セプタントリオナル(ローヌ北部)地区 ローヌ地方のワイン産地1

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セプタントリオナル(Septentrional)地区

 ローヌ地方の北部、ヴィエンヌ(Vienne)からヴァランス(Valence)あたりまでの約120kmに渡る、ローヌ川の左右岸に続く細長い産地を「セプタントリオナル(Septentrional)地区」と呼びます。
穏やかな大陸性気候で昼夜の寒暖差が大きく、湿度はやや高めなものの強い北風(ミストラル)と雨の少ない夏がブドウ栽培を助けてくれます。
土壌は花崗岩や片岩の砂利質で、ローヌ川の流れが作り出した斜面を利用してブドウ畑が作られています。
斜面の畑と水面からの照り返しによって長い日照時間を確保し、水はけの良い砂利質の土壌がブドウの樹の根を地中深くまで伸ばさせるという、スタンダードな良テロワールが特徴です。
右岸には上流から下流までほぼ途切れることなくアペラシオンが並び、やや南寄りの左岸にはローヌ地方を代表する白ワインの生産地もあります。

 北部地区のワインは基本的に単一品種のブドウだけを使用して造られており、補助として他の品種を使用する場合にも1~2種類を少量ブレンドするにとどまります。
主要品種はダントツでシラー。
メインでシラーを使用し、補助として白ブドウ品種のヴィオニエをブレンドするものもあります。
テロワールの特性や収穫量を絞る方針などもあいまって、濃厚で力強いワインが生み出されます。

セプタントリオナル地区の主要生産地

 北部地区に含まれる主要な生産地は全部で9つです。
(ただし、シャトー・グリエ(Chateau Grillet)はコンドリュー(Condrieu)の中に含まれるシャトーの畑単体を指すことから、コンドリューに含まれるとして数えない(主要産地を8つとする)ケースもあります)

コート・ロティ(Cote Rotie)

 セプタントリオナル地区最北の産地。
「ローストした丘」を意味する名を持ち、機械による作業が困難なほどの急斜面を持つ丘にびっしりとブドウの樹が植えられています。
ブドウ畑の開拓はローマ帝国時代にまで遡るとされ、当時から良質なブドウの産地として知られていました。
特に、ある領主が2人の娘に分け与えたという逸話から、それぞれの娘の髪の色を地名の由来とする「コート・ブロンド(金色の丘)」「コート・ブリュンヌ(茶色の丘)」が有名です。
シラーをメインとし、白ブドウ品種のヴィオニエをブレンドした、タンニンに富みどっしりとしながらも、どこか気品を感じさせるワインを生み出しています。

コンドリュー(Condrieu)

 ヴィオニエを100%使用した白ワインで知られる産地です。
面積は広いものの畑が分散していて、実際の生産地はあまり広くありません。
ローヌ地方でももっとも評価の高い白ワインを造っている産地で、近年特に価格が上昇してきているとされます。

シャトー・グリエ(Chateau Grillet)

 コンドリューの中に存在するわずか4haの小さな区画です。
現在はモノポール(単独所有畑)となっており、その品質の高さと合わせて「ローヌ地方のモンラッシェ」と称されています。
コート・ロティやコルナスと同じように、太陽が照りつける斜面を持つことから「焼けた城」の意味を持つ名が付けられました。
シャトー名がそのままAOC名になっている珍しい例で、生産量は年間1万本足らず。
名声の高さもあり非常に希少な銘柄です。
コンドリュー内の区画なので、栽培・使用銘柄も同じくヴィオニエだけとなっています。

エルミタージュ(Hermitage)

 北部地区で二つだけのローヌ川左岸の区域です。
サン・ジョゼフの対岸で、クローズ・エルミタージュの中央付近の川岸に位置する急な斜面に畑があります。
赤ワインではメインのシラーに白ブドウをブレンドしますが、コート・ロティとは違いマルサンヌとルーサンヌを使用するのが特徴。
(マルサンヌ、ルーサンヌを使用した白ワインも造られます)
長期間の熟成には向きませんが、数年おくことで開くタイプの力強いワインを生み出しています。
中世には、ボルドー地方やブルゴーニュ地方のワインが台頭してくるまで、貴族達の間でもてはやされた宮廷御用達のワインとして知られていました。
また、そのどっしりとした質感や色合いからブレンド用としても利用価値が高く、AOC精度が整備される前の時代には地域を越えてボルドーなどの有名ワインにもブレンドされていたと言われています。
収穫後にブドウを干して造る果汁濃縮系ワインの「ヴァン・ド・パイユ(Vin de Paille)」も造られています。

クローズ・エルミタージュ(Crozes Hermitage)

 ローヌ川左岸で、エルミタージュを取り囲むように広がる地域です。
セプタントリオナル地区最大の面積を持ち、畑のほとんどが平坦で作業をしやすいこともあって、北部地区の総生産量の60%以上を作り出しています。
石灰岩の地質にローヌ川沿いのテロワールと条件は悪くありませんが、中央付近にあるエルミタージュに比べてやや品質が劣るとされています。

サン・ジョゼフ(Saint Joseph)

 ローヌ川右岸の、クローズ・エルミタージュの対岸に位置する区画です。
23の村を含み、北部地区ではクローズ・エルミタージュに次いで2番目の面積を持ちます。
AOCとしてはクローズ・エルミタージュとほぼ同じ条件なのでワインタイプも良く似ています。
こちらの方が一段格が下がるとされていますが、生産者を選べば勝るとも劣らないワインに出会えることもあるようです。

コルナス(Cornas)

 ローヌ川右岸の南方、最南部に位置するサン・ペレーのすぐ上の地域です。
セプタントリオナル地区で唯一、シラー100%という条件を持つAOCでもあります。
「焼けた大地」という意味を持つ名の通り、強い日差しが突き刺さる斜面で育ったシラーは非常にパワフルで、タンニンが丸くなってくるまで10年近い熟成を要するワインを産出しています。

サン・ペレー(Saint Peray)

 ローヌ川沿いの北部地区の中で、もっとも南側に位置する地域です。
白だけを造っており、このAOCで生産されるワインの1/3、地域の総生産量で見ると7割以上がムスー、つまりスパークリングワインです。
シャンパーニュ(トラディッショナル)方式で造られるこのムスーは古くから評価が高く、フランスのみならず周辺国の王族や貴族にも愛されてきました。
使用される品種は、ローヌ地方の伝統的な白ブドウ品種であるマルサンヌとルーサンヌです。

クレレット・ド・ディ(Clairette de Die)

 北部地区で唯一ローヌ川沿岸を離れ、支流のドローム川中流域に位置する地域です。
山岳地になるため、他の北部地区の地域よりも冷涼な気候を有しています。
クレレットを100%使用してシャンパーニュ(トラディッショナル)方式で造る「クレレット・ド・ディ(Clairette de Die)」、クレレットにミュスカとアリゴテをブレンドし、同じくシャンパーニュ方式で造り12ヶ月以上の熟成を行う「クレマン・ド・ディ(Clemant de Die)」、酵母や糖の追加をせずにいわゆる「先祖伝来方式」を守って、ミュスカ主体で造られる「クレレット・ド・ディ・メトド・ディオワーズ・アンセストラル(Clairette de Die Methode Dioise Ancestrale)」の3種類の異なるスパークリングワインで有名です。
また、スティルワインもわずかにあり、クレレット100%でごく少量だけ造られる白ワイン「コトー・ド・ディ(Coteaux de Die)」と、アリゴテとシャルドネの白、そしてガメの赤とロゼを産出している「シャティヨン・アン・ディオワ(Chatillon en Diois)」の2つのAOCが認定されています。
こちらは生産量の少なさもあってあまり知られていませんが、早飲み系のすっきりした良質ワインとされています。