ワインの格付けとは ワイン法を中心とした価値あるワインの考え方

目次

ワイン法とは

 「ワイン法」とは、ワインの産地や原料、製法に関して規定した法律のことです。
一般的にはA.O.C.(アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ/Appellation d'Origine Contrôlée)、日本語訳で「原産地呼称統制(もしくは原産地統制呼称)」という名で呼ばれていますが、これはチーズや他の農産物に対する規定も持っているため、厳密に言うと「ワインのA.O.C.」となります。
19世紀中頃、フランスで産地や生産者を偽装したワインが大量に出回り、これに危機感を覚えたワイン生産者たちによる大規模なデモが発生。
死者がでるほどの衝突の末、20世紀初頭に一連の法律の原点となる「原料の偽装を取り締まる法律」、1919年に「原産地保護に関する法律」が制定され、1935年にワインのA.O.C.制度とそれを統括するI.N.A.O.が創設されました。
ワインのA.O.C.制度では製法や産地、原料のほか、最低アルコール度数やブドウの樹の栽培方法、発酵後の熟成方法などについての決まりがあり、クリアしている基準の数やレベルによって使用できる名称に制限とランクが設けられています。
基本的に、より上位のランクになるほど多くの規定をクリアせねばならず、これによって品質を維持しているのです。

 最初に現代的なワイン法を制定したのはフランスで、当初はもちろんフランス国内だけが規制の対象でしたが、その後ヨーロッパ諸国や他のワイン生産地でもそれに倣った法律が作られ、現在では(国ごとにかなり異なるものが多いにせよ)ワインを造るほとんどの国で同様の制度が利用されています。
そして、ヨーロッパにおいてはEUが2008年に複数の理事会規則(「生産調整に関する規定」、「使用可能なブドウ品種、醸造法、原産地呼称・地理的表示制度、ラベル表記などの規制措置」、「EUのワイン産業に対する支援措置」、「域外国との輸出入規定」など)によって大枠となる基準を制定。
これに合わせる形で(多くは2009年のヴィンテージから)ヨーロッパ諸国もワイン法を改正しました。
2017年現在ではEUの規則が発効する前の旧ワイン法に基づく表記と、現在効力を持つ新ワイン法に基づく表記が混在している状態なので、しばらくは両方を把握しておく必要があります。

主な国のワイン法

フランス

 フランスのワイン法は、1935年に制定されました。
現在まで数度の改定を行っており、他の国のワイン法の見本となっています。

 2008年までの旧ワイン法では、最上級ランクのA.O.C.(保護原産地呼称)、それよりやや緩やかな規定のA.O.V.D.Q.S.(Appellation d’Origine Vin Delimites de Qualite Superieure/保護原産地上質指定ワイン)、Vins de Pays(地酒)、Vins de Table(テーブルワイン)の4段階に分類されていましたが、新しいワイン法ではA.O.V.D.Q.S.を廃止。
上からA.O.P.(Appellation d'Origin Protegee/原産地名称保護)、I.G.P.(Indiation Geographique Protegee/地理的表示保護)、Vignoble de FranceもしくはWine of France(地理的表示のないワイン)の3段階に変更され、A.O.V.D.Q.S.に含まれていたワインはA.O.P.かI.G.P.に移行しました。
(A.O.P.は現在でもA.O.C.と表記されることがあります)

 フランスワインのA.O.C.は約350あり、そのうちの約30%は最小単位だと畑ごとに異なるA.O.C.を持っているブルゴーニュ地方に存在します。
また、ブルゴーニュではA.O.P.内でも「Grandes Crus(グラン・クリュ/特級畑)」「Premieres Crus(プルミエ・クリュ/一級畑)」など格付けが存在し、ボルドーでは同一A.O.P.の中で生産者(シャトー)によって格付けがなされるなど、A.O.C.制度以外にも順位があります。

イタリア

 イタリアのワイン法は、世界大戦の終結からしばらくたった1963年に制定されました。
基本的にはフランスのワイン法をお手本にしていますが、ヨーロッパ内では最古と言っていいほど古いワイン史を持つ国らしく伝統的な品種や産地にこだわった基準によるものが多く、ときに品質や評価にそぐわないと批判されるケースもあるようです。

 イタリアのワイン法もフランスと同じく2008年を境に改定されました。
2008年までは、最上級のD.O.C.G.(デノミナツィオーネ・ディ・オリージネ・コントロッラータ・エ・ガランティータ/Denominazione di Origine Controllata e Garantita)以下、D.O.C.(デノミナツィオーネ・ディ・オリージネ・コントロッラータ/Denominazione di Origine Controllata)、I.G.T.(インディカツィオーネ・ジェオグラフィカ・ティピカ/Indicazione Geografica Tipica)、V.d.T.(ヴィーノ・ダ・タヴォラ/Vino da Tavola)の4段階でしたが、2009年以降はD.O.C.G.とD.O.C.を統合してD.O.P.(デノミナツィオーネ・ディ・オリージネ・プロテッタ/Denominazione di Origine Protetta)とし、I.G.T.とV.d.T.をそれぞれI.G.P.(インディカツィオーネ・ジェオグラフィカ・プロテッタ/Indicazione Geografica Protetta)とVinoに名称変更しています。

 かつてはD.O.P.制度で認定を受けるためには、イタリア土着のブドウ品種を使用せねばならず、それ以外の品種から造られたワインはいかに良質であってもV.d.T.、つまりテーブルワイン扱いでした。
しかし、カベルネ・ソーヴィニヨンを使用した「サッシカイア」のように、D.O.C.認定を受けていない良ワインが「スペール・トスカーナ(スーパー・タスカン)」として評価されるようになったことから、少しずつ実情に即した制度になるよう改定されてきているようです。
(ちなみにサッシカイアはその国内外の高い評価を受け、1994年に「ボルゲリ・サッシカイア(Bolgheri Sassicaia)」としてD.O.C.認定を受けています)

ドイツ

 ドイツでは1971年にヨーロッパスタンダードに近い形にワイン法が改正され、2008年に他国と同様EUの新ワイン法に準拠したものに再改正されました。
基本的にはスタンダードですが、1830年に物理学者のフェルディナンド・エスクレ氏(Ferdinand Oechsle)が発明した、「エスクレ度(°oe)」という比重測定法による果汁糖度での分類が現在でも行われているため、ぱっと見だとちょっと分かりづらい独特なルールになっています。

 まず、EUの分類に則した3段階の分類としては、上からg.U.(Wein mit geschützter Ursprungsbezeichnung/保護伝統表記つきワイン)、Landwein(指定地域に基づくワイン)、Deutscher Wein(ドイツ産ワイン)となります。
このうち、Landweinは一部の例外を除いて辛口ワインだけを造っており、ワインになった際の残留糖度によってトロッケン(Trochen/辛口)とハルプトロッケン(Halbtrocken/中辛口)に分けられます。
また、2000年からは辛口ワイン特有の格付けとして、エスクレ度などさらに厳しい基準をクリアしたものに対してのClassic(クラシック)とSelection(セレクション)という表記が導入されています。
g.U.は原料となるブドウの生産地域や補糖の可否によって、Prädikatswein(生産地限定格付上級ワイン、旧Q.m.P.(Qualitätswein mit Prädikat/肩書き付き上質ワイン))とQ.b.A.(Qualitatswein bestimmter Anbaugebiete/生産地域限定上級ワイン)の2つに分類され、さらにPrädikatsweinはエスクレ度や収穫時期などによってカビネット(Kabinett)、シュペトレーゼ(Spätlese)、アウスレーゼ(Auslese)、ベーレンアウスレーゼ(Beerenauslese)、アイスヴァイン(Eiswein)、トロッケンベーレンアウスレーゼ(Trockenbeerenauslese)の6段階に格付けされます。
このほか、近年ではフランスのブルゴーニュのような畑による格付けも行われており、一筋縄ではいかない複雑さとなってきているようです。

スペイン

 スペインでワインについて最初の呼称制度は1926年、リオハ原産地呼称統制委員会が設立されたことでスタートしました。
その後1932年にワイン法が制定、1970年には「ブドウ畑、ワインおよびアルコールに関する法令」が施行されたことで、デノミナシオン・デ・オリヘン(D.O./原産地呼称制度)が定められ、2009年にEUのワイン法改正に伴う三段階の分類も始まっています。
2017年現在、EU分類とスペイン国内の旧来の分類表記はどちらも使用が認められているため、特に上級ワインではいまでも旧分類の表記が目立つようです。

 2009年から適用されているEUによる分類は、D.O.P.(Denominacion de Origen Protegida/保護原産地呼称)、I.G.P.(Indicacion Geografica Protegida/保護地理的表示)、Vin(格付けなしワイン)の3段階です。
それに対して旧来から使用されてきたスペイン国内の分類は、V.P.(Vino de Pago/単一ブドウ畑限定高級ワイン)、D.O.Ca.(Denominación de Origen Calificada/特選原産地呼称ワイン)、D.O.(Denominación de Origen/原産地呼称ワイン)、V.C.I.G.(Vino de Calidad con Indicación Geográfica/地域名つき高級ワイン)VdIT(Vino de la Tierra/地酒、地方ワイン)、Vino(格付けなしワイン、テーブルワイン)の6段階。
(Vinoの上にViñedos de Españaというガラスボトル以外の容器で流通する用のカテゴリもありますが、まだ新しく一般的には省略されることが多いようです)
旧分類のうち、V.P.、D.O.Ca.、D.O.、V.C.I.G.の4ランクはEU分類のD.O.P.に、VdITはEU分類のI.G.P.にカテゴライズされます。

 下位のランクで一定の期間実績を積むと上位のランクに申請できるようになっており、現在はまだD.O.P.カテゴリの産地の数が少ないのですが、今後少しずつI.G.P.から昇格して増えていく方針になっているようです。

オーストリア

 オーストリアは中世に盛況を誇ったワインの名醸地ですが、1985年のジエチレングリコール混入事件によって一度その国際的な地位を大きく失墜させてしまいました。
そのため、現状非常に厳格なワイン法を運用しており、一説では「世界一厳しいワイン法」であるともされています。
分類は旧来より使用されてきた糖度や原料の状態によるものと、EU分類の地理表示・呼称保護による3分類、そしてフランスのA.O.C.にあたる原産地呼称制度、D.A.C.が混在しており、ドイツの制度に近い複雑さを持っています。

 まず、EU分類は上からg.U.(geschützte Ursprungsbezeichnung/保護原産地呼称付きワイン)、g.g.A.(geschützte geogeafische Angabe/保護地理表示付きワイン)、Wein(地理的表示なしワイン)の3段階に分かれます。
g.U.は国内分類のうち、上からプレディカーツヴァイン(Prädikatswein)、カビネット(Kabinett)、クヴァリテーツヴァイン(Qualitätswein)の3カテゴリーを含み、g.g.A.は国内分類ではラントヴァイン(Landwein)となります。
さらに、プレディカーツヴァインは原料となる果汁糖度によって7段階に分類され、上から順に、トロッケンベーレンアウスレーゼ(Trocken beeren auslese)、アウスブルッフ(Ausbruch)、シュトローヴァイン(Strohwein)、アイスヴァイン(Eiswein)、ベーレンアウスレーゼ(Beerenauslese)、アウスレーゼ(Auslese)、シュペートレーゼ(Spätlese)となります。
ちなみに、オーストリアの糖度単位はドイツのエクスレ度とは違い、KMW(グロスターノイブルク・モスト・ヴァーゲ/Klosterneuburger Most Waage)という単位が使用されます。
1°KMWはおよそ5°oeです。
g.U.カテゴリーのワインは先述のD.A.C.制度の認定も進められており、例えばアウスブルッフは糖度のほかに「ルストで造られたトロッケンベーレンアウスレーゼ」という条件が加わっています。
D.A.C.ワインは実情とのすり合わせがなかなか進まず、まだ数も少ないのですが、今後少しずつ増えていく予定です。

アメリカ

 アメリカにおけるワイン法の制定は1978年とごく最近です。
それまでは安価な大量生産品が中心だったアメリカワインですが、ワイン法制定と前後して高品質なワインがいくつも登場し、世界市場でもその存在感を増していきました。
アメリカをはじめとするヨーロッパ外のいわゆる「新世界」のワイン産地では、自主的に模倣しない限りEUが定める規則に従う必要がなく、ワイン法もヨーロッパ諸国のそれとは違う形になっています。
そのため、新しい栽培方法や醸造手法にチャレンジしたい醸造家が、ヨーロッパから渡ってきてワイン造りを行うケースも少なくなく、これが20世紀後半からのアメリカ産ワインの急速な成長の一因となったとも言われています。

 アメリカのワイン法では、醸造方法や使用するブドウ品種の縛りがなく、EU基準のような階層になった分類もありません。
ただし、ブドウの品種名やヴィンテージ、生産地名を表示するためには、該当するブドウを一定の割合以上使用している必要があります。
この割合の定めは何を表示するかや州によって異なり、75%~100%の間で規定されています。
また、アメリカのブドウ産地は最初のワイン法制定以降A.V.A.(American Viticultural Areas)という政府の指定を受けることになっており、そこで栽培されたブドウを85%以上使用することで名称を表示できることになっています。

格付けと品質

 ワイン法はもともと、最低限の基準にすら達していない「偽ワイン」や本来の産地・生産者と異なる表示を排除し、本物のワインを区別するために生まれました。
しかし産業や技術が発展し、国外のものも含めて多くのワインが流通するようになると、今度はそれらの優劣を区別するという目的が大きくなっていきます。
実際、テロワールを重視し必要以上に人が手を入れることを良しとしないヨーロッパ諸国では、地域や村、畑ごとの区別は生産者ごとのそれよりも、品質を判断する上で大きな意味を持っているといえます。
飲んだことのないワインが自分の好みに合うものかどうかコルクを抜く前に判断するためには、ワイン法に基づいた表示を解読する知識が必要になります。

しかし、だからといってその情報だけを絶対視する必要はありません。
科学や醸造技術の発展によって、旧来の名醸地や醸造方法以外からも素晴らしいワインが生まれるようになってきています。
かつてのスペール・トスカーナのように、規定からはずれるためにテーブルワイン扱いであるにもかかわらず、驚くほどおいしいワインも少なくありません。
アメリカをはじめとする新世界諸国のワインも急速に発展してきており、単純な格付けを持たないワインが今後もどんどん増えていくでしょう。
そしてなにより、ワインは嗜好品です。
格付け上位の高級ワインが他のワインよりも「自分にとって」おいしいかどうかは、飲んでみるまで分からないのです。

 ワイン法に基づいた表示は大きな指針となるのは確かですが、それはあくまで目安と考え、判断の中心からははずしたほうがよいでしょう。
あえて格付けや分類を考慮に入れないことで、思いもよらなかったワインとの出会いがあるかもしれませんよ。