テイスティングの方法 シーンと目的に合わせたやり方
レストランでボトルワインを注文した際
レストランでちょっと高級なワインをオーダーし、テーブルの代表としてテイスティングを求められるのは、誇らしくもちょっと緊張するシチュエーションと言えるかもしれません。
でも、たとえワインに詳しくなくても、難しいことはまったくありません。
ソムリエによって目の前でワインが開栓されると、まず最初にコルクを渡されチェックを求められます。
しっかりと密栓されていたワインの場合、コルクが無事なのにワインが劣化しているということはほとんどありません。
そのため、ワインそのものを口に含む前に、コルクに含まれる物質が原因の異臭であるブショネやカビ臭などが発生していないかを確認するのです。
通常は小さなお皿などにワインに接していた面を上にして乗せて渡されるので、コルクを指でつまんで持ち、軽く匂いを嗅ぎます。
ブショネやカビ臭はかなり強い匂いとして感じられるため、明らかな異常を感じないなら問題ありません。
コルクに問題がないことを告げると、ソムリエは次にテイスティング用のグラスに少量ワインを注いでくれます。
これもいわゆる味見のためではなく、コルクからは感じ取れなかった異常がないかをチェックするためですので、妙に濁っていないか、不快な香りがしないか、おかしな味を感じないかなどに気を付けながら、ひと口飲んでみましょう。
ほとんどの場合、ここで異常を感じることはないようですが、もし明らかな違和感を感じたら、ソムリエに簡潔に伝えてチェックしてもらいましょう。
実際に異常があると判断されれば、新しいボトルと交換してもらえます。
このテイスティングで注意したいのは、あまり時間をかけないことです。
目的はあくまで品質が保たれているかのチェックですので、必要以上にじっくり味わうのはやめましょう。
また味見ではないので、当然ながら好みに合わないからといって交換してもらうことはできません。
パーティなど他の人といるとき
他の人とワインを飲む際には、つい知識や技術を披露したくなってしまうかもしれません。
しかし、テイスティングを目的とした集まりは別として、通常の会食やパーティで必要以上に知識をひけらかすのは、自己顕示やマウンティングなどの明確な意図がなくともあまり好ましいことではありません。
また、たとえ黙っているとしても、人と食事をしているときにあまりに自分の興味の世界に没頭してしまうのも失礼にあたるでしょう。
興味深いボトルがあったとしても、基本的には普通に飲むのと同じくらいの、控えめで手短なチェックに留めるべきです。
あるいは、ワインを話題のひとつとして取り上げ、興味関心を引きながらみんなでテイスティングするのもひとつの手です。
あまり専門的な部分ではなく、「バターやトーストのような香りがする」「甘いけど飲みやすい」といった分かりやすくてキャッチーな部分を取り上げ、どう感じるか、好きか嫌いかなどを語り合うことで、場の空気に水を差すことなく自然にテイスティングをすることができます。
ただしその場合でも、音を立てて啜りこんだり長々と語り出したりするのは避けたほうが良いでしょう。
自宅やバーで一人
自室でテイスティングをする場合は、白いテーブルクロスかハンカチなどを用意し、できるだけ明るい部屋で行いましょう。
自然光が理想ですが、色がついていなければ蛍光灯などでもかまいません。
つまみを用意してマリアージュを楽しむのもいいのですが、テイスティングの場合は水を飲むなどして味覚と嗅覚をリセットしておきます。
香水や葉巻、アロマなどの匂いがするものはもちろん、人によっては音楽の有無やそのジャンルさえワインの印象に影響を与えることがあります。
味覚・嗅覚だけでなく、できるだけ条件や五感をフラットな状態にして臨むのがベストです。
また、どんなに強烈に感じたとしても、印象ははかないものです。
専用のワインノートなどを用意して、感じたことをその都度記録していくとなお良いでしょう。
テイスティングの際は、ワインは一度にあまりたくさん注がないようにしましょう。
ちゃんとしたグラスを使用しているのであれば、グラスを置いた状態で一番膨らんでいる部分に液面(ディスク/Disk)がくるくらいがベストです。
ワインを注いだら香りが立ち上ってくるのを待ち、その間に外観(アパランス/Apparence)をチェックします。
グラスをやや前方に傾け、白いクロスかハンカチ(ナプキン)を背景にして色を見たり、グラスを目の高さに持ち上げたり光に透かしてみて清澄度合(ランピディテ/Limpidite)、光沢を見てみましょう。
グラスを持ち上げて様々な角度から思う存分チェックできるのは、自室ならではの利点といえます。
外観を見終わったら、次は香りを確かめます。
グラスをテーブルに置いて少し待つと、香りの成分はグラス内で層を作るとされています。
縁のほうまで上がってくる香りはグラスをまっすぐに立てたまま、中心にとどまる香りや液面近くに溜まる香りはグラスを静かに傾けたり嗅ぐ強さを変えるなど、どの部分の香りを嗅ぎたいのかを意識すると良いでしょう。
胸を大きく膨らませるような嗅ぎかたより、犬のように小刻みに吸い込むほうが、より詳細な情報も感じ取りやすくなります。
また、強めにスワリングして全ての要素が混ざった状態で嗅いでおくのも忘れずに。
外観、香りがすんだら、いよいよ味わいのチェックです。
方法についてはいろいろとありますが、「できるだけ口の中の多くの場所を使って味わう」のが基本です。
味蕾は舌の上にもっとも多く分布しますが、口内の他の部分にも少数存在することが分かっています。
また、渋味や温度など触覚によって発生する刺激も、ワインの味覚には重要な要素です。
少量を口に含んだあと、普通に口を閉じているのに近い状態にすることで、舌の上だけでなく上あごやほほの内側など、口内全体でワインを感じるようにしてみましょう。
しっかり味わったら飲み下し、口をややすぼめるようにして「ふー」と息を吐き出すと、返り香が分かりやすいようです。
テレビなどでのテイスティングのシーンでは、ワインを含んだあとしゅるしゅると音を立てて空気を吸い込むような方法をよく目にしますが、これは見ていてあまり気持ちの良いものではないので、周囲に誰もいないときだけにしたほうが良いでしょう。
ワインの味や香りは、温度の変化や酸化の度合いによっても変化します。
最初はあまり好みじゃないと感じたワインが、時間の経過と共にどんどんおいしくなっていく、というケースも少なくありません。
(もちろん、その逆の可能性もあります)
できればあまり急いで飲んでしまうのでなく、じっくりと時間をかけて繰り返しチェックすることで、ワインの持つ魅力を最大限味わうようにしたいですね。
投資用ワインをチェック
投資用のワインのテイスティングは、他のシーンとは目的が大きく異なるため、その方法もまた違ったものとなります。
今現在のワインから、数十年後の飲み頃になったワインの姿を想像するのは容易なことでありません。
長期間の熟成に耐えられるだけのポテンシャルを持っているか、仕上がりは他の年に比べてどうか、現在の市場の嗜好にマッチしているかどうかなどを、五感をフルに動員してチェックしていきます。
口の中で空気と混ぜるようにじゅるじゅると音を立てたり、最終的に飲み込まずに吐き出してしまうなどのテクニックが使用される本来のシーンでもあります。
近年では、触媒の作用で擬似的に急速に熟成を進めるグッズなども販売されているとはいえ、経験や知識に裏打ちされた確かな味覚が必要な作業といえるでしょう。