長野県 日本のワイン産地3
長野県とは
長野県は、日本の甲信越地方(もしくは中部地方)に属する県です。
日本に8県しかない内陸県、いわゆる「海なし県」のひとつで、四方を高い山に囲まれています。
土地のほとんどが山岳地となっているため、総面積はかなり広いほうでありながら可住面積の割合が低く、標高の高い地域では冬季に非常に厳しい冷え込みに見舞われることも。
しかし、厳しい住環境でありながら平均寿命は全国でもトップクラスで、長寿県としても有名です。
豊富な水系に恵まれていることや気候的・地理的な条件から、日本酒や各種果物の産地として古くから知られており、山梨県と接する立地もあって日本のワイン造りにはその最初期から関わってきました。
現在ではブドウ栽培面積、ワインの生産量共に山梨県に次いで第2位。
「信州ワインバレー構想」「長野県原産地呼称管理制度」など、積極的な施策によって品質向上を推し進めている、非常に勢いのあるワイン産地となっています。
長野県のワイン造り
長野のワイン造りは1890年、現在の塩尻市にある桔梗ヶ原で始まったとされています。
まだ本格的な醸造所が山梨県にできてから十数年の、日本のワイン造りの歴史の黎明期でしたが、通常の作物が育ちにくい土地の開拓という流れもあって多くのワイナリーが設立されました。
2度の世界大戦時には、農地の穀物作への転換や兵器部品用の酒石酸を取るためのワイン造りをさせられたことなどにより、一度はワイン産業が後退してしまいますが、戦後は十年もしないうちに回復に成功。
1970年の東京オリンピック以降、甘口混醸酒ではない高品質なワインの需要の伸びと共に重要な国産ワイン産地として発展してきました。
長野の主なブドウ品種
もともと生食用のブドウ栽培が行われていた長野では、コンコードやナイアガラなど食用兼用の品種が多く栽培されていますが、実はヨーロッパ系品種の栽培でも成功を収めた土地のひとつです。
特にメルローとシャルドネの生産量は国内でももっとも多く、栽培面積はどちらも全国合計の50%以上。
これは、夏の少雨や水はけの良い砂利質の斜面、昼夜の寒暖差など、日本では珍しくヨーロッパ系品種の栽培に適したテロワールを持つ土地が多いことに起因しているとされています。
また、東西南北に広く起伏の激しい地形から多種多様なテロワールが存在するため、土地にもっとも適した品種を選ぶことができるのも強みとなっています。
上記以外にも、カベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブランといったフランスなどでもメジャーなヨーロッパ品種、シラーやネッビオーロ、ケルナーといったちょっと変わった品種、デラウェア、巨峰などの食用兼用種、ヤマブドウや浅間メルロー、信濃リースリング、善光寺などの日本特有種やその交配種などが栽培されており、非常に多様なワインが造られています。
長野県のワイン造りの強み
上でも少し書いたように、長野県はメジャーなワイン用ブドウ栽培にとって有利な条件を多く持った地域です。
高い山々とその間を流れる無数の川が、砂利質で水はけと日当たりの良い斜面を形成。
周囲をぐるりと高山に囲まれているため夏も冬も湿度が平均して低く、かなりの寒冷地でありながら積雪は高地以外はさほど多くありません。
標高が高いため昼夜の寒暖差が大きく、特に夏は日中は東京などと比べても遜色ないほど気温が上がるのに夜は場所によってはストーブが必要になることも。
こうした条件が、日本の他の地域では難しいヨーロッパ系品種、例えばカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなどの栽培、さらには品質の向上を可能にしているのです。
ただもちろん、県内の全ての土地でそんな好条件に恵まれているわけではありません。
比較的乾燥しているとはいえ、初夏に梅雨のある本州の県ですし、斜面の向きも標高も大きく異なります。
しかし、長野県の場合はこうした違いを逆手にとり、多様な特徴を持つブドウ、そしてワインを生産してそれを産地の特徴として活用しています。
また、日本では類を見ないほど地域的な制度が整っていることも強みのひとつといえるでしょう。
本格的なワイン造りに力を入れる生産者が増えたとはいえ、日本のワイン産業はまだまだ成長途上の面が大きく、他の国や地域に比べると消費者目線でも行政目線でも存在感の小ささは否めません。
ましてや、地域的な制度などはほぼ未整備で、「個々の良識と責任に任せる」となっているケースが一般的なのが実情です。
しかし、長野県では地域が一丸となってワイン産業の発展を推進し、様々な制度を取り入れています。
例えば、主要な産地ごとに生産者をグループ分けする「信州ワインバレー構想」があります。
現在は「千曲川ワインバレー」「信州ワインバレー」「桔梗ヶ原ワインバレー」「天竜川ワインバレー」の4つのグループに分けられ、それぞれテロワールや生産されるワインの特徴を紹介。
バレーごとにツーリズムも企画されています。
また、基本的にワイン法が存在しない日本においてヨーロッパのような呼称保護を行うため、県で独自に行う制度として「長野県原産地呼称管理制度」を制定。
県内産のブドウのみを使用し、異なるヴィンテージのブレンドや添加物の使用を禁止、品種ごとの糖度基準や官能審査などをクリアできる優良銘柄のみを呼称認定することで、「長野ワイン」の品質を高く保っています。
こうした活動が、県内のワイナリー同士を結びつけて品質の向上や知識、経験の共有を促しており、それによって国際的にも高評価を得るワイナリーが増えてきているのです。
長野県におけるワイン造りの問題点
長野県でのワイン造りは国内でもかなり先進的なものとなっていますが、あえて弱点を挙げるとすればその地形の厳しさが挙げられるでしょう。
周囲を高い山に囲まれる長野は、標高の低い土地に比べると交通のアクセスの面で不便で、特に冬の低い気温や大雪などで道路状況が悪くなると、そのデメリットの影響が大きくなりがちです。
また、斜面での作業は平地に比べて大きな労力が必要になり、大型の機械の運用も難易度が高くなります。
長寿県である分高齢生産者、労働者の割合も大きい長野においては、作業負担が大きいことは産業の継続性、発展性の面ではデメリットといえるでしょう。