トスカーナのワイン造り 特徴、製法など

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スーパー・タスカン

 現在のトスカーナ州のワイン生産における最大の特徴といえば、間違いなくこの「スーパー・タスカン(Super Tuscan)」でしょう。
イタリアの土着品種を使用せず、カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネといったヨーロッパ系のメジャーな品種を使って造られるこれらのワインは、イタリアワインの知名度と品質の向上に大きく貢献しました。
スーパー・タスカンが生み出されるきっかけとなったのは1940年代のこと。
当時ボルゲリを領有していたマリオ・インチーザ侯爵は、好んで飲んでいたフランス、ボルドー地方のワインが戦争によって手に入らなくなったことから、自分で造ってしまおうとボルドーの苗木を取り寄せ畑に植えますが、素人による、それも設備も揃わない自家醸造だったためあえなく失敗。
そのうち戦争も終結してワインの流通も再開されたため、畑もワインもしばらくは忘れられてしまいました。
しかし1960年に入ったころ、十分に成長し良質な実をつけるようになっていたそのブドウの樹に興味を持った人々が再度ワインを造ってみると、驚くほど良質なワインが出来上がります。
そして最初は3000本程度からスタートしたワイン造りは、買い手が殺到したことから瞬く間に拡大していくことになります。
これが、植えられた砂利質の土壌から「サッシカイア(Sassicaia/石ころだらけの土地)」と名付けられた、スーパー・タスカンの元祖となるワインのはじまりです。
ただ、イタリアに限らずワイン法の基本方針は「伝統的な品種や製法で造られたワインを認定する」というものなので、当初はその品質にもかかわらず「テーブルワイン」という扱いでした。
しかし、それによって逆に製法などの規則に縛られることがなくなり、近代的な設備や技術をスムーズに投入することができ、結果としてはイタリア国内の他の地域に近代化を促す良い刺激ともなりました。
そして、あまりの評判と「制度が実態にあっていない」という批判の高まりを受け、1994年に「ボルゲリ・サッシカイア(Bolgheri Sassicaia)」として単独でDOCに認定されることになったのです。
この成功例によって、トスカーナ州の他の地域はもちろん、イタリア全体でも次第に伝統品種にこだわらないワイン造りが試行されるようになってきており、価値観が多様化した現代においてイタリアワインの可能性を広げる大きな可能性のひとつとなっています。

ほとんどが赤ワイン

 2017年現在、トスカーナ州では50のDOPワインが認定されており、そのうち旧制度におけるDOCG相当のワインは11あります。
このうち、実に10のデノミナツィオーネが赤ワインのみを認めるもので、白ワインは中世の高層建築で有名な都市「サン・ジミニャーノ」周辺で造られる「ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ(Vernaccia di San Gimignano)」のみとなっています。
テロワール的には、地区によってはミネラル豊富で石灰質も多い土壌を持つトスカーナは白ブドウ栽培に向いていないわけではないのですが、歴史的な需要の推移などから赤ワインの生産の方が大きく発展することになったのです。
生産量でも、赤ワインは全体の85%以上を占めており、まさにイタリアを代表する高級赤ワインの産地のひとつと言えるでしょう。

多種多様なテロワール

 山にも海にも面し、全体的に起伏の大きなトスカーナ地方は、その面積から想像されるよりもかなり多様なテロワールを持っています。
沿岸分は雨が少なく昼夜の寒暖差の激しい海洋性気候ですが、内陸では収穫期にまとまった雨の降る恐れのある大陸性気候になっています。
そのため、内陸側に畑のあるワインはヴィンテージによる差が大きく、購入時に注意が必要とされています。
全体の2/3以上を占める丘陵地帯では、斜面の緩急や標高の違いが、土壌の水はけや日の当たり方、地層なども変化させ、隣り合った地域や地区でもまったく違う特徴を持つことも珍しくありません。
好みのワインを探し当てるには事前の調査が不可欠ではありますが、逆に自分にとっての最良のワインをとことん追及したい人には、探しがいのある地域であるといえるかもしれません。