缶、パック、ペットボトル カジュアルワインの入れ物事情

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 ガラスの瓶は、17世紀以来ずっと一般消費者へのワインの流通の主要な容器として重宝されてきました。
それまで利用されてきた樽や陶器の容器に比べて格段に気密性が良く、小分けでの流通に便利なガラス瓶は、ワインの容器としてぴったりの性質を持っていたからです。
それから数百年。
現代でも、ガラス瓶が主要な容器であることに変わりはありませんが、ここ数十年のうちに、少しずつ新しい容器が使用されるようになってきました。
最初は抵抗を示していた消費者も、製品が増えて品質が思ったより変わらないことなどから、消極的な意見は少なくなってきているようです。

 しかし、なんとなく瓶で販売されているよりも安っぽい印象を受けてしまいがちなのも事実です。
新しい容器は本当にガラス瓶に変わるだけの能力を持っているのでしょうか。
ここでは、試行錯誤を繰り返している新素材の中から、特に主要なものの特徴を詳しく見てみましょう。

ガラスボトルのメリット・デメリット

 新しい容器についてみる前に、まずはガラス瓶の特徴を確認してみましょう。
ガラスはケイ酸塩を主成分とする、硬く透明な物質です。
高温で熱することで飴状になり、比較的自由な整形が可能になります。
かつては一本ずつ人が吹いて作っていましたが、現代では加工技術が進歩し、ほぼまったく同一の形状のガラス瓶を工業的に大量生産することが可能です。
整形前の原料状態のときに、金属などの他の物質を溶かし込むことによって色や強度を変えることができます。
ワインのボトルは、輸送に耐えられる強度、光線の影響を減衰させる色、コルクでしっかりと気密性を保てる均一で滑らかな形状などが必要になるため、ガラスのこれらの性質はメリットとして作用します。
また、ガラスは溶かして再利用することが可能なので、世界中で大量に生産・流通されるワインの容器として適当であるともいえます。

 ガラスは常温では弾性・粘性が低く、強い力がかかることによってひびが入ったり割れてしまう可能性があります。
必要な強度を出すためにはある程度厚みを持たせる必要があり、それによって他の素材に比べて重たくなってしまいます。
これらは、輸送の際にはデメリットとなり得ます。
ガラスの精製・加工は、昔に比べれば安価になったとはいえそれなりに費用がかかり、特に安価なワインほど瓶の価格の影響が大きくなってしまいます。

ペットボトルのメリット・デメリット

 プラスチックの一種であるポリエチレンテレフタラート (PET) を材料として作られている容器です。
1970年代に飲料用の容器として使用されるようになり、以降全世界で爆発的に広まりました。
ガラス瓶に比べて非常に軽く、素材に弾性があるため輸送中の負荷やリスクが軽減されます。
耐酸性は低いものの白ワイン程度の酸度なら問題にはならず、アルコールも20度以下なら化学反応を起こすことはないので、ワインを詰めても変質する心配はありません。
整形するのは非常に簡単で、加工にかかる費用も材料費もガラス瓶よりかなり低く抑えることが可能です。

 問題点としては、通常微量の気体透過性があり、他の容器に比べて酸化のスピードが高くなってしまいます。
数ヶ月で販売・消費される早飲み系であれば問題ありませんが、長期間の保存や熟成にはまったく向きません。
技術的にはボトルに色をつけるのは簡単なのですが、再利用に関する問題から現在の日本国内では透明なボトルしか流通しておらず、光の影響を避けるのであれば全体を覆うタイプの色つきのフィルムをつける必要があります。

缶のメリット・デメリット

 アルミやスチールを原料とする容器です。
19世紀初頭に軍用のレーション容器として発明され、その後固形の食料を安全に長期間保存できるとして世界中に広まりました。
飲料への利用は第二次世界大戦後で、最初は缶切りを使用してあけるタイプのものでしたが、利便性を向上するためにタブを引っ張って開缶する「プルタブ」式が主流となり、20世紀末にはスクリューキャップ式が本格的に製造されるようになります。
ワインの容器として使用されているのはこのスクリューキャップ式が主流です。
(一部、飲みきりサイズの低アルコールスパークリングなどで、タブ式を採用している製品もある)
缶は金属を原料としているため、薄くとも強度を出すことが可能で、アルミ缶の場合は同サイズのペットボトルよりも軽量です。
他の飲料の容器に使用されていることや小容量のものが多いことから、ストローをさしたり直接口をつけるようなカジュアルな飲み方にも適しています。
基本的に気体の透過性はないので、開栓までは過剰な酸化が起こることはありません。
近年では栓をする際に窒素ガスなどを充填することによって酸化を防ぐ技術も開発されているため、瓶にコルク栓をするよりも安定的に流通させることが可能になっているといえるでしょう。
ガラスや樹脂のような透明性がないので、光線の影響を心配する必要もありません。

 逆に、ロゼワインなどの色を強調したいタイプの商品の場合は、内部を直接見せることはできないためラベルなどで工夫をする必要があります。
外部からのさびなどの侵食に比較的弱いため、保管する環境には瓶よりも気を使う必要があります。
気密性の完全さは、裏を返せば瓶内熟成については不向きであるということですので、ペットボトルとは逆の意味で長期間の熟成に向かない容器であるといえるかもしれません。

紙容器のメリット・デメリット

 内部に防水加工を施した紙パックに直接ワインを充填しているタイプと、ビニールなどの軟質な容器をダンボールなどの強度のある箱で保護しているタイプがあります。
前者はフルーツジュースや牛乳のパックが一番近いイメージになります。
後者は外側にプラスチック製の注ぎ口がついているものが多く、簡易な飲料サーバのようなつくりになっています。
ワインの容器の場合は、今のところ後者が多いようです。
紙容器の最大のメリットは、輸送にかかる手間や費用が軽減されることです。
他の容器は全て強度を出すために、円柱を基本とした曲線によって描かれる形状をしています。
角が存在する形状だと、その部分が衝撃や圧力に弱くなるからですが、これは流通時には余分な空間を生み出してしまうため効率の低下を招きます。
その点、紙容器の場合は基本的に長方形や正方形など四角い形状になっています。
衝撃によって破損する可能性が少ないからで、これによって輸送用の外箱の中に隙間なく製品を詰めることが可能になっています。
また、コーティングなどに追加で費用がかかるとはいえ、紙は他の素材比べて非常に安価に製造・加工できる素材といえます。
そのため、ワインの価格に対する流通コストやパッケージ代などの割合が低く抑えられます。
主材料が紙であるため、よほど容器を薄くしない限り光線も通らず、缶と同じく光劣化を気にする必要はありません。

 紙容器式は、どちらのタイプであっても長期間保管することを想定していません。
内部にコーティングが施してあったとしても気密性は低く、外部の紙箱もガラスや樹脂、金属製の缶などに比べると劣化の早い素材といえます。
また、内圧にも弱いため、スパークリングや無濾過・亜硫酸塩無添加など炭酸ガスが発生する製品は詰めることができません。
そのため、紙容器で販売されているワインは、ほぼ全てが早飲み系の安価なものになっています。

ガラス瓶との住み分け 早飲み系安価ワインの容器としての可能性

 結論としては、これら新しいタイプの容器は全て、長期間の保管や熟成には向かない、早飲み系のワイン用のものであるということです。
自然、「お手軽」「安価」というイメージがついてしまうため、早飲み系の中でもある程度以上高級なワインで採用されることはあまりなく、平均より安価なタイプのワインがほとんどであるようです。
しかし逆に、安価な早飲み系ワインの容器としては十分な適性があるといえます。
ワイン自体が安い場合は、流通やパッケージのコストが価格に占める割合が相対的に大きいため、高価なワインよりもコスト削減の効果が出やすいのです。
安全性や周囲環境からの影響も、出荷から短期間で消費する場合には問題ないレベルであるといえます。
今後、早飲み系ワインの容器として、さらにシェアを広げていくと考えられます。
なんとなく良くないイメージがあって避けているという方は、できるだけ新しいものを選んで飲んでみると、印象が変わるかもしれません。