アイスワイン、貴腐ワイン、その他のワイン 熟成方法と飲み頃その9

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フルーツワイン

 フルーツワインは、アップルワインやリモンチェッロのようなブドウ以外の果物を原料とするワインと、スティルワインやスパークリングワインにフルーツを漬け込んで作るタイプのものに分けられますが、どちらのタイプでも長期間の熟成や保管には向いていません。
ブドウ以外の果物を使用するワインは、ブドウに比べてタンニンなどのポリフェノール量が少なく、アルコール度数が低い醸造酒ではすぐに酸化してしまいます。
また、ブドウ果汁のような複雑な香味成分を持っている果物はほとんどなく、無理をして長期間熟成させてもあまり良い変化が生まれません。
ワインに果物を漬け込むタイプに至っては、生の果汁や果肉が混ざってしまっているため、熟成どころか数日の保管すら難しいでしょう。
製造者が積極的に熟成を進めているような例外を除いて、フルーツワインはすぐに飲んでしまったほうが良いようです。

果汁濃縮系ワイン

 アイスワインや貴腐ワインなどなんらかの手段でブドウ果汁を濃縮して作る果汁濃縮系ワインは、超長期間の熟成も耐えられるタイプのワインであるといえます。
どの程度の熟成が可能になるかは製法や品質によっても異なりますが、最も高品質な貴腐ワインの場合は100年を軽く超えて熟成を続けるとも言われています。
果汁濃縮系のワインは糖分を筆頭にブドウ果汁のさまざまな成分が凝縮されており、口当たりに明らかな違いが出るほど粘度が高くなっています。
これによって酸化が進みづらくなり、果皮や種子、果梗(かこう)由来のタンニンが含まれていない状態でも長期間の熟成に耐えられるのです。
自宅で熟成させる場合にも、日光や異常な高温・低温さえ避ければ良いため他のタイプのワインよりも扱いやすく、ワインセラーなどが無い状態でも比較的簡単に自家熟成を楽しむことができます。

大麦ワイン(バーレーワイン)

 大麦ワイン(バーレーワイン)は、麦芽の使用量を増やすなどして通常よりも高いアルコール度数を得たビールのことです。
ビールは元来非常に酸化しやすいお酒で、コップに注いでそのままにしておくと1時間もしないうちに劣化しきってしまうほど。
開栓前でも1年保管しておくのも難しい生鮮食品のような足の速さなので、当然出荷前の熟成もほとんど行われません。
しかし、大麦ワインはその高いアルコール度数と残留する糖分によって、例外的に年単位での熟成が可能という非常に珍しいビールです。
特に10%を超えるようなアルコールを含有する製品は、10年、20年という長い時間熟成を続けることもできます。
もちろん、他のビールやスティルワインのように直射日光と極端な温度変化を避け、冷暗所で管理することが前提ではありますが、ビールのもともとの性質を考えると驚異的なポテンシャルであると言えるでしょう。
熟成によって味や香りの変化が楽しめるものは、たいていメーカーがそれを推奨しています。
どらくらい寝かせてよいものか迷ったら、一度製造元に問い合わせてみてもいいかもしれません。

ライスワイン(日本酒)

 ライスワイン(日本酒)は米を麹菌と酵母菌の力によって発酵させて造るお酒です。
でんぷんを糖に変える力を持つ麹菌の具合をコントロールしたり、アルコール発酵時に原料と水を段階的に混ぜ合わせる「三段仕込」という手法を用いることで、15~20度という醸造酒では異例なほど高いアルコール度数を持ちます。
また、フランスでパスツールが低温殺菌法(パスチャライゼーション)を発見する以前から、腐造を避けるために絞ったあとの酒を一定温度まで温める「火入れ」の手法が導入されており、現在でも亜硫酸塩などの防腐剤を使用せずに瓶詰め・流通されています。
こうした理由から、本来はワインと同じくらいの熟成期間を耐えることが可能なポテンシャルは持っているはずですが、一般的には数ヶ月から半年の期間タンク内での熟成を行った後すぐに瓶詰め・出荷するものがほとんどで、長期間の熟成を行う日本酒蔵はまだあまり多くはありません。
これは、明治以降導入された高い酒税が「酒を出荷したとき」ではなく「酒を造ったとき」に課税されていたことが原因であるとされています。
この方式では、例えばある製品を30年熟成させてから出荷しようと思った場合、原料費だけでなく税金まで払った上で、30年後の販売まで費用の回収ができません。
毎年仕込んでいくとするなら、30回分の費用がプールされることになり、相当資金に余裕のある蔵でなければ到底耐えられなかったのです。
ただ、現在では酒税法も改正され、酒を出荷した際に課税されるようになっているため、数年から数十年寝かせた熟成酒を造る蔵も徐々に増えてきてはいるようです。

 日本酒の飲み頃は、基本的には「買ってきた時点」とされていますが、家で寝かせることができないわけではありません。
直射日光が当たらないように新聞紙などでくるみ、あまり高温多湿にならない押入れの中などに置いておけば、特別な処置などはせずとも数年は熟成させられます。
コルク栓になっているものもほとんどないため立てて保管しても問題ありません。
日本酒は熟成を経るごとにだんだんと飴色に変化し、アルコールや酸味などの刺激がまろやかになっていきます。
同じ銘柄の新しいものと飲み比べ、味や香りの変化を見ても楽しいかもしれません。
ただしこの場合、生酒やにごり酒など冷蔵保存が必要なタイプは避けましょう。
特に出荷までの二回の火入れ(絞った直後と出荷直前)をどちらも行っていない、いわゆる「本生」の酒はその名の通りなまものと同じです。
購入後は冷蔵庫で保管し、できるだけ早めに飲むのが一番おいしい飲み方です。