がん予防 ワインに期待できる健康効果

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「ワインはがん予防に効果的」は本当なのか

 肉や脂などの多い食事をしているはずのフランスが、ヨーロッパではもっとも心血管系疾患での死亡率が低い。
1990年代に有名になった「フレンチ・パラドックス」は、当時世界中に大きな衝撃を与えました。
論文の発表があった翌年には赤ワインの消費量が44%も増え、ワインは「嗜好品」というより「健康食品」とさえ認識されるようになります。
そして、それにともなってワインに関する様々な健康機能についても語られるようにもなりました。
「ワインががんを抑制する」という説もそのひとつです。

 フレンチ・パラドックスが実際には統計の仕方による偏った説であるとして否定された後も、がんに対する抑制効果については効果的に説明され続け、書籍やインターネット上でも様々なデータとともに解説されてきました。
しかし近年、さらに詳細な調査や実験結果から、この説にも疑問が投げかけられるようになってきています。
もはや肯定派と否定派の派閥闘争のようになりつつあるがんの抑制効果についてですが、ここではちょっと距離を置いて、もう一度冷静に肯定・否定の両面から確認してみましょう。

ポリフェノールによる活性酸素除去 ワインの成分ががんを抑える仕組み

 ワインの制がん効果については、現在は否定されているものも含めるとかなり多くの説がありましたが、そのなかで恐らく唯一立証されているものが「ポリフェノールによる活性酸素の除去作用」です。
活性酸素は体内で酸素を利用した際に発生する物質で、体内に侵入したウイルスへの攻撃などにも利用される有益な面もあります。
しかし、増えすぎると悪玉コレステロールを酸化させて動脈硬化の元となったり、細胞を傷つけて増殖エラーを誘発し、がん細胞を発生させてしまうという害も持っています。
ポリフェノールはこの活性酸素と優先的に結びつくことで、それらのリスクを下げることができるのです。
ポリフェノールは植物が紫外線から各種細胞を守るために作り出す物質ですので、ワイン(ブドウ)に限らず様々な食品に含まれていて、中にはワインよりも多くのポリフェノールを持つものも少なくありません。
ただ、体への吸収率は食品ごとに異なっており、数値上は大量に含んでいても吸収率が悪いためにあまり有用でないものもあります。
その点、ワインに含まれているポリフェノールはほぼ100%に近い吸収率を持つため、効果的に摂取できる飲み物であるといえるのです。
ポリフェノールによる制がん作用は、特に咽頭がんや口内がん、子宮頸がんなど粘膜系の上皮がん(最初期のがん)について有効であるとされています。

アルコールは発がん性を高める ワインががんリスクとなる仕組み

 ワインの有用性が次第に否定されつつあるのに対して、相対的に「がんを誘発する危険がある」という言説は年々勢いを増しつつあります。
最近では、フレンチ・パラドックスの舞台となったはずのフランス政府が、公式に「ワインをあまり飲み過ぎないように」という声明を発表したほどです。

 ワインはアルコール飲料ですので、当然アルコールが含まれています。
ワインに含まれるアルコールは、数%~十数%程度で、平均すると12%前後とされています。
アルコールは肝臓で分解されますが、そのスピードには限界があり、分解能力を超えるアルコールはいったん血液中に送り出されて体中をめぐります。
適量であればストレス解消などある種のがんへの抑制効果もありますが、基本的にアルコールによる刺激は細胞の分裂異常、つまりがんの発生を促すとされています。
また、アルコールを分解する過程で発生するアセトアルデヒドにも発ガン作用があり、分解が行われる肝臓はもちろん、消化器系を中心としたさまざまながんの原因ともなります。

 さらに、ワインとともに摂る食事の質も問題です。
アルコールと一緒に食べるいわゆるおつまみは塩分や油分が多いことが多く、赤ワインの場合はさらに肉やバターなど動物性の食品が中心になりがちです。
塩分過多は循環器系はもちろん腎臓などの泌尿器系にも大きな負担となりますし、動物性油脂の消化に必要な胆汁が過剰になると、胆管がんや大腸がんの原因にもなります。

 これらはワインというよりアルコールによるがんリスクですが、ワイン単体についての疑惑も存在します。
2016年に、白ワインによって皮膚がんの発症リスクが高まるという研究結果が発表されました。
これは対象がほぼコーカソイド(白人)の医療関係者に限られていることや、そのメカニズムが解明されていないことなどから、今後の検証が必要な情報ではありますが、20年近くかけて20万人以上のサンプルケースを調査したということなので、一定の信憑性があると考えられています。

結局のところは? ワインでがんにならないために

 現在のところ判明しているメリットとデメリットを比べてみると、「がんにならないため」という目的であればどちらかというとワインは飲まないほうが良い、という意見が優勢となっているようです。
ただし、これは「身体的な問題点だけを比較した場合」であり、かつ「アルコールを害が出るほど摂取していた場合」の話です。
ワインを飲むことで得られるメリットは、物理的なものだけではありません。
おいしいワインを飲んだり、家族や友人とグラスを酌み交わすことは、ストレスを軽減し人体の持つ免疫能力を高めてくれます。
また、頻度や一回の量が適度な飲酒であれば、アルコールや分解物質による害も比較的少なく抑えられます。

 もともと、現代ではワインを薬として飲んでいる、という人はほとんどいないはずです。
制がん効果の有無だけで飲むかどうかを決めることもないでしょう。
ただ、今後も長くおいしくワインを楽しみたいと思うのであれば、一日にあまりたくさん飲むのは控え、休肝日をはさみつつ適切な飲み方を心がけたほうがよさそうです。