カベルネ・ソーヴィニヨン 世界的に主要な赤ワイン用ブドウその1
カベルネ・ソーヴィニヨンとは
フィロキセラの被害によってかつての代表品種が衰退してしまった19世紀以降、ヨーロッパ、特にフランスのボルドー地方を中心に世界中で大活躍しているワイン用黒ブドウです。
かつてはカベルネ・フランの元となった品種だと思われていましたが、実は逆にカベルネ・フランとソーヴィニヨン・フランの自然交配によって生まれたことがわかっています。
砂利質や砂礫質の非常に水はけの良い土壌を好み、地中深くまで根を伸ばすことで複雑でしっかりとした香味を作り出すことができるようになります。
また、基本的には温暖な気候の中でしっかりと成熟することで真価を発揮する品種です。
逆に冷涼な環境の中では、どこか草っぽい青いニュアンスが残ってしまうとされています。
基本的に完熟が遅く、開花から収穫までの期間が長い分、手間のかかる品種です。
また、粘土質など保水力の強い地質や、栄養素、特に窒素の豊富な土壌では、枝葉がどんどんと茂っていこうとするため、しっかり除枝や摘心、夏季剪定(せんてい)を行わねばなりません。
そういった土地では根も深く伸びず、土壌付近で浅く広がってしまうため、樹体も果実も力強さに欠けるものになりがちで、栽培前の地質改良が必要になるケースもあります。
ただし、適合する土地や気候の中で、しっかりと手をかけて栽培されたカベルネ・ソーヴィニヨンは、それに応えるように充実した果実を実らせます。
果皮が厚くて種が大きく、タンニンを多く含むため、どっしりとした骨太なスタイルに仕上がります。
基本的に香りは控えめの硬派なイメージのブドウですが、完熟前に除葉をして果実にもしっかりと日の光を当ててあげると、はなやかな香りを持つようにもなるようです。
そのタンニン量から、数十年という長期間にわたって成長できる底力をもったワインを造ることもできるため、ボルドーをはじめ各地で高級ワインの原料となっています。
ヨーロッパのような冷涼な気候の中で育てると、骨と筋肉のがっしりとしたボディはあるものの果実味に欠けるワインになりがちなため、メルローやシラー、カベルネ・フランなどの柔らかいニュアンスを持つ品種とブレンドされることがほとんどです。
ただし、もっと温暖な産地であるオーストラリアや、カリフォルニアを中心とするアメリカでは、十分な温度と陽光が熟成度を押し上げてくれるため、単体で使用しても問題ないほどの果実感を持つようになります。
最高級ワインから親しみやすいワインまで。
まさに現代の赤ワインに欠かせない品種のひとつといえるでしょう。
世界のカベルネ・ソーヴィニヨン
フランス
発祥の地であるボルドー地方、特に「左岸地帯」と呼ばれるメドック地区で、最高級ワイン用品種として利用されています。
主に急斜面の表土の薄い砂利質や砂礫質の地層を持つ畑で、がっしりとしたボディの中に恐ろしく複雑な味と香りを隠し持った、素晴らしいワインの原料となる果実を生み出します。
日光が比較的弱く、繊細ではあるものの果実味に欠けるフランスのカベルネ・ソーヴィニヨンは、メルローなど柔らかいジューシーさを持つ品種とブレンドして使用されることがほとんどで、単一品種のワインはほとんどありません。
およそ60~80%の間で調整されることが多く、カベルネ・ソーヴィニヨンの割合が高いほど、熟成に時間のかかる大器晩成型に仕上がるとされています。
オーストラリア
カベルネ・ソーヴィニヨンがオーストラリアに渡ったのは20世紀にはいってから。
世界的な評判に後押しされ、先に植えられていたシラー(シラーズ)の畑を削ってどんどんと植えられて、現在では黒ワインの作付け面積のうちの1/3以上を占めています。
最もメジャーな利用方法は、シラーとのブレンド。
これはカベルネ・ソーヴィニヨンの生まれ故郷、ボルドーの伝統に則って…というわけではなく、植え替え当初はまだワインになる量が少なかったため仕方なくシラーとブレンドして使っていて、それがそのまま定番になっていったそうです。
骨太なカベルネ・ソーヴィニヨンとパワフルなシラーの組み合わせ、と書くとなんだかボディビルダーのようなマッチョなイメージを抱いてしまいますが、実際には繊細さや果実味も豊かな、エレガントなタイプも多く存在しています。
イタリア
イタリアに導入されたのは、第二次世界大戦中とのこと。
ボルドーワインが大好きだったある貴族が、戦争で飲めなくなってしまったワインの代わりを自分で造ろうと、敷地内にカベルネ・ソーヴィニヨンの苗木を植えたのが始まりでした。
しかし、戦後しばらくは「イタリアのブドウではない」ということで、この品種を使ったワインはあまり造られることはなく、造られたとしても原産地呼称統制からは外れてしまうため、メジャーになることはありませんでした。
状況が変わったのは1970年代。
トスカーナの生産者たちが中心となり、カベルネ・ソーヴィニヨンによる本格的なワイン造りが展開されます。
原産地呼称制度からは外れているにもかかわらず、その品質の高さから次第に評価されるようになり、現在では「スーパー・タスカン(スーペル・トスカーナ)」と呼ばれ、高品質ワインとして知られるようになりました。
有名な銘柄としては、最初にカベルネ・ソーヴィニヨンが植えられた農園の、地質にちなんで名づけられた「サッシカイア(石ころだらけの土地)」などがあります。
アメリカ
カリフォルニアを中心に、ほとんど全土で栽培されているという、一大生産地です。
アメリカのカベルネ・ソーヴィニヨンは、強い日光が熟成と果実感の醸成を進めてくれるため、フランスのボルドー地区のようなブレンドタイプよりも、単体での使用が多くなっています。
骨格のしっかりした特性はそのままに、華やかな果実味をまとったワインは、世界中にカベルネ・ソーヴィニヨンの名を知らしめるきっかけとなりました。
ほとんどの場合、高級なバージョンのほかに廉価版も造っており、気軽に楽しむこともじっくり味わうこともできるのも大きな魅力のひとつです。
日本
乾燥した水はけの良い土壌を好むカベルネ・ソーヴィニヨンにとって、日本の大地は(他のほとんどのワイン用ブドウと同じように)根付くのに向いているとはいえません。
粘土質の地層と分厚く栄養豊富な土壌は根を甘やかし、春が来るごとに大量の枝葉を伸ばす要因になります。
雨の多さや日照の少なさは松脂やピーマンに例えられる青臭さの原因となりますし、収穫期直前にやってくる台風や豪雨はせっかくの果実をだめにしがちです。
しかしそれでも、畑の土を砂利質などに入れ替えたり、初夏にひたすら続く除葉や除枝を辛抱強く続けたり、雨よけ風よけ虫よけを徹底するなどの手間隙をかけてやれば、良質なブドウを作ることはできるようです。
日本で作ると、カリフォルニアのような華やかなパワータイプではなく、やや神経質な繊細さを持った仕上がりになります。
当然、ヨーロッパやアメリカと同じ方式で造ったワインは単純に廉価版のような出来になってしまいますが、品種のポテンシャル自体が失われてしまうわけではないので、日本産ならではの生かし方が開発されたときには、他では造れない独自のおいしさを持つようになるかもしれません。