ソムリエ資格の定義 同じ名称でも条件の異なる二つの資格
ソムリエとは、レストランや専門店で客の要望を元にワインを選ぶ手伝いをしたり、熟成中のワインの管理を行う専門職のことです。
他の嗜好品や飲食物について非常に詳しい人のことを「○○ソムリエ」と表現するなど、「ある分野において細かい差異がわかるほどの専門知識や技能を持つ人」という意味で使われることもありますが、本来の意味ではありません。
ワインが奥の深い難しい飲み物であること、そしてそれに通じるソムリエが非常に高度な能力を要する職業であるという認識が一般的であることが分かりますね。
ソムリエという職能は、もともとは中世の時代、まだ一般の人々が日常的にワインを飲むことができなかった頃、王族や貴族など支配者層が所有するワインの管理を行う使用人が、時を経るごとにワインの多様化や品質の差の拡大にあわせて次第に専門性を持つようになったことで生まれたと考えられています。
その後、ヨーロッパ各地で都市が発展し、人口の増加やブドウ栽培、醸造技術の向上を経てワインが一般市民の間にも普及していったのに合わせて、ソムリエも市民が利用するレストランや居酒屋でも必要とされるようになっていきます。
18世紀頃にガラスボトルとコルク栓が一般的になるまで、ワインの流通や保管は主に樽で行われていたため、品質の見極めや管理の重要性は今よりもずっと高かったでしょう。
ただ、この時点ではまだ公に認められた資格だったわけではなく、あくまでソムリエ自身や所属する店による「自称」でした。
現在のように国や民間団体による資格の認定が始まったのは20世紀の初頭。
1907年にパリで設立された「パリ・ソムリエ組合(Union des Sommeliers de Paris)」が発祥です。
その後、同じ動きがヨーロッパを中心とする各地に広まっていき、1969年には国際ソムリエ協会(ASSOCIATION DE LA SOMMELLERIE INTERNATIONALE/ASI)も発足。
現在では日本を含む55カ国が加盟する、重要な組織となっています。
ソムリエに求められる能力
ソムリエが行わねばならない業務は多岐に渡るため、それを遂行するために要求される能力もレベルが高く、一朝一夕で身に付くものではありません。
どんな能力が必要なのか、感覚、知識、技術の面からそれぞれ見てみましょう。
感覚
ワインは生産される国や地域、生産者、原料となるブドウの品種、収穫年、醸造方法や熟成の状況などによってまったく異なる性質を持つようになる飲み物です。
そのため、同じ銘柄のワインでもヴィンテージやロット、ひいてはボトル一本ごとに特徴も品質も異なる可能性があります。
ソムリエは、ラベルから読み取れる情報だけでなく、自分自身の感覚によってワインの正体に向き合う必要があります。
味覚や嗅覚はもちろん、視覚、触覚も総動員し、そのワインの出自や辿ってきた時間、そして品質を正確に評価するのです。
ワイン自体のコンディションはもちろん、周囲の状況や自分の体調などによっても簡単に揺らぐ感覚を制御し、非常に繊細で複雑なワインの情報を読み取るのは容易なことではありません。
知識
鋭敏な感覚でワインを分析できたとしても、それを生かすための知識がなければどうにもなりません。
ワインは人類史よりも古いほどの長い歴史を持つ、各国の文化に深く根ざしたお酒です。
現代では年間3000万キロリットル近く生産されており、生産者や銘柄は数え切れないほど存在します。
国や地域ごとの特徴、それぞれの生産地のワインに関する法律や分類、ブドウの品種と特徴、代表的な生産者や銘柄など、把握しておくべき情報は大量にあります。
さらに、カベルネ・ソーヴィニヨンなどを原料とする長期保存向けのワインは、数十年くらいは軽く熟成を続け、場合によっては100年を超えるようなボトルも存在するため、今だけでなく過去1世紀分以上の知識も必要になります。
それらの客観的な情報と、感覚で捉えたワインの状態から、ワインの価値や品質を総合的に判断するのです。
ワインを仕入れ、適切に保管し、顧客に紹介するのにも、それぞれ十分な知識が必要になってきます。
技術
知識を生かすための技術も必要です。
ワインの状態を正しく把握し、どう扱うべきか知識で知っていたとしても、それを実践できなければ無意味です。
ワインを保管し、適切に熟成させる技術。
そつなくコルクを抜き、必要に応じてデキャンタージュやキャラファージュを行う技術。
ワインの魅力を最大限に引き出し、楽しんでもらうためのサービスの技術。
顧客の知識や興味のレベルに応じて、適切に情報を伝える説明の技術・・・。
ワインに関するありとあらゆる方面での活躍が期待されるソムリエは、多くの技術を持ち、しかもそれを高いレベルで維持する必要があるのです。
ソムリエが活躍する業態
レストラン
樽ごとではなく瓶詰め状態で流通するようになった現代では、かつてのような品質管理の業務はほとんどなくなりましたが、いまでもソムリエが活躍する主な舞台となっているのはレストランであると言えます。
提供される料理と顧客の好みを把握し、どちらにもマッチングするワインを選び出すには、ワインに関する十分な知識が必要です。
また、何十年も熟成を続けた高級なワインは非常に繊細なため、抜栓や空気との触れさせ方にも注意がいります。
ワインが劣化していないか、熟成の度合いは適切かなどをチェックして最良の状態でサービスするのはもちろん、顧客のワインに対する知識や関心の度合いを見極め、興味深い説明を行ってその体験をより良いものとする物腰の柔らかい接客技術もソムリエの必須技能なのです。
ワイン専門店
ワインの専門店も、ソムリエの能力を必要としている職場のひとつです。
経営側からすれば、無数にあるワインの中から店の客層に合った良質なワインを選び出し、それを適切に勧められるスタッフがいるかどうかは、売り上げの上下だけでなくお店の存亡にも関わる重要な問題です。
顧客からしても、マスコミや流通業者が売りたいだけの流行の商品を、ただなんとなく並べてあるだけの店よりも、確固たる根拠をもとにして集めた商品や有名ではないけれども良質な掘り出し物があって、それをちゃんと説明できる店員のいる店のほうが魅力的であるのは間違いありません。
気軽に試飲をして好みにあっているかチェックできるような大量生産品ではなく、それなりの価格がするにも関わらずラベルだけを頼りに選ばねばならない高価なワインを購入する際に、ソムリエの存在は心強い助けとなるでしょう。
保管業者
資産価値を持つような超高級ワインは、適切な管理を行いそれを客観的に証明してくれるレンタルセラーやワイン保管業者に預けるのが一般的です。
当然、ワインについての正確な知識と技術を持つソムリエの能力はここでも重要な戦力となります。
十年を超えるような長期間の保存の場合、それが樽ごとであろうと瓶詰めされたものであろうとただセラーに放っておけばよいというものではなく、適切なケアが必要になります。
ただでさえ慎重を要する作業であるうえに、それを何度も行うとなるとリスクもそれだけ大きくなるため、経験豊富なプロがどれだけいるかということがそのままワインの資産価値に影響を及ぼすことさえありえるのです。
設備が進歩し、醸造や熟成中の安全性が向上しても、ソムリエという職能の重要性はワインが存在する限り変わらないといえるでしょう。