ヘシッシェ・ベルクシュトラーセ ドイツのワイン産地9

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位置

 ドイツの南西にある主要なワイン産地の密集地の中で、中央やや北寄りに位置します。
西にライン川、北にマイン川、南にネッカー川が流れ、東から時計回りにフランケン(Franken)、バーデン(Baden)、ファルツ(Pfalz)、ラインヘッセン(Rheinhessen)、ラインガウ(Rheingau)とそうそうたる産地に取り囲まれています。

テロワール

 ライン川流域は緯度の高さにも関わらず暖かいアンバウゲビート(Anbaugebiete)が多いのですが、そのなかでも特に温暖な気候に恵まれた地域です。
その特殊性は、「ドイツの春の園」という異名や、18世紀に神聖ローマ帝国の皇帝、ヨーゼフ2世が「ドイツはここからイタリアになる」と言ったというエピソードからも読み取ることができます。
砂質と堆積土壌を基本に雑色砂岩や斑岩などが見られる水はけの良い地質が特徴で、近隣と比較するとやや多い降水量でもブドウの樹の育成を阻害しません。
年間1600時間を数える長い日照時間と高めの気温が、ブドウの熟成を促進します。

ワイン造り

 ヘシッシェ・ベルクシュトラーセは、ドイツに13あるアンバウゲビートの中でもっとも小さな産地です。
ブドウ栽培面積は448ヘクタール(約4.5平方キロメートル)、ワイン生産量は約0.3万キロリットルほど。
ベライヒ(Bereich)は2つ、グロースラーゲ(Groslage)は3、アインツェルラーゲ(Einzellage)は23あります。
主なブドウ品種は、白ブドウはリースリング(Riesling)、黒ブドウはシュペートブルグンダー(Spätburgunder、=ピノ・ノワール)。
そのほか、グラウブルグンダー(Grauburgunder=ピノ・グリ)、ミュラー・トゥルガウ(Muller Thurgau)なども栽培されています。
温暖な気候は赤ワインにも向いていますが、割合的にはやはり白ワインのほうがかなり多く、赤ワイン:白ワインの比率は、約21:79となっています。
8割がたが地域の協同組合による醸造で、生産されたワインのほとんどが観光地でもある地元で消費されてしまいます。
ワインの多くは辛口か中辛口となっていますが、ライン川沿いの畑で造られる極甘口のアイスワインも有名です。

ベライヒ(Bereich)

シュタルケンブルク(Starkenburg)

 2つのベライヒのうち、南側にまとまって存在する地区です。
ライン川沿いの斜面に畑があり、日当たりの良さと川の恩恵を受けて非常に温暖な地域となっています。
土壌は砂礫質や黄土が中心ですが、粘度、石灰も含んでおり、ブドウ果汁にしっかりとした骨格を与えてくれます。
基本的には辛口の白ワインが多いのですが、冬には樹上で自然に凍結したブドウを使用するアイスワインも造られており、この地区を代表する味わいのひとつとなっています。

ウムシュタッド(Umstadt)

 2つのベライヒのうち、北側に比較的分散して畑がある地区です。
ライン川からは離れ、ブドウ畑は川沿いではなくオーデンヴァルト山地の斜面に作られており、東側ではフランケンに近接しています。
古くから存在した歴史ある産地で、「オーデンヴァルダー・ヴァインインゼル(Odenwalder Weininsel=オーデンヴァルトのワイン島)」の異名を持ちます。
斑岩の風化土壌や黄土が中心の地質で、白ワインがメインではありつつも赤ワインも造られており、西のラインガウのワインに似た高貴さを持ちつつも、酸の柔らかさ、香りのやさしさがどこかぼんやりとした印象を与える、まさに「春の園」のワインにふさわしい特徴を持つとされています。
ただ、生産量が少なく、ほとんどが観光地でもある地元で飲まれてしまうため、味わうには現地を訪ねねばならないのがネックです。