日本のワイン造り 特徴、製法など

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スタートからの日が浅い

 日本のワイン造りは、実質的にはごく近年始まりました。
とはいっても、ワイン自体がそれ以前に伝わっていなかったわけではありません。
日本へのワイン伝来は意外なほど古く、平安時代にはすでに中国を経て輸入されていたと考えられています。
その際にはヨーロッパ系ブドウの苗木も一緒に取り寄せられ、国産ワインの醸造が試みられていたようです。
しかし、もともと技術や知識がほとんど無い上に、ブドウの栽培にはまったく適さないテロワールを持つ日本では良質なワインなど造れるわけもなく、同時期に日本酒の品質や生産量が向上していったこともあり、最初のワイン造りはわずかに試されただけで定着することなくいったん完全に廃れてしまいました。
そのときに放置され野生化したブドウは、そののちに自然交配を繰り返して日本の環境に適応した後、1186年に現在の山梨県の山中で雨宮勘解由(あまみや かげゆ)という人物によって「発見」されますが、残念ながら観賞用、もしくは生食用として利用されるだけで、アルコール発酵を試みることは無かったようです。

 国産ワイン造りが再開されたのは明治に入った後、19世紀も終わりに近づいた頃のことでした。
鎖国が解かれて西洋文化が広がり始めたことからワインに興味を持つ人々が増えたことや、米の消費を抑えたい政府の事情などが重なり、1870年に記録上はじめての国内ワイン醸造所「ぶどう酒共同醸造所」が山梨県で創立。
それ以降も日本各地でワイン用ブドウの栽培やワインの醸造が試みられるようになります。
しかし、当時はまだ洋食を初めとして西洋風の味わいになじみがなかったこともあり需要が伸びず、品質も高いとはいえない国産ワインの生産は次々と打ち切られていきます。
やがて神谷伝兵衛氏が浅草の神谷バーで売り出した蜂蜜入りのワイン「ハチブドー酒」が大成功すると各社がそれに追随し、結果として一般的な日本人のワインに対するイメージは味や香りを楽しむもの問いよりも単に「甘い酒」というものになってしまいました。
ワインの醸造自体が完全になくなることはありませんでしたが、その後のフィロキセラ災害や2度の世界大戦の影響もあり、「国産のワインとは生食用としては流通できないブドウを使用して造るもので品質を気にするようなものではない」という時代が長く続いていくことになります。
流れが変わって、国内でも高品質なワインを造ろうという機運が高まってくるのは1970年代。
幾度かのワインブームを経て国内のワイン市場が拡大・成熟し、ヨーロッパの主要産地で造られるような本来のワインに対する理解や需要が高まってきた後でした。

ワインに関する規制が緩い

 そのような歴史的な背景を持つため、日本のワイン造りに対する規制は他国にくらべて非常に緩いものになっています。
例えば、現在EU加盟国では「ワイン」という名称を使用するためには、新鮮なブドウの果汁を使用せねばならず、他の果物の果汁や保存されていたブドウが使用できないのはもちろん、使用できる副原料も厳しく規制されています。
しかし、日本にはそういった規定はほとんど無く、レーズンや濃縮果汁、他の果物の果汁、水などを使用することもできます。
そもそもフランスで1935年に原産地呼称統制制度が成立した背景には、レーズンが原料だったりブドウ果汁を使用しないのにワインを名乗るような、厳密にはワインとは呼べないような酒がワインとして流通するのを防止して本来のワインを守るためでした。
しかし、日本ではワインに関しては守るべき伝統や文化が無く、どちらかというと「厳密にはワインと呼べないような酒」の方が嗜好的にも政治的にも求められてきたため、厳しい規制を敷く必要性がなかったのです。
実際、ずっと昔から飲まれてきた日本酒や早くに一般消費者に受け入れられたビールなどには、ヨーロッパにおけるワインと同じように呼称に関するいくつものルールが存在しています。

 ただ、生産量が上がり国際的な注目度もあがってきた近年では、さすがにこのままではまずいということで法律を改正する動きが出てきています。
例えば、いままでは「山梨」「北海道」などの地名を表示するのに法的な規制が無く、他の地域、もっといえば海外から輸入した濃縮果汁などを使用していても、そのワインの出自とはほとんど関係の無い地名をつけることが可能でしたが、2018年の10月からは醸造所やブドウの収穫地、使用量などに制限が設けられることになっています。
(どちらかというと、ヨーロッパよりもアメリカの表示ルールに近い形です)
ただ、醸造所だけがその土地に存在すれば「ブドウの産地は異なります」などの文言を付け加えることでブドウの産地と異なる地名を使用できるなど、他のワイン生産国に比べるとまだまだ規制が緩いことに違いはないようです。

厳しいテロワール

 ヨーロッパ諸国などに比べて規制が緩く、比較的好きなようにワインを造ることができるというと、フランスのラングドック・ルシヨン地方やアメリカやオーストラリアなど「新世界」が思い浮かびます。
しかし、それらの国や地域と違って日本に先進的な醸造家が次々にやってきてワイン造りを行っているという状況にはなっていません。
これは別に単一の理由からではなく、言葉や文化の壁、制度的な問題などいくつもの要因が絡んでいることは間違いありませんが、「日本のテロワールがブドウ栽培に適していない」というのも大きな理由のひとつなのは間違いないでしょう。
ブドウは栽培できる条件が限られるだけでなく、育った土地の環境に品質が大きく左右される植物です。
ワイン造りに適したブドウを収穫するためには、「根が深くまで伸びる水はけの良い土地」「適度な総量で収穫期に少ない雨」「十分な日照」「昼夜の寒暖差はあるものの真夏や真冬でも厳しすぎない気温」「病害虫の発生しない乾燥した空気」などが必要になります。
しかし日本の環境条件を見てみると、「平野を中心として広がる粘土質の保水力がありすぎる土地」「初夏の梅雨や夏中やってくる台風、収穫期に多い大雨」「それによる多湿な夏」「土地によっては大雪を伴う寒すぎる冬」など、ブドウ栽培にとって障害となる特徴ばかりが並んでいます。
近年では栽培技術や設備の進歩によって克服しつつある面も少なくないものの、他の「新世界」各国に比べて大きなハンディキャップとなっているのは間違いないでしょう。
実際、全国でワイナリーが誕生してきている中、ブドウの栽培から行い高品質なワインを造っている地域は、梅雨の影響ない北海道、台風の被害や収穫期の雨の心配が少ない長野県や山形県、日照時間が国内でもかなり長いほうに属する山梨県などです。
こうした地域では、不利な条件に屈することなく切磋琢磨を続ける生産者によって、魅力的な日本ワインが造られるようになってきています。

独特なブドウ品種

 日本のワインならではの特徴として、使用されるブドウ品種の多彩さや独自性があります。
フランスやイタリアなどでは伝統的に使用されてきた品種を使用するよう定められている地域が多く、規制の緩い新世界でもブドウの栽培に適した土地では世界的に人気の高いメジャーな品種がメインで栽培されるのが一般的です。
しかし、ワイン造りの歴史が浅く、ヨーロッパ系のブドウ品種をそのまま育てるのにあまり適していない日本では、メジャーな品種以外にも多様な品種が栽培されているのです。
例えば、北海道ではケルナーやミュラー・トゥルガウ、ツヴァイゲルトレーベなど北ヨーロッパ地域の栽培が盛んに行われています。
また、フォクシー・フレイバーへの抵抗がない日本では、ナイアガラやキャンベル・アーリーなどアメリカ系品種も普通にワインになります。
食用を兼ねるブドウが多いのも特徴のひとつといえるでしょう。
さらに、日本独自品種であるヤマぶどうや甲州、そしてそれらと他品種との交配種の開発も活発に行われています。
これはなにも「一般的な品種ではヨーロッパの主要産地にかなわないので、珍しい品種を使って目を引こう」というわけではありません。
厳しいテロワールの中でも条件が少しでも近い品種を探し、もしくは作り出すことで、高品質なワイン原料となるブドウを得るための努力なのです。
そして、こうした努力によって少しずつ日本産ワインの評価も向上してきており、近年では国際的なコンクールで高い評価を得る製品も見られるようになってきています。
日本で作り出されたブドウ品種が、いままでブドウを栽培できなかった国や地域に植えられて新しいワイン産地を生み出す、なんて未来もあるかもしれません。