ヌーボーの醸造方法 ちょっと特殊な新酒ワインの作り方
「ヌーボー(Nouveau)」とは、「新しい」という意味で、ワインに関して使用する場合は「新酒」のことを指します。
「プリムール(Primeur)」とも言います。
通常の造り方では収穫年の翌年、はやくとも夏ころまで飲めないワインを、特殊な造り方によって収穫から2ヶ月後には飲めるようにしたものです。
日本では「ボジョレー(ボージョレー)・ヌーボー(Beaujolais Nouveau)」が有名ですが、これはブルゴーニュ地方のボジョレー地区で造られた新酒、という意味でヌーボーのうちの一種でしかありません。
収穫祭を祝うため、そしてその年のブドウの出来を確かめるために考案された、その新酒用の特別な造り方を見てみましょう。
炭酸ガス浸漬法(マセラシオン・カルボニック)
他のワインの醸造であれば、まず最初に果粒をばらして果梗(かこう)を取り除くところから作業がスタートしますが、ヌーボーの場合はそれを行わず、房ごと収穫したブドウをそのままタンクの中へ投入してしまいます。
上からどんどん投げ込まれる果実の重みで、下の方の果粒の果皮が破れ、流れ出した果汁と天然の酵母によって発酵が始まりますが、このときタンクを密閉状態にすることで、アルコール発酵で生じた炭酸ガスがタンク内に充満、酸素が追い出された状態(嫌気雰囲気)が発生してブドウ果実内の酵素がアルコールを作り始めます。
酵素が作り出すアルコールは微量(3%前後)ですが、これによって果汁などが果肉から果皮の外側へ染み出し、短期間で色素が溶出して赤ワインらしい色合いに。
また、果梗からタンニンがうつったり一部でリンゴ酸の分解が起こり始めたりと、ブドウ果汁がワインになる際の様々な作用が一気に起こっていきます。
発酵温度にもよりますが、果実が収穫されてからおよそ十日ほどでこの段階が終了し、次の圧搾工程へと移ります。
ちなみに、上記は昔から行われている伝統的な製法ですが、近年(特に安価な大量生産用)ではさらにこの方法を発展させ、タンク内に人工的に炭酸ガスなどを吹き込む方式がとられることもあります。
こちらはより完全な嫌気雰囲気となるため、3~7日程度で浸漬が完了します。
圧搾(プレシュラージュ)
成分の溶出や変化が十分起こったら、本格的なアルコール発酵の前に圧搾して、マール(固形部分)とワインを分離します。
ヌーボーのマールには通常のワイン造りでは取り除く果梗(かこう)も含まれているため、あまり長い期間浸漬しておくと過剰な渋みや苦味が出てしまいます。
この時点でのアルコール度数はまだ3~4度程度なので、種や果皮に含まれるタンニンはあまり溶出しておらず、ヌーボー独特のすっきりとした軽い味わいになっています。
浮遊物の沈殿、除去(デブルバージュ)
圧搾時にはいった不要な固形物を沈殿させて取り除きます。
この時点で一度残留糖度を測定し、もしアルコール発酵を十分行えるだけの糖分が残っていなければ、補糖を行う場合もあります。
アルコール発酵(フェルマンタシオン・アルコリック)
準備が整ったら酵母を添加し、アルコール発酵を始めます。
とはいえ、すでに酵素由来のアルコールでワインになりかけている状態ですので、通常の作り方のワインよりも短期間で済み、白ワインと同じ低温(15度前後)でなら1週間程度、伝統的な手法では30度以上の高温状態において3日程度で終了します。
低温状態のほうが繊細な成分がしっかり残り、目的のひとつであるブドウの出来具合の確認をしやすくなります。
マロラクティック発酵、熟成(エルヴァージュ、フェルマンタシオン・マロラクティック)
アルコール発酵が終了したら、必要に応じて滓引きを行った後、マロラクティック発酵と熟成を行います。
この工程でリンゴ酸が分解されてとげとげしくないまろやかな酸味を身につけますが、最初のマセラシオン・カルボニックの時点で十分分解が進んでいると判断される場合には、省略されることもあります。
通常のワイン造りで数ヶ月はかかる熟成も、ヌーボーワインの場合は1ヶ月程度で終了します。
ヌーボーの場合、最初の浸漬の際に果梗(かこう)も一緒にはいるため、この熟成工程では通常よりも雑菌の繁殖に注意が必要とされています。
産膜酵母や酢酸菌などは醸造酒程度のアルコール環境でも問題なく活動できるため、樽をしっかりとワインで満たして空気が入らないようにしておかねばなりません。
生産者によっては、ここでも炭酸ガスや窒素ガスなどを封入して、雑菌の活動を封じ込めているケースもあります。
清澄、濾過(コラージュ、フィルトラシオン)
短い熟成期間が終わったら、清澄剤で微細な浮遊物を取り除きます。
ヌーボーも赤、白、ロゼといろいろな種類がありますので、通常の作り方をしたワインと同じように適切な種類の清澄剤を選ぶ必要があります。
(ただし、マセラシオン・カルボニック法の場合は基本的に赤ワインになります)
どの色でも、白ワインのように透明感のある水色になるため、濁りのもととなる浮遊物を除去することで磨いたような輝きが生まれます。
瓶詰め
完成したワインは、パッケージに詰められて出荷されます。
ヌーボーワインは基本的に長期保存に向かず、できたてかそれに近いタイミングで楽しむ早飲みワインなので、熟成用の高級なコルクなどは使用されません。
近年ではペットボトルや紙とビニールでできた箱型のパッケージなども登場し、気軽に楽しめる安価な新酒として主に日本などに向けて輸出されています。