コルシカ島、プロヴァンス地方  フランスのワイン産地2

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コルシカ島(Corsica)

  コルシカ島はプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏の都市ニースから南東へ約180km、イタリア半島の西の海上に浮かぶ、地中海で4番目に大きな島です。
日本の広島県とほぼ同じ面積を持ち、ナポレオンの故郷としても知られています。
地中海上の貿易が盛んだった西暦前からワイン造りが行われていたとされており、ギリシャやローマのあとは長くイタリア半島の共和国が支配していたため、ワインをはじめとする文化全般についてイタリアの影響が濃くあらわれています。
南東から北西へ2500m級の険しい山が島を横断するように連なっており、西側と東側では文化や生活様式が大きく異なる部分があります。

コルシカ島の歴史

 コルシカ島のワイン造りは、島の東側に位置する町、アレリア(Aleria)から始まりました。
フェニキア人によってギリシャやエジプトを結ぶ盛んな海洋貿易が行われていた西暦前560年頃、イタリア半島南部にワイン造りが伝わる少し前のことです。
もともと立地的に重要視され、近隣の都市が争奪戦を繰り広げていた場所ではあったのですが、フェニキア人の国であるカルタゴが支配権を手に入れたことで、さらに当時貴重であったワインの産地としての価値が加わったのです。
結局、西暦前3世紀にはそのあと急激に勢力を伸ばしたローマによって占領され、ローマ帝国によって南部や北部にも幾つかの都市が作られていきます。
しかしその後、ローマ帝国の勢力が衰えてくると、コルシカ島には海賊などの外敵が頻繁に侵入してくるようになります。
これによって沿岸部の都市は次第に衰退し、同時にせっかく発展してきていたワイン文化も影を潜めてしまいました。
11世紀にはイタリア半島のピサ共和国、さらに13世紀には同半島のジェノヴァ共和国が統治を行い、海賊を撃退して都市を要塞化しましたが、その統治自体も非常に過酷で、イタリア系のブドウによるワイン造りは発展していきましたが、独自の産業や文化の回復どころか、自治権を求めて度々反乱が起こるようになっていきます。
最終的にジェノヴァ共和国の手に負えなくなった大規模な反乱をフランス軍が介入して鎮圧し、1769年にフランス王国へと併合されました。
フランス併合後もしばらくは独立を目指す活動が散見されましたが、現在ではそうした要求は少数派となっているようです。
しかし、フランスでは栽培されていない独自品種のブドウを使用したワイン造りにもあらわれているように、「フランスの一部」ではなく「コルシカ島」としてのルーツに対する強いこだわりは根強く残っています。

コルシカ島のワイン

 コルシカ島のワイン造りは、島の平野にちかい部分、つまり沿岸部を中心に行われています。
気候は日照時間が非常に多く基本的に温暖な地中海型の海洋性気候、地質はざっくりと北部の石灰質土壌と南部の花崗岩土壌に分けられます。
気温は緯度よりも標高に左右され、ブドウ畑の広がる沿岸部では基本的に冬も厳しい寒さに見舞われることはありません。
島の産地のほぼ全体を含む地域名AOCが1つ(ヴァン・ド・コルス/Vin de Corse)と、そこに村の名前を冠する村名AOCが5つ(ヴァン・ド・コルス・サルテーヌ/Vin de Corse Sartene、ヴァン・ド・コルス・コトー・ド・カップ・コルス/Vin de Corse Coteaux du Cap Corse、ヴァン・ド・コルス・フィガリ/Vin de Corse Figari、ヴァン・ド・コルス・ポルト・ヴェッキオ/Vin de Corse Porto Vecchio、ヴァン・ド・コルス・カルヴィ/Vin de Corse Calvi)、北部の半島(ミュスカデ・デュ・カップ・コルス/Muscat du Cap Corse)とその根元付近(パトリモニオ/Patrimonio)、そして西部(アジャクシオ/Ajaccio)にそれぞれひとつずつ高品質なワインを造る産地が知られています。
このうち、もっとも高品質とされているのはパトリモニオで、赤・白両方がAOCに認定されていますが特に伝統品種のニエルキオ(Nielluccio)を90%以上使用し残りにグルナッシュをブレンドする赤ワインは、コルシカ島を代表するワインとして高い評価を得ています。

 19世紀から20世紀にかけては、フランス本国と同じメジャーな品種を使用したワイン造りへの転換を推進する動きもあったとされていますが、現在では島の歴史に則した伝統的な品種によるワイン造りが中心です。
主なものとしては、上でも紹介したパトリモニオにも使用される黒ブドウのニエルキオ、コルシカ島独自の品種でアジャクシオの上質な赤ワインになる黒ブドウ、スキアカレロ(Sciacarello)、パトルモニオの白ワインに100%指定されておりコルシカ島ではマルヴァジア(Malvasia)、またはマルヴォワジー(Malvoisie)とも呼ばれる白ブドウのヴェルメンティノ(Vermentino)などがあげられます。
独自品種以外では、一番最近認定されたヴァン・ド・ナチュール限定のAOCミュスカデ・デュ・カップ・コルスに使用されるユニ・ブランや、パトルモニオにブレンドされるグルナッシュ、バルバロサなども栽培されています。

プロヴァンス地方(Provence)

 プロヴァンス地方は、フランスの南東部、地中海とイタリア国境に面した地域です。
ローマが拡大を始める前からギリシャ人によって都市が築かれていたという古い歴史を持ち、西のローヌ川は中世以前まで、幾つかの港町は中世以降に交通や交易の要所となっていました。
現在のフランスがあるガリア地方でもっとも早くからブドウ栽培、ワイン醸造が始まった地域でもあり、その一番古い記録はローマ帝国の軍人、ガイウス・ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)の「ガリア戦記」にまで遡ります。
ブドウ栽培に非常に適した気候条件を持ちますが、歴史的・需要的な理由から大衆向けの大量生産系ワインの産出がメインとなっており、高品質・高級志向のワインはあまり造られていません。
一年中安定した気候と風光明媚な海岸沿いの町を有し、フランス国内はもちろん、世界的にも有名なバカンスの地として知られています。

プロヴァンス地方のワイン造りの歴史

 この地域にブドウ栽培、そしてワイン造りが伝わったのは西暦前600年頃、フランスでもっとも最初期のことだったとされています。
地中海に面してイタリア半島やコルシカ島とも近く、ローヌ川によって内陸への水路も確保できるこの地は、地中海内でも魅力的なポイントの一つでした。
当時マルセイユ周辺を支配していたケルト人との交渉で入植したギリシャ人はブドウ畑の開墾や都市化を熱心にすすめ、やがてローマ帝国時代に入るとさらに内陸に向かってワイン文化を広めていきます。
しかし、その後ほかの地域のワインが名声を高めていくのに対して、プロヴァンス地方の発展は遅れ、あまり注目されなくなっていきます。
それでもこの地でのワイン造りが続いていったのは、15世紀に「善良王」ルネ・ダンジュー(ルネ1世)がパレット(Palette)で高品質なワイン造りを始めたこと、プロヴァンス地方でももっとも古い産地のひとつであるバンドール(Bandol)の長期熟成タイプのワインが大航海時代の長旅に耐えられたため輸出用として需要があったこと、そして19世紀にバカンスの地として発展したことが主な理由であるとされています。
現在ではごく小規模な高品質ワインを造る生産者がいる以外は、基本的に国内向け、それもバカンス期間を過ごすためにプロヴァンス地方を訪れる人々をメインターゲットとした、気軽に飲めるタイプのワイン造りが主となっています。

プロヴァンス地方のワイン造り

 プロヴァンス地方のワインは、早飲み系の飲みやすいタイプ、特にロゼワインがメインになります。
長い日照時間と特に夏に少なくなる降雨、それでいて適度な水分を運んでくる風などブドウの栽培に適した気候条件を持つものの、ブルゴーニュやボルドーのような高級志向ではなく、バカンス中に気軽に楽しめるようなシンプルなワイン造りが中心となっています。
中央から東に向かって広がる「コート・ド・プロヴァンス(Cotes de Provence)」と北東の大部分を占める「コート・デスク・アン・プロヴァンス(Cotexaux d’Aix-en-Provence)」は、プロヴァンス地方の2/3ほどにもなる広大なアペラシオンですが、ここで造られるワインは80~90%がロゼワイン。
しかも、軽く口当たりの良い酸味の少ない味わいが特徴です。
プロヴァンスのロゼワインはフランスの人々がバカンスを意識し始める夏ごろに向けて出荷され、店頭に並んだロゼワインがシーズンの訪れを知らせます。
また、すっきり飲みやすい軽いワインは、難しいことを考えずに楽しみたいバカンス中の飲み物としても最適です。
実際、プロヴァンス地方で生産されたワインのうち、90%近くがフランス国内向け、さらにそのうちの半分以上がプロヴァンス地方内で消費されているのです。

 ただし、プロヴァンス地方がバカンス向けの地として注目を集めるようになる前からワインが造られていた一部の地域では、例外的に熟成タイプの赤ワインや白ワインを生産しているところもあります。
プロヴァンスでは珍しい熟成タイプの赤ワインで18世紀に名を馳せた「バンドール(Bandol)」、マルセイユの北東にある極小規模なアペラシオンでありながらプロヴァンスを代表する赤ワインや白ワインを産する「パレット(Palette)」、この地方で唯一白ワインをメインとし魚介類との相性の良さで知られる「カシス(Cassis)」などが有名です。
いずれも石灰岩がメインの土壌で、多くは数百m前後の丘などの斜面にあり、プロヴァンス地方の中でも特に良質なテロワールに恵まれていることが分かります。
生産者数が限られているケースも多く、品質のばらつきがやや大きいため購入時には注意が必要です。

 使用されるブドウ品種は、黒ブドウはグルナッシュ、白ブドウはユニ・ブランが中心になりますが、プロヴァンス地方の特徴的な品種として、黒ブドウのムールヴェードル、白ブドウのクレレットがあげられます。
ロゼワインのほとんどは「セニエ法」で造られ、赤ワインも「マセラシオン・カルボニック」を採用するケースがあるなど全体的に早飲み系の造りになっていますが、中には18ヶ月から36ヶ月前後の樽熟成を経るような長期熟成タイプも少数ながら存在します。