シェリーの定義と種類 フォーティファイドワインとはその6

目次

世界三大フォーティファイドワインのひとつ シェリーとは

 シェリーは、スペインの南部にあるアンダルシア州で造られるフォーティファイドワインです。
デノミナシオン・デ・オリヘン(Denominación de origen/DO/原産地呼称制度)では、「ヘレス=ケレス=シェリー」が正式名称とされ、アンダルシア州南西部にある、「シェリー三角地帯(ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ、サンルーカル・デ・バラメダ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアの三都市を頂点とした三角形の地域)」一帯にある、認定を受けた畑で生産されています。
ヘレス周辺は紀元前からワイン造りが行われている土地で、シェリーもいつ頃から造り始められたのか断定できないほど昔から生産されているとのこと。
今では他の国や地域と同じように工程の一部は機械化していますが、かつては花崗岩や丈夫な木製の桶(ラガール)の中でブドウを踏んで搾っていたそうで、いまでもイベントやお祭りの時には当時を再現したブドウ踏みが行われることがあります。

産膜酵母の力を借りる独特の手法 シェリーの樽熟成法

 シェリーの大きな特徴のひとつは、樽熟成時に産膜酵母の力を借りることです。
他のフォーティファイドワインの場合は、一次発酵の途中で蒸留アルコールを加えて発酵を止めますが、シェリーは最後まで発酵を進めてさらにそのまま樽熟成に進みます。
この時、スティルワインであれば酸化が起こらないように樽一杯にワインを詰めますが、シェリーはあえて空気が入る余地を残します。
こうすると、産膜酵母と呼ばれるサッカロミセス属の酵母がワインの液面に膜を作って酸化を防いでくれます。
この膜は「フロール」と呼ばれ、酸化防止に加えて独特のコクと香りを生み出す役割も持っています。

アルコール度数とフロールの有無 フィノとオロロソ

 数週間程度その状態で留め置かれた後に滓引きが行われ、その後ようやく蒸留アルコールが添加されて、アルコール度数が15%程度、もしくは17%程度まで引き上げられます。
15%程度に調節したものは「フィノ」、17%程度まで引き上げたものは「オロロソ」と呼ばれ、このあとの熟成過程や香味が違ってきます。
フィノはアルコール添加後も酵母が生き残ることができるため、フロールが残ったまま熟成します。
そのため酸化はほとんど起こらず、白ワインのような金色の輝きを持った水色を保ちます。
対してオロロソではフロールが消え、酸素に触れるようになるため酸化熟成が始まります。
これによってウイスキーやブランデーなどのような、香ばしい風味と琥珀色の水色へと変化していきます。

まるで「秘伝のタレ」? ソレラシステムとは

 シェリーは樽熟成の方法も独特です。
熟成に使用されるオーク樽は縦に3~4段に積まれ、一番下にもっとも古い(熟成された)シェリーが、上の段に行くほど若いものがはいっている状態にします。
熟成を終えて出荷する際には当然一番下の樽から瓶へと詰めますが、一度に取り出す量は半分以下(理想的には1/10)まで。
そして、減った分をひとつ上の樽から注ぎ足します。
そうするとその樽の中身も減りますので、その分をさらに上の樽から足す、という具合に、樽の中身が常に古いシェリーと一段階若いシェリーの混合状態になっているようにするのです。
(日本でこれに一番近いシステムを採用しているのは、焼き鳥やうなぎに使用する「秘伝の注ぎ足したれ」でしょうか)
こうすることで、ブドウの収穫年や樽ごとの熟成の進み具合に左右されない安定した品質のシェリーを造ることができ、また理論上は終わることなく熟成を続けられるのです。
これを、「ソレラシステム」と呼びます。
以前はマディラでも同じシステムが採用されていましたが、現在は法律の関係からほとんど行われておらず、シェリー独自の手法となりつつあります。
(一部、このシステムに組み入れず単一年度のワインだけで仕込むものもあり、「アニャダ」と呼ばれています)

許されるのは3品種だけ シェリーに使用するブドウ品種

 シェリーに使用できるブドウは3品種だけで、すべて白ブドウです。

  • パロミノ(Palomino)
    一般的な製法の辛口シェリーに使用される品種で、ヘレスで栽培されるブドウの95%を占めています。
    大きな特徴はありませんが、それがシェリー造りにとって重要な特性ともなっています。

  • ペドロ・ヒメネス(Pedro Ximénez)
    華やかな香りが特徴のブドウです。
    収穫後、天日で干して果汁を濃縮してから造る同名の極甘口シェリーの原料となります。

  • モスカテル(Moscatel)
    強い甘みと酸味をもつブドウです。
    ペドロ・ヒメネスと同様、品種名を冠した極甘口シェリー専用の品種です。
    (こちらは果汁濃縮を行わず、一般的なフォーティファイドワインと同じようにアルコール添加による発酵中断のみで甘くします)
    レーズンとして食用でも利用される品種です。

熟成経過や年数で変化 シェリーの分類

 シェリーは前述の通り「フィノ」と「オロロソ」の2タイプに分類されますが、フィノは熟成される地域や経過などによってさらに3つに分かれます。

  • フィノ
    産膜酵母を維持したまま樽熟成されるもののうち、ヘレスと、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアで熟成されたもの。
    一般的なフィノタイプのシェリーで、すっきりとした辛口です。

  • マンサニーニャ
    産膜酵母を維持したまま樽熟成されるもののうち、サンルーカル・デ・バラメダで熟成されたもの。
    一般的なフィノよりも淡い水色と繊細な香味を持つようになります。

  • アモンティリャード
    最初は維持していた産膜酵母が樽熟成中に消えて、途中から酸化熟成したものです。
    フィノとオロロソの中間の特徴を持ち、産膜発酵香と酸化熟成のコクを楽しむことができます。
    アルコール度数はフィノよりも少し上昇し、16%以上となります。

 さらに、アモンティリャードの香りとオロロソのボディをもつ「パロ・コルタド」、前述の極甘口「ペドロ・ヒメネス」「モスカテル」などもあります。
 このうち、「オロロソ」「アモンティリャード」「パロ・コルタド」「ペドロ・ヒメネス」の4種は12年以上の熟成によって、以下の表示が許可されています。

  • Vinos de Jerez con Indicacion de Edad
    熟成期間12年以上

  • Vinum Optimum Signatum(VOS)
    熟成期間20年以上

  • Vinum Optimum Rare Signatum(VORS)
    熟成期間30年以上