家庭用ワインセラーは必要なのか 抑えておきたい保存の基本

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 例えばワイン専門店などでちょっと高めの良質なワインを購入する際、気になるのは保管場所ではないでしょうか。
すぐに飲んでしまうならそんなに気にする必要はありませんが、せっかく良いワインを買うのであればできればおいしいタイミングであけたいですね。
店員さんに飲み頃を聞いて「あと五年から十年くらい経つとよりおいしく飲めますよ」と言われた場合、いったいどこで寝かせておけば良いのでしょうか。

ワインの保存に必要な条件

 ワインを長期間寝かせて熟成させる場合、いくつか気を付けたいポイントがあります。
まずひとつめは、「適度な温度変化があること」です。
例えば車のトランクや屋根裏、屋外などの「急激な温度変化」が起こる場所が保管場所に適さないことは言うまでもないでしょう。
しかし、それを避けるためにまったく温度の変化しないような場所へ仕舞いこんでしまうのも、実はワインにとっては良いことではありません。
ワインの熟成には適度な温度とその緩やかな変化が必要不可欠で、温度の変化が起こらないとたとえ適温であっても熟成は止まってしまいます。
何年寝かせても、成長が止まっていては味や香りの円熟は期待できませんので、保管場所には緩やかな温度の変化がある場所を選びましょう。
ちなみに、適温は産地やブドウ品種などによって多少異なりますが、おおよそ8~15度の間が良いとされています。

 もうひとつのポイントは「適度な湿度があること」です。
熟成用のワインボトルの栓は、基本的にコルクでできています。
これは、基本的には気密性を保ちつつほんのわずかずつ酸素を取り入れるという性質が、ワインの熟成にとって好都合だからですが、部屋があまりに乾燥しているとコルクも乾燥して縮んでしまう恐れがあります。
目で見ても分からない程度の収縮でも、酸素の流入量が増えて酸化が進み、数年後にあけてみたらすっかり劣化していた、なんてことも。
コルクの乾燥を防ぐために、通常はボトルを寝かせてコルクとワインが接触した状態を保ちますが、外気に触れる側からの劣化を避けるために乾燥のしすぎには注意しましょう。
ただし、逆に過湿状態も禁物です。
あまりに湿度が高いとカビや細菌が繁殖し、コルクやラベルをだめにしてしまう可能性があるからです。
特にコルクにカビがついてしまうと、比較的短時間で中のワインまで傷んでしまいます。
そこまでいかずとも、カビっぽい場所で長期間保存すると嫌な匂いがワインについてしまう可能性もあります。
湿度の調整が可能な場所か、もしくは一年を通して適度な湿度を保てる場所が必要です。

 さらに、「光や振動などの刺激がないこと」も重要な条件です。
短期間ならほとんど気にするようなことではない刺激でも、何年も保管する間に蓄積してワインの熟成に影響を与えてしまいます。
たとえば、直射日光が良くないことはもちろん、間接的に当たる光や蛍光灯などの人工的な光もワインにとっては予期していない刺激になり得ます。
もちろん、完全に光が当たらないようにするのはかなり難しいため、ワインボトルも光をカットする暗い色のボトルを使用するなど対策を施してありますが、影響を最小限にするためにも保管中のワインにはできるだけ光を当てないようにしたほうが良いでしょう。
 振動も同様にワインに対しての不要な刺激になってしまいます。
輸送中に多少ゆれるのは仕方ないにしても、日常的に振動が伝わってくるようなモーターの入った機械の近くや不安定な場所はワインの保管には適しません。

どこで保存するか

 では、実際のところどこで保管するのが良いでしょうか。
ワインを自宅で保管する際に利用されがちな場所を中心に、適当、不適当を検証してみましょう。

冷蔵庫

 ワインについてあまりよく知らない状態で、できるだけ劣化しにくいところ、と考えると、つい冷蔵庫を選択してしまいがちですが、ここは実はワインの長期保存にはまったく向いていません。
家庭用の冷蔵庫は通常、冷蔵室で5~7度、野菜室で6~8度程度に設定されており、ワインの熟成に使用するには温度が低すぎます。
また、温度の変化もほとんど起こらないため、その観点からも熟成が止まってしまう可能性が高いでしょう。
冷蔵庫内はその低温や温度を下げる構造から基本的に湿度が低く、コルクにとっても有害な環境といえます。
小型のコンプレッサーが駆動し、頻繁に開け閉めが行われる冷蔵庫内は振動も多く、野菜室など場所によっては転がってしまう恐れも。
そしてなにより、いろいろな食品がはいる冷蔵庫はかなり強いにおいが漂っているため、それがワインに移ってしまう可能性もあります。
スクリューキャップの早飲み系のワインを数日保管したり、白ワインやスパークリングワインを飲む前に冷やす分にはまったく問題ないのですが、熟成を期待するワインを長期間冷蔵庫にしまいこむのは、絶対にやめましょう。

押入れ

 冷暗所と聞いて、押入れを思い浮かべる方もいるかもしれません。
確かに光が差し込みにくく、部屋に比べて温度変化の少ない押入れの奥は、長期間使用しないものを保管しておくのに都合が良い場所といえます。
部屋の中やラックなどに比べて、一定のスペースを占拠し続けてもあまり邪魔に感じないというメリットもあるでしょう。
ただ、やはり人が生活する部屋の押入れだと、どうしてもその温度に影響されてしまいがちです。
日本の気温変化は一年を通してかなり大きく、クーラーや暖房を使用しているとはいえワインにとってはあまり好ましい環境とはいえません。
そもそも人が快適に生活できる室温は、ワインの熟成にはちょっと高すぎると言えるでしょう。
場所や一緒に保管されているものによっては、湿度の問題もあるでしょう。
特に梅雨の時期は気を付けていないとすぐに過湿状態になり、カビやほこりのにおいが移ってしまいます。
一年を通じてあまり温度の変化しない使用されていない部屋の、あまり物が入っていない押入れであれば使用できる可能性もありますが、基本的にはあまり好ましい環境とはいえないでしょう。

部屋のラック

 普段使用する部屋に置いたラックの上はどうでしょう。
実際問題、日本の場合はよほどのことがなければこの選択肢を選ぶ方が多いのかもしれません。
人が生活している部屋であれば湿度が高すぎたり低すぎたりすることは少なくなるでしょうし、異常な高温低温にさらされることもないでしょう。
しかし、上にも書いたように人にとって快適な温度帯はワインにとってはちょっと暑すぎるため、長期間の熟成には向いていません。
また、普段の生活スペースに置いておく場合は照明や日光による光の影響をどうしても強く受けてしまいます。
インテリアのように楽しむワインラックで短期間置いておくくらいならともかく、長期間の熟成には向かない環境といえます。
部屋のラックで保管するのであれば、普段あまり使用していない涼しい部屋にラックを設置し、部屋そのものやラックに遮光の工夫が必要です。
ラックにも最低限ボトルが転がってしまわないような台や仕切りを置き、常時エアコンなどで温度調整や湿度調整をできるなら、ワインにとって快適な環境を作ることもできるかもしれません。
数十本、数百本という大量のワインを熟成させたい人向けの保管方法といえるでしょう。

床下収納

 キッチンなどによくある床下収容も、条件によっては使えるかもしれません。
大前提として、古い家にあるような外と繋がってしまっているものではなく、マンションや築浅の家に備え付けられているユニットをはめ込んだタイプのものが必要です。
配管などの関係で温度が上下してしまわないかどうか、事前に温度計を入れて何度もチェックしておきましょう。
人が上を頻繁に歩くような場所に設置されていると、その振動が伝わってしまう恐れもあります。
できれば、他に頻繁に利用するようなものが入っていない、普段はほとんど開けない状態であればなお良いでしょう。
こうしたチェックをクリアできるのであれば、温度が安定しつつもふたを通じて緩やかに熱交換が起こるため温度変化もあり、普段は完全に遮光状態で寝かせておけるという理想的な環境として利用できます。
タオルを敷くなどして転がらないようにしてふたを閉め、あとは時々様子を見ながら熟成させたい期間置いておくだけです。
条件が合えば非常に優秀なワイン用保管庫になってくれるのですが、湿気や匂いがこもるケースも少なくありませんので、温度なども含めて事前のチェックは怠らないようにしましょう。
また、あまりたくさんのワインを貯蔵しておけない、という問題点もあります。

物置、蔵

 屋外に設置されている物置は、よほどしっかりしたつくりの断熱性能の高いものでなければ、ワインを保管するのには向きません。
ホームセンターなどで販売されている簡易に設置できるタイプのものは、壁も天井も最低限で外気温にダイレクトに影響される上、日が当たるとかなり高温になってしまいます。
断熱材がしっかり入っているもので一年中完全に日陰になる位置に建っていれば使用できる可能性はありますが、湿度やにおいなどクリアせねばならない条件が多くなってしまいます。
古い家にあるような昔ながらの蔵であれば、光が入らず断熱性も高くなりますが、一緒に収容しているものによってはやはり匂いや過乾燥の問題があります。

地中、水中

 かなりの荒業ですが、地中に埋めたり水中に沈めておくというやり方も候補として挙げられます。
もちろん、ボトルをそのまま土に埋めてしまってはコルクが腐ってあっという間に何もかもだめになってしまうだけですし、水中と言っても池や川程度では何の意味もありません。
地中の場合は、大きな穴を掘ってレンガや木で小さな部屋を作り、中にラックを組んだり木箱に入れたワインを積んで密閉し埋め戻します。
あとにそれと分かる目印を立てておく必要があるでしょう。
水中の場合は水が絶対に入らないように口を蝋などで覆い、金属製のかごに入れてできるだけ静かな海底に下ろします。
浅瀬では光が届きますし波の影響で振動が伝わってしまうので、水深が数十m以上は必要になります。
かなり無茶な話に聞こえるかもしれませんが、どちらもワインの愛好グループや研究所などによって試されている方法です。
地震の多い日本ではちょっとリスクが高すぎる手法ですが、取り出すまで完全に外界の影響を受けなくなり、温度も湿度も緩やかに変化するという点では、外界に置いておくよりも理想に近い環境といえるでしょう。
また、海中での熟成は通常の10~100倍ものスピードで進むという研究もあり、数年待つだけでまるで何十年も熟成させたような味わいのワインになる可能性もあるということです。
もちろん、個人でやるにはいろいろな意味でハードルが高いため、気軽に試すというわけにはいきませんが。

家庭用ワインセラー

 結局のところ、一定以上の量のワインを安全に保管しておくには、家庭用のワインセラーを使用するのがもっとも簡単だと言えそうです。
製品によってサイズや性能にかなり差がありますが、少なくとも温度や湿度などの問題はなくなります。
近年販売されているものであれば、10本前後収納の小型タイプなら1~2万円からで購入可能で、騒音や消費電力にも配慮されたタイプが多くなってきています。
大型のタイプになると価格もそれなりに高く、設置する場所も確保せねばなりませんが、一年中空調を付けた部屋をひとつ確保したり床下収納を占拠したり、庭に穴を掘って木やレンガと共に埋めるよりは対処しやすいのではないでしょうか。

もっと長期間熟成させておく場合

 5年から10年程度の期間熟成させておくくらいであれば、適切な保管場所さえ用意できれば問題ありませんが、数十年という長期スパンでの熟成を行いたい場合はそれだけでは足りません。
ワインは生き物に例えられるくらい繊細で常に変化を続けるお酒なので、10年以上の熟成を行うのであればそれなりの知識と技術に基づいたケアが必要になります。
また、ワインセラーも家電製品である以上、長年使用しているとだんだんガタが来てしまうかもしれません。
基本的に放っておくような状態だと、問題が起きていることに気付くのが遅れてしまう可能性もあります。
貴重なワインを何十年もかけて熟成させたいのであれば、無理をせずに専門ショップや保管業者のレンタルセラーを利用しましょう。
設備もそれを扱う人の知識と経験も、素人のそれとは大きく違ったものになります。
年間利用料などがいくらかかかりますが、プロがしっかりと管理してくれるため、余計な心配をせずに待てるのは大きなメリットといえるでしょう。

 自分自身で苦労して熟成させたワインは格別であるため、なんとかして自分自身でやりたいという気持ちがわくものですが、それでワインそのものを台無しにしてしまっては元も子もありません 自分のそろえられる環境を良く吟味し、熟成させたい期間や量なども加味して、適切な方法を選ぶようにしましょう。