気候条件 テロワールに含まれる条件その1

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テロワールとは ブドウを育てる全てについて

 ワインの原料となるブドウの樹は、品種によって乾燥・湿潤のいずれかを好む性質はあるものの、一般的に栽培の容易なタフな植物です。
栽培可能地域は、北緯30~50度付近と南緯20~40度付近。
温帯気候であれば、高地でも低地でも育ちます。
果実はもちろん、葉や果皮、種、果汁を絞ったあとの搾りかすなどほとんどの部位が様々に利用できることもあり、ブドウは1980年代まで全世界でもっとも生産量の多い果実でした。

 しかし、「どこでも栽培できること」と「どこで育てても同じ品質になること」は別です。
 ブドウは、気候や日照、温度、湿度、周囲の環境、そして土壌の質など、様々な条件によって質ががらりと変わってしまいます。
その繊細さは、隣り合った畑でさえまったく違った特徴を持った実が育つほど。
つまり現在ワインの生産地となっている土地は、絶妙な条件を満たす環境であるといえるのです。
この「ブドウの育成に影響を与えうる条件」をまとめて「テロワール」と呼びます。

 ここでは、テロワールの条件のうち、主に「気候条件」について説明します。

気温条件 気候条件その1

 気温は、ブドウの樹の育成に大きな影響を与える要因のひとつです。
「一日の寒暖差」「一年を通じての気温変化」「許容できる最高気温と最低気温」に分類できます。

一日の寒暖差 ブドウの糖分と酸味のバランスを形作る

 他の作物と同様に、一日の気温にどれくらい寒暖差があるかは、ブドウの品質に大きな影響を与えます。
日中の気温が十分高く、夜間は気温がしっかり下がる状況だと、ブドウ果実にはより多くの糖分が溜まっていきます。
日照がある時間帯は気温が高い方が光合成が進み、夜は気温が下がって呼吸の量とエネルギーの使用量が減少、ひいては糖分の温存につながるからです。
また、高温状態と低温状態では、たんぱく質や炭水化物、ビタミンなどの微小な成分生成に違いがあるため、気温差が大きい方がより複雑な味や香りになるのです。

一年を通じての気温変化 ブドウの健康と品質を守る

 ブドウの樹の栽培に適した気候は、年間の平均気温が10~20度程度になる温暖気候だとされています。
でも、一年中気温の変化のない土地では、おいしいワインを造れるブドウには育ちません。
12月頃から2月頃の冬場は、ブドウの樹の休眠期間ですが、この時期に気温がしっかりと下がっていないと、次の年に生るブドウは糖度が低くなりがちです。
でも、気温が上がって新芽が出る頃には、逆に霜が降りない程度に気温が上がっていなければなりません。
新芽に霜が降りてしまうと、そのまま枯れ落ちたり病気になるリスクがあるからです。
夏場はたっぷりと陽を浴びられる天気が望ましいのですが、短い雨が降ったりすると湿度が急上昇して、やはり病害の原因になってしまいます。
昼夜の寒暖差が大きい方が、複雑な香味成分を生み出すことができるため、日中の気温上昇は重要です。
ただし、あまり高温になりすぎると、糖度がきつくて酸味の少ない、ぼんやりとした味わいになる恐れもあります。
一般的にはブドウの収穫は開花から100日程度、晩夏から初秋にかけて行われますが、樹上で水分の蒸発や氷結を待つ製法の場合は秋以降にすみやかに気温が下がっていかなければ困ります。
特に「アイスワイン」と呼ばれる自然凍結したブドウを使用する場合、収穫時の気温はマイナス8度以下と決められているため、暖冬では収穫すらできない可能性もあるのです。

許容できる最高気温と最低気温

 ブドウの樹にとって、夏の暑さや冬の寒さ、そして一日の中での寒暖差は重要です。
でも、暑ければ暑いほど、寒ければ寒いほどいい、というわけではありません。
夏の暑さはブドウの糖度を上げ、香りを鍛え上げてくれるとされていますが、同時に爽やかな酸味を減少させてしまいます。
あまりに酸が少なくなってしまうと、味わいのバランスを欠くだけでなく、長期間は保存できないワインになってしまいます。
例えば、2003年はフランス全土で猛暑になり、ひどい所では最高気温が40度を超す所もあったそうですが、出来上がったワインは発酵が終了しているのにジュースのように甘い仕上がりになったり、同じ生産者の他のヴィンテージとはまったく違う特徴の香味を持っていたといいます。

 冬にあまりに寒すぎるのも問題です。
適度な寒さはブドウの樹のなかに翌年に向けた糖分とエネルギーを蓄えさせますが、マイナス15度を下回るような気温(そしてあまり雪の降らない気候)は、樹の中の樹液を凍結させてしまうのです。
そうなると、樹の中はエネルギーを蓄えるどころか、細胞単位でずたずたになってしまい、場合によってはそのまま枯れてしまうこともあります。

降水量 気候条件その2

 降水量はブドウ果汁の味わいや収穫量、ブドウの樹の健康などに影響があります。
特にフランスを中心とするヨーロッパ諸国では、原産地呼称統制のワインについて、基本的に原料となるブドウへの潅水(水遣り)が禁止されているケースが多く、適切な降水は良質なブドウを作るための生命線でもあります。
「年間降水量」と「一年を通じての降水量変化」に分けて確認してみましょう。

年間降水量 根を深く張らせるには少雨が大切

 ワイン造りに適するブドウの樹は、系統によって多少の差はあるものの、一般的に乾燥しがちな水はけの良い土地を好みます。
特に地表付近の土壌が乾燥した環境に置かれることで、樹根が水を求めて地中深く、複雑で緻密に張り巡らされていき、微細な栄養素を吸い上げるようになるのです。
当然、年間の降水量は平均より少なめの方が育成が良くなります。
ヨーロッパ系の品種では、年間700mm前後が理想とされており、これは世界平均より2割少なく、日本の40%程度です。
ただし、あまりにも降水量が少なくてもいけません。
例えば砂漠のような過乾燥な環境では、樹自体が枯死する危険があるだけでなく、実がつかなかったり葉の量が少なく光合成が不十分だったり、樹液が行き渡らずに育成不良に陥ったりしてしまい、正常な育成は望めません。

一年を通じての降水量変化 降ってほしい時期と晴れて欲しい時期

 ブドウにとって、降水量の変化の影響が最も強くなるのは、開花してから収穫まで、つまり果実が育っている間です。
この期間の降水量はブドウの果汁の量と濃度にダイレクトに影響してきます。
ブドウの樹自体はもともと乾燥環境に強く、根から吸い上げた水分を葉や果実に行き渡らせる力の強い植物です。
そのため、果実が成長している間に過剰な水分が供給されてしまうと、果汁量の増加のスピードに実の成長が追いつかず、実が割れてしまう危険性があります。
割れた実は、腐敗や変質、発酵などの危険があるためワイン造りには使用できません。
そこまでの問題にならずとも、光合成による糖分の増加よりも果汁量の増加の方が多ければ、相対的に成分の薄まった果汁になってしまう可能性もあります。
そのため、果実が成長している期間の降水はできるだけ少なく、樹が枯死しない程度が理想的です。
降水が少なく日照が十分であれば、糖分をはじめとする様々な成分は精製されるものの果汁の量が増えていかないため、相対的に濃い、濃縮された果汁になるからです。
また、気温が高い時期の雨は多湿の原因になり、カビや病気を発生させる可能性もあります。
逆に、果実というタンクがなくなってしまう収穫後は、樹が枯れることを避け来年に向けたエネルギーを溜めるために、ある程度降水がある方が良いとされています。
つまり、ブドウのためには、春から秋口にかけてはあまり雨が降らず、秋から冬の終わりまでに十分な降水量がある、という環境がベストであると言えるでしょう。

その他の気候要素 気候条件その3

風 病害から守ってくれるドクター

 乾燥した環境を好むブドウにとって、木々の間に湿度がたまらないようやさしく吹き続ける風は、必須とまではいわずとも健康な育成を助けてくれる優秀な補助役です。
初夏や秋口の湿気は、うどん粉病や各種のカビによる壊滅的な被害を呼ぶ危険があります。
通常は枝の形状を整えたり農薬に頼ることで問題を回避しますが、しっかりとした季節風が吹いてくれればその必要もありません。
南アフリカのケープタウン周辺では、ブドウ畑を渡る強い南西の風が育成を助けており、「ケープドクター」と呼ばれています。
ただし、強すぎる風は樹に不要なストレスを与え、葉や実を散らしてしまいます。
葉が傷付けば光合成が十分に行われず、糖度の蓄積に不利に働きます。
実が傷付けば、腐敗したり変質してワイン造りに使用できなくなってしまいますし、落下する実が多くなると収穫量が減ってしまいます。

霧 ブドウ畑をやさしく包むベール

 霧は強すぎる日差しをさえぎり、地表に適度な湿り気を与えてくれます。
また、気温の急激な変化を和らげる、緩衝材のような効果もあります。
カリフォルニアなど夏の日差しが厳しい土地や、昼夜の寒暖差が激しすぎる土地では、ブドウの樹を保護する役割を果たしてくれます。