がうつったところで圧搾にかけてマールと分離してしまいます。
こうすることで、色だけでなくタンニンがしっかり溶け、重みのある赤ワインに近い味わいになるのです。
そして分離した果汁は不純物を沈殿させて取り除いたあと、引き続き発酵を続けます。

直接圧搾法

圧搾(プレサージュ)

 対して、直接圧搾法の場合はどちらかというと白ワインに近い工程です。
果粒をはずして果梗(かこう)を取り除いたあと、すぐに圧搾を開始します。
ただしこの際、通常の圧搾工程よりもかなり長い時間をかけて、ゆっくりと絞っていきます。
こうすることで圧搾途中の果汁が果皮や種と接触している時間が発生し、色素やタンニンが溶出します。
ただし、セニエ法と違ってこの時点ではまだ発酵が始まっていないため、たとえ同じ時間マールと接触していたとしても、アルコールがないと溶けにくいタンニンの量には大きな違いが出ます。
そのため、直接圧搾法で造ったロゼワインは比較的すっきりとした、白ワインに近い味わいになります。

アルコール発酵(フェルマンタシオン・アルコリック)

 きれいなピンク色のブドウ果汁が得られたら、白ワインと同じように微細な浮遊物を沈殿させて取り除き、培養された酵母を添加してアルコール発酵を開始します。
発酵期間は1~2週間で、白ワインと同じようにやや低温(15度前後)でゆっくりと発酵させます。

熟成

 このあとの行程は、セニエ法でも直接圧搾法でも同じです。
アルコール発酵が終わった後は、比較的短期間の熟成工程に入ります。
ロゼワインはどちらかというと「季節もの」の意味合いが大きく、収穫年の翌年、バカンスシーズンに飲まれることを想定して作られるのが一般的です。
そのため、味わいの設計も「早飲みワイン」寄りになっており、熟成期間も一般的には数週間とされています。
同じ理由で、樽熟成やマロラクティック発酵も、一部の例外を除いて行われません。
ステンレスのタンクでワインの状態が落ち着くまで少し時間を置く、くらいのちょっとした休憩を挟んだら、すぐに次の工程へ進みます。

二酸化硫黄(亜硫酸塩)の添加(シルフィタージュ)

 熟成が終了したら、二酸化硫黄(亜硫酸塩)を添加します。
この作業は酸化防止と殺菌を兼ねているため、必要以上に熟成が進んでしまうことやこれ以降の酵母の活動を抑制する意味合いもあります。

調合(アサンブラージュ)

 国や地域、生産者によっては、ここで許可される範囲で調合を行います。
異なる畑、または品種のロゼワインとブレンドし、味や香り、そして色味の微調整をします。
ただし、ヨーロッパを中心としたワイン法による制限を受ける国々では、「赤ワインと白ワインをブレンドすることによるロゼワインの生産(混成法)」は基本的に許可されていないため、ここで調合に使用されるのは飽くまでロゼワインだけです。
(日本の場合はワイン法の制限を受けないため、混成法のロゼワインも一般的に生産されています)

清澄、濾過(コラージュ、フィルトラシオン)

 香味や色合いが決まったら、最後に清澄剤を使用して微細な浮遊物を取り除きます。
ロゼワインの清澄は白ワインと同じように卵白、カゼイン、ベントナイト(粘土)などが使用されるのが一般的ですが、吸着力の強いもので清澄を行うとせっかく調整した色味も薄れてしまう恐れがあるため、赤ワインや白ワインに比べて慎重を要する作業になります。
また、ロゼワインの製法独特の絶妙なバランスを保つため、あえて清澄作業を行わない生産者もいます。
その場合はやや濁りが残ったり瓶の底に沈殿物が発生することもありますが、ノンコラージュならではの複雑で繊細な香味と色合いを楽しむことができます。

瓶詰め

 できあがったロゼワインは、すぐにパッケージに詰められます。
赤や白と違って基本的に長期熟成をさせないロゼワインは、遮光性が低いかわりに色を良く楽しむことのできる透明な瓶で販売されることが多いようです。
コルクやスクリューキャップで打栓され、ヨーロッパでロゼワインが主に消費されるバカンスシーズンに合わせて出荷されていくのです。