ワインのポテンシャルと適切な保管が必須 古ければいいってものじゃない ヴィンテージワインの価値その2

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熟成で価値の上がるワインと上がらないワイン

 市場に出ているワインを購入する際、ヴィンテージが一定の参考になるのは間違いありません。
では、優良なヴィンテージのワインであれば、どのワインでも価値が上がることを期待できるか、というと、実はそうとも言い切れないのです。
ワインには熟成によって価値が上がるものとそうでないものがあります。

 長期間熟成させても価値が上がらないケースの一つは、「熟成に向かない品種を使用している」というものです。
カベルネ・ソーヴィニヨンをはじめとするタンニンの多い複雑な味わいを特徴とする品種は、若いうちはとげとげしていたり渋みが際立ちすぎておいしく飲むことができませんが、熟成が進むごとに複雑さをキープしたままバランスの取れた味わいを獲得していきます。
逆にピノ・ノワールのような豊かな果実味を主体とする品種は、そのみずみずしいフレッシュさがしっかりと残る若いうちのほうがおいしく飲むことができ、長期間熟成するよりもすぐに消費してしまったほうが良いものが多いようです。
(例外ももちろんあります)
またそこまでいかずとも、短期間の熟成、例えば10年でピークを迎えるワインを、数十年後までキープしておくのもあまり意味がないといえるでしょう。
ある意味希少価値は上がるので、熱心なファンのついている超有名ワイナリーのボトルなどであれば買い手がつくかもしれませんが、基本的には売却するタイミング(もしくは開栓するタイミング)がピーク手前かピークに重なるように考えなければなりません。

 「ワイン自体のポテンシャル不足」というケースもあります。
品種的には数十年の熟成を経て本領を発揮するはずが、途中で成長を止めてしまうワインが少なからずあります。
熟成環境のせいであることも多いのですが、元となるブドウに長期間の熟成に耐えるだけの力がなかった場合も。
そうなると、そのボトルだけではなく同じロットやワイナリーの同ヴィンテージ全体の価値にも関わってきてしまいます。
高評価のヴィンテージではなかなか起こらないことではありますが、まったくないというわけではないので、ある程度評価が固まるまで様子を見るなど注意が必要です。

「価値あるヴィンテージワイン」を「資産」にするためには

 優良ヴィンテージの長期熟成に適したワインを入手し、数十年の熟成に耐えるポテンシャルがあることも確認できたとしたら、これで一安心といえるでしょうか。
いいえ、それはゴールではなく、スタートに立ったに過ぎません。
ワインは「保管する」のではなく「育てる」もの。
購入した時点では原石の状態であるワインを、正しく扱うことでヴィンテージワインへと成長させねばならないのです。

 ワインが熟成するためには、適度な温度と湿度が必要です。
例えば購入したワインを押入れの中に立てておいたりしたら、おそらく10年もたたないうちに劣化してしまうはずです。
ワインはコルクの乾燥を避けるために必ず寝かせて保管します。
直射日光や高温はもちろん、わずかな光や振動も極力避けるようにしましょう。
過度な乾燥や低温も、コルクの劣化や熟成不良を引き起こす原因になってしまうので避けねばなりません。
めったに立ち入らない温度と湿度の安定した暗い地下室、とまでは言わずとも、最低限大型のワインセラーは必要でしょう。

 良い環境が整っていたとしても、放っておいてはいけません。
もっとも理想的な状態では、ワインボトルは完全な気密状態ではなく、コルクの隙間からほんの少しだけ換気し続けます。
これによって熟成に必要なごく微量の酸素を確保するのですが、同時にワインがほんの少しずつ揮発して目減りしていってしまいます。
ワインが減るとボトル内部の空間が大きくなり、酸化がわずかずつ早くなってしまうため、一定期間(10年~15年程度)に一度、コルクを抜いてワインを継ぎ足さねばなりません。
継ぎ足すワインは減った分、つまり全体の1/15~1/20程度の極微量ではありますが、これは必ず同じヴィンテージの同一ワインを使用します。
この作業は、不必要な酸化が起こらないように手早く確実に行わなければなりません。
(同一のワインがない場合や、保湿のしっかりしたセラーを使用することで、この作業を行わないケースもあります)
自分で飲むためにとってある場合は別として、資産として活用するつもりなら、ワインを正しく育ててきたことが客観的に証明できねばなりません。
劣化していないか、中身が本物であるかは飲んでみるまで分からないため、管理環境や出自に不明瞭な点があると、警戒して買い手がつかなくなる可能性もあるからです。
現存するボトルがほとんどないような極希少なワインであれば、多少のリスクがあっても欲しがる人はいるかもしれませんが、それでも正規の価値よりも低めに見積もられるのは避けられません。
あなたが相当名の通った(それもワイン好きとして知られる)資産家やソムリエでなければ、ワインの管理と保管はレンタルセラーを用意している専用業者に任せるのが無難でしょう。
わずかな保管料でプロに管理を任せることができるだけでなく、理想的な環境下で不正なく保管されていた証明にもなります。

 ワインが本当の意味でヴィンテージワインとなるには、これだけの環境と労力が必要になります。
しかし逆に言えば、優れたヴィンテージのワインには何十年もの努力に見合うだけの価値があるということでもあります。
豊かなポテンシャルを秘めて生まれ、正しい知識と技術によって理想的な環境で磨き上げられたワインは、その高い価値によってまさに宝石のように人々を魅了するのです。