フランスのワイン造り 特徴、製法など
フランスの主要な生産地のワイン造りは、それぞれのページでご確認ください。
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伝統に基づいた厳しい規定
フランスのワイン造りをもっとも良く表している特徴のひとつに、長い歴史に支えられた伝統と、それを守る厳しい規定があります。
フランスは土壌や気候などテロワールが多彩で、長い時間をかけてそれぞれにあった品種や製法を探し、受け継いできました。
その真剣さは、有名産地の地名を聞けばそれがどんなワインであるか想像できるほどで、生産者のみならず消費者も、その信頼やイメージを大切にしています。
また、近世以降はフランス国内のみならず国外でもその品質の高さが知られるようになったことから、まったく違う製品が有名な銘柄を騙るケースも少なくありませんでした。
こうした理由から、名称を使用する際のルールを定めるAOC法の条件も厳しいものが多く、使用するブドウ品種やその割合、熟成期間などの製法、品質に至るまで、細かいルールが定められています。
現在ではEUに属する国はどこも同様の形式のワイン法を定める規則になっていますが、フランスのそれは特に厳しく、「どこのワインか分かればどんなブドウが原料かもわかる」ということで品種名をラベルに記さないのが一般的なほどです。
ただこれは、フランスの主要産地でのワイン造りが、条件のほとんどがすでに決まっている、自由のないものになる、ということでもあります。
ワイン法においては通常、狭い範囲を示すアペラシオンになるほど条件が厳しく、逆に地方名など広域なものはそれほど細かい規定になっていないものですが、フランスの場合は地方レベルでもかなり詳細なルールがあることが珍しくありません。
「この土地の名前を使用するなら、必ずこの品種のブドウを使用すること」「この村ではこの種類のワイン以外は造ってはいけない」などの厳しいルールは、自分なりの工夫やアイディアで新しいワイン造りにチャレンジしたい人々にとっては、非常に窮屈なものであることは間違いないでしょう。
そのため、近年ではそうした縛りの少ないランクの低いアペラシオンをあえて使用したり、ラングドック地方など国内でも条件の緩い産地に移動したり、さらにはアメリカなどEUの規則の適用外となる「新世界」へ移住する生産者も目立つようになってきています。
「伝統とそれに基づく特徴を守ること」と「新しいチャレンジを行える環境を用意すること」の両立は、現在のフランスワイン界の大きな課題のひとつといえるかもしれません。
テロワールを写すワイン
キリスト教の修道院が主導してきたフランスのワインには、「ワインはテロワールを忠実に写していること」という思想があります。
宗派によっては毎日ミサ(聖餐)を行わねばならない修道士にとって、ワインとはただの嗜好品ではなく日々聖書の言葉を守って生きるための重要なツールであり、神への捧げ物でした。
また、ブドウ栽培とワイン醸造は、自然や神秘的な発酵過程を通じて神の御業に触れる大事な修行の一環でもありました。
彼らにとって、ブドウは神(とその意思を反映する自然)が育てるもの、理想的なワインとはできるだけ人の手の加えられていない「純粋」なものであると考えられていたのです。
そのため、畑の土を入れ替えたり地形を大きく変えたりしないのはもちろん、水をまいたり逆に雨をよけたりといったこともしませんでした。
こうした姿勢は現在でも受け継がれており、一定以上のランクのアペラシオンを名乗るのであれば、畑には一滴の水も撒くことは許されません。
アメリカやオーストラリア、そして日本などの「新世界」諸国では基本的にこうした規制はほとんどなく、雨の少ない土地では灌漑設備が使用され、逆に水はけが悪すぎる土地では土の入れ替えや配水管の埋設などが普通に行われます。
こうした調整によって、いままでブドウを育てることができないとされていた土地でもワイン用品種のブドウを育てられるようになり、生産量が増えるのはもちろん、今までにないスタイルや方向性のワインが生まれているのは確かです。
しかし、人為的にコントロールしたブドウは土地や気候、その年の気象条件などを反映しなくなり、全体的に均一なものになってしまいます。
それに対して、自然のままに任せるフランスのワインは(醸造家の工夫や技術にもよるところがあるとはいえ)テロワールを忠実に反映したものになります。
そのため、どの地方のどの地域、どの畑で育ったブドウかはもちろん、ヴィンテージによっても品質が大きく異なり、ひとつとして同じものは生まれません。
これにより、良質なヴィンテージのボトルは希少価値が高くなり、たとえ毎年同じ銘柄のワインが生産されていたとしても、資産としての価値が減少しないというメリットもあります。
ボルドーとブルゴーニュの違い
フランスにはいくつもの優良なワイン産地がありますが、その中でも特にボルドー地方とブルゴーニュ地方が名実共に2大トップであることは論を待たないでしょう。
しかし、この2つの地方は同じフランスのワイン産地でありながら、そのスタイルはまったく異なったものとなっていることでも知られています。
ここで一度、その違いについて整理してみましょう。
「シャトー」と「ドメーヌ」
ボルドーとブルゴーニュの違いで、真っ先に浮かぶものといえばやはり「シャトー」と「ドメーヌ」でしょう。
これはどちらも、ブドウの栽培から収穫、醸造、熟成、瓶詰めまでを一貫して行う生産者を指しますが、ボルドーのほうは生産の拠点として城や邸宅などが使用されるため、対してブルゴーニュでは畑や区画など土地が重視されるため、こう呼ばれています。
(「ドメーヌ/Domaine」は「区画、所有地」の意味)
そして、この呼び名の違いはそれぞれの地方のワイン造りが何を主体として行われているかにも関わっています。
ボルドー地方では、ワインは主にシャトー名で認識されますが、シャトーは所有する土地が変わることも珍しくありませんし、生産に関わるスタッフの交代や、さらにはシャトー自体が売買されてオーナーが変わることまであります。
そうなると当然、ヴィンテージによってワインの味わいや品質、方向性などが大きく異なる可能性も出てきます。
その点、ブルゴーニュではワインの素性として認識されるのも格付けされているのも、ブドウを栽培する畑です。
そのため、同じ名前を持つワインのテロワールが変わってしまうことはほとんどありませんが、ひとつの畑を複数の生産者で分割所有していることも珍しくないため、名前は同じだけど生産者が違うワインが同時に市場に並ぶことになります。
畑によっては100人近い生産者によって所有されているものもあり、その技術やスタンスの違いで味や品質が異なるのはもちろん、当然ながら同じ畑でも区画によって品質が異なってくるため、ワイン名だけを頼りに選ぶと思っていたのと全然違うものに当たってしまう可能性も。
また、ドメーヌ名でチェックすれば生産者を間違えることはありませんが、ドメーヌによっては複数の畑を所有していることもあるので、ドメーヌ名「だけ」で選ぶのも危険です。
ボルドー地方のワインはお目当てのシャトーの現在の情報を、ブルゴーニュ地方のワインはドメーヌ名と畑名をしっかりチェックして選びましょう。
修道院主導とイギリス主導
こうしたシステムの違いは、それぞれの地方が発展した経緯の差に由来しています。
ブルゴーニュ地方は、フランスの他の主要ワイン産地のようにキリスト教修道院が主導して発展していきました。
キリスト教ベネディクト教会のシトー派という、キリスト教のなかでも特にストイックな狭義を持つ宗派が、神に捧げる良質で可能な限り純粋な、つまり人の手のかかっていないワインを造るため、時には畑の土を口に含むほど念入りに土地を調べ、優良な区画を選び抜いていったのがブルゴーニュの畑のはじまりです。
彼らにとってブドウ、そしてワインを育てるのは飽くまで神と自然環境であり、人間はその補助をするに過ぎませんでしたので、ブルゴーニュのワインは当然の流れとして畑や区画によって分類されるようになります。
それに対して、ボルドー地方はイギリス王室の加護の元で発展した土地です。
1152年のアキテーヌ女公の再婚によりイギリス領となったボルドーは、フランスの王族や貴族からの要求ではなくイギリス王室の方を優先させる態度をとり、その関心を買うことに成功します。
イギリス王家は積極的に資金を投下してボルドー地方のブドウ畑を開発し、生産されたワインを優先的にイギリスの市場で販売できるようにしました。
この方針によってボルドー地方は、それまで知名度や評価の面で劣っていた南西部各地のワイン生産地を抑え、現在知られるような偉大な産地としての地位を手に入れることになりますが、その取引の主体となったのが土地の所有者であり生産者だったことから、シャトー単位での識別が一般的になったと考えられています。
カベルネ・ソーヴィニヨンとピノ・ノワール
この発展過程の差は、それぞれの産地で栽培される主要な品種にも表れています。
ボルドー地方では、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローが主体となり、複数の品種をブレンドしてワインを造るのが一般的です。
これは、タンニンが豊富で長期間の保存熟成ができるワインが求められていたからであり、それだけ長い期間を経ても楽しめる酒質を作り出すのに単一品種では限界があったからとされています。
ボルドー地方が発展した300年の間、メインとなる顧客は国内ではなくイギリスの市場でした。
百年戦争でフランス領に戻った後もその傾向は続いたため、メインターゲットの需要にあわせた進化の仕方をしたのです。
逆にブルゴーニュ地方では、赤ワインならピノ・ノワール、白ワインならシャルドネを単一で使用するワインがほとんどとなっています。
前述の通り彼らにとってワインとは信仰のために必要なもので、主に神様のためのものです。
ピノ・ノワールやシャルドネが主要品種として選ばれたのも、これらの品種がテロワールのわずかな差もちゃんと写し取ることのできるものだったからとされています。
できる限り人の手を加えずに栽培したブドウを、わざわざブレンドして「純粋」でなくしてしまうのには抵抗があったでしょうし、もとより人間がおいしく飲めることは二の次でした。
現代ではどちらの産地も最初の意味は失われていますが、そのスタンスは今でも受け継がれているのです。
複雑繊細と華やかな果実味
こうしたワイン造りの考え方や使用品種の差は、ワインのスタイルにもしっかりと表れています。
ブルゴーニュのワインはその恵まれたテロワールを十分に反映したブドウ果汁の気配をしっかりと感じ取ることができ、華やかなフルーティさが口いっぱいに広がります。
市場に並び始めた頃からおいしく飲むことができますが、特に良質なボトルは10年近い期間成長を続けるものもあるとされます。
それに対してボルドーのワインは、綿密に設計された複雑で繊細な味わいが特徴です。
ガロンヌ川とドルドーニュ川によって造りだされた幾重にも折り重なった地層を再現するかのような味わいは、複数の品種をブレンドすることで掛け算のようにさらなる複雑さを獲得します。
分厚いタンニンが馴染んでくるまで長い熟成期間が必要なものが多いのも確かですが、その必要期間が長ければ長いほど、その下から現れる味わいの緻密さが際立ってきます。
まったくタイプが異なるため、この二つの産地のどちらが上かという議論は意味があるとは言えません。
それぞれのスタイルのひとつの到達点として君臨するボルドーとブルゴーニュは、現在でも世界中の生産者のお手本として、共に尊敬を集めているのです。