軽くてフルーティな早飲み用ワイン 熟成方法と飲み頃その1
ワインにまつわる一般的な誤解のひとつに、「どんなワインも熟成させたほうがおいしくなる」というものがあります。
確かに、レストランやワイン専門店で高価なワイン用のショーケースに入っているものは、どれもたいてい数年~数十年の熟成を経ていますし、ドラマや小説に登場する高いワインは「○○年ものでございます」と紹介されます。
逆に、酒屋さんやスーパー、コンビニなどで見かけるお手頃価格のワインはどれも2,3年程度しか経っていないのですから、「長期間寝かせることで価値が出る=おいしくなる」という考えに至るのも無理はありません。
しかし実際には、長期間の保管には向かず、むしろ過剰に熟成させるほど風味が落ちていってしまうタイプのワインも少なくありません。
いわゆる「早飲み系ワイン」といわれるタイプのものです。
熟成とは
そもそも、ワインにおける熟成とは端的に言えば「酸化」のことです。
ワインの中の成分が酸素と結びつき変化していくことで、味や香りからとがった部分が払われていくのです。
ただし、あまり急速に酸化するとあっという間に飲み頃を過ぎてしまいますし、全体のバランスも崩れてしまうため、酸化はできる限りゆっくりと進めなければなりません。
この酸化スピードの抑制に役立っているのが、ワインに含まれるタンニンです。
タンニンなどのポリフェノールは、抗酸化作用、つまり酸化が起こりにくくする作用を持っています。
ワインの中でも長期熟成に向くのが、赤ワイン、特にタンニン量の多いカベルネ・ソーヴィニヨンなどを主体としたワインであるのはこうした理由からです。
早飲み系ワインが熟成に向かない理由
一方、早飲み系ワインと呼ばれるワインにはタンニンがあまり多く含まれていません。
これは醸造、特に発酵工程でブドウの固形部分(マール)と液体部分の接触時間を短めに調整していたり、そもそもタンニンの少ない品種を使用するからです。
タンニンが多くなると確かに長期間保管しておくことができますが、その代わり若いうちは非常に渋くて口当たりも固く、あまりおいしく飲むことができません。
造ってから数年で飲むことを前提とした場合、タンニンの多さは短所となってしまうのです。
また、早飲み系ワインの多くはフレッシュな果実味を特徴としています。
若々しく酸味や香りのはっきりした果実味たっぷりのワインは、複雑で繊細な赤ワインが苦手な人でも気軽に楽しめますが、果実味は一般的に時間経過に伴って減少していってしまいます。
早飲み系のワインを無理に熟成させようとすると、急激に酸化が進んで果実味も褪せてしまった、薄くて酸っぱいだけのワインになってしまうのです。
早飲み系ワインの熟成方法と飲み頃
こうした理由から、すぐに飲むことを想定しているワインはほとんど熟成期間を取りません。
それは、瓶詰め前の醸造工程でも同じことです。
通常赤ワインは、発酵、分離後に熟成工程を経ます。
アルコール発酵という急激な変化で不安定になっているワインを落ち着かせ、とがった酸味やタンニンを調整するための工程です。
長期熟成タイプの場合は、この工程に数十ヶ月~数年の時間をかけることもありますが、早飲みタイプの場合は数週間から長くても数ヶ月で次に進んでしまいます。
白ワインでも同様で、熟成タイプはタンニンの少ない透明な果汁にできるだけ抗酸化作用のある成分を溶け込ませるために、樽での長期間熟成や滓を残した状態での熟成(シュル・リー)といった手法を用いますが、早飲みタイプの場合は樽も使用せずステンレスタンクで短期間留め置かれるだけです。
できるだけフレッシュさを維持し、酸化する危険性を最小限に抑えるため、瓶詰めされて店頭に並ぶまでほんの数ヶ月ということもあります。
これだけ短期間で熟成を終えてお店に並ぶワインを、自宅でじっくり熟成させる意味はまったくありません。
そもそも、早飲み系のワインのボトルは、酸素をまったく通さないスクリューキャップや酸素の流入量が適正でない短いコルク、劣化の早い合成コルクなどで栓をされているケースが多く、熟成に向いていないのです。
ボトル自体も、澱がたまることを想定していない底の平らな瓶や色の薄い瓶、缶やペットボトル、場合によってはボトルですらない紙のパックなどが使用されていることもあります。
よって、早飲み系ワインの飲み頃は買ったその日である、と言えるでしょう。
生鮮食品と同じようにとは言いませんが、保管期間が長くなるほどピークから遠くなると考えるべきです。
まとめ買いをする場合も、遅くとも一年以内に飲みきるつもりで購入しましょう。