ワイン対ビール 他の飲み物との比較その1
ビールとは
ビールとは、大麦など麦類の麦芽を原料とする醸造酒です。
西暦前4000年頃、メソポタミア流域の文明群で発明されたと考えられており、西暦前3000年頃にはエジプトでも盛んに醸造されていました。
ワインと共にヨーロッパ全域に伝わり各国で飲まれていましたが、ワインとは異なり低価値で気軽な一般市民の酒として扱われる期間が長かったようです。
現在では原料となる大麦の栽培に適した地が、ブドウや米などに比べて多いことから醸造地も増え、世界中で愛される醸造酒となっています。
製造法によってエールとラガーの二種類に大別され、原料、副原料の違いや細かな造り方の差によって、数え切れないほど多くの種類が存在しています。
ビールの醸造方法との比較
ホップの「毬花」。中の黄色い樹脂が、ビールに苦味と香り、防腐効果を付与する。
ビールの原料となる大麦は、そのままでは糖分を含まないためアルコール発酵をさせることができません。
ただ、日本酒の原料となる米と違い、麦には発芽時に自身のでんぷんを糖に分解する酵素が備わっています。
そこでまず水に浸けて発芽させた麦、いわゆる麦芽を作り、それを原料としてアルコール発酵へと工程を進めるのです。
また、ワインの場合はマルサラワインなどの一部の例外を除いて副原料としてハーブなどを入れることはありませんが、ビールの場合は苦味や香りをつけ保存性を高めるために、様々な副原料を使用するのが一般的です。
もっとも重要なものは「ホップ」と呼ばれるハーブで、現在ではほぼ全てのビールに使用されます。
麦芽はすぐに乾燥・粉砕され、お湯で煮て糖化と溶出が行われますが、ホップなどの副原料もここで一緒に煮出すことが多いようです。
この煮出した「麦汁」に酵母を添加して発酵をスタートしますが、発酵期間は常温(18~24度前後)で進める「エール」で3~4日、低温(6~12度前後)で進める「ラガー」で1週間ほどと、ワインに比べてかなり短くなっています。
それでも、糖分は発酵終了時点ではほとんど甘さを感じないほどまで消費され、しっかりアルコールと二酸化炭素に変化しています。
ビールの場合は、ワインとは異なりこの発酵時に発生する炭酸ガスを残したまま製品になるため、発酵中(一部は発酵終了直前)から密閉された状態で作業が進められます。
ビールもワインと同じように発酵後の熟成が行われますが、この期間もワインよりかなり短めで、一般的に1~2ヶ月程度とされています。
不要な発酵が起こらないように60度程度に温める「火入れ」を行うか、浸透膜などを使用して酵母を濾しとってから(生ビール)、瓶や缶、タンクなどに詰められて出荷されます。
ビールの製造量との比較
ビールの世界全体での生産量は、19092万キロリットルです。
(2016年統計)
これはワインの約7倍、日本酒の約350倍というすさまじい量で、乳幼児も含めた世界人口を70億人としても一人当たり約27リットルの割り当てとなります。
これは、ビールの需要もさることながら、原料となる大麦(一部では小麦)の栽培のしやすさも関係しています。
大麦はムギのなかでも乾燥や寒さに強く、他の穀物の栽培が難しいような地域でも育てることが可能です。
これに対して、ブドウは雨の少なさや日照の多さ、昼夜の寒暖差、冬の冷え込み、土壌の性質など栽培に関する条件が多く、おいしいワインを造るための原料を得るのであればさらに範囲は狭まります。
実際、ワインは今でもヨーロッパを中心とした限られた地域が主な産地となっていますが、ビールはアジア各国や南北アメリカ大陸、アフリカ大陸など、様々な国や地域で造られています。
また、小麦やライ麦のようにパンや麺類にすることもできず、米に比べてそのまま食用にしてもあまりおいしくないため、飼料以外の用途的な競合がないのも理由のひとつといえるかもしれません。
国別の生産量ランキングでは、1位は意外にも中国(4141.7万キロリットル)、2位はアメリカ(2213.5万キロリットル)3位ブラジル(1333.5万キロリットル)、4位メキシコ(1050万キロリットル)、5位ドイツ(949.6万キロリットル)となっています。
5位までで、世界全体の生産量の50%以上を生産している計算になります。
ちなみに、6位ロシア(781万キロリットル)をはさんで7位は日本(535.2万キロリットル)。
発泡酒やいわゆる「第三のビール(新ジャンル)」を含んでの結果ですが、アルコール離れ、ビール離れが叫ばれている割りには、日本人がまだまだビール好きであることが表れた順位であるといえそうです。
ビールの消費量との比較
生産量以上にその国のビールに対する愛が表れるのが消費量です。
国別総消費量を見てみると3位までは生産量と同じランキングとなっており、1位中国(4326.6万キロリットル)、2位アメリカ(2424.5万キロリットル)3位ブラジル(928.3万キロリットル)、4~6位はちょっと入れ替わって4位ロシア(863.3万キロリットル)5位ドイツ(845万キロリットル)6位メキシコ(737.1万キロリットル)、そして生産量と同順7位が日本(538万キロリットル)となっています。
ブラジルやメキシコなどは、生産量よりも消費量のほうがかなり小さく、大量に生産している国のなかでも自国消費がメインとなっている国と輸出用の産業として発達している国に分かれているのがわかります。
ただワインの場合、生産上位に入っているイタリアやフランスの消費量が生産量に対して約半分になっており、ビールよりもよりはっきりと輸出品目として扱われているのが分かります。
ビールは比較的世界中で造ることができ一般の人々の日常用の酒であるのに対して、ワインが限定された地域でしか造れない特別な価値を持つ酒である、という性格の違いがよく表れているといえるでしょう。
ちなみに、一人当たりの消費量となるとこれとはまったく異なる内容で、1位はチェコ(142.4リットル)、2位はアフリカ大陸の東側に浮かぶ島国セーシェル(114.6リットル)、3位ドイツ(104.7リットル)、4位オーストリア(104.7リットル)、5位はアフリカ大陸南部の国ナミビア(102.7リットル)です。
セーシェルは1970年代までイギリス統治下にあり、現在はイギリス連邦の加盟国となっている国です。
イギリス本国は27位ですが、パブに代表されるイギリスのビール文化を強く受け継いでいるのかもしれません。
チェコの一人当たりビール消費量は日本の約3.5倍。
(日本の順位は55位(42.3リットル)です)
日本でもビールがそれなりに飲まれていることを考えるとなかなか大きな差に思えますが、ワインの場合は1位の国と日本の一人当たり消費量の差は25倍以上ありますので、それに比べるとまだ差は小さいと言えるかもしれません。
ビールの成分との比較
ビールはスティルワインに比べて平均的にアルコール度数が低く、その分水分率が高くなっています。
ワインの水分率は約8割ほどですが、ビールの場合は9割を超えています。
しかし、果汁の形で果実に自然に含まれる水分を絞って利用するワインと違い、原料を細かく粉砕したあとで副原料と共に煮出すという工程のあるビールは、ワインよりも固形成分の含有量が多いため、内容が薄いというわけではありません。
ビールに多く含まれる成分としては、ナイアシンやビタミンB6、B12などのビタミン類、マグネシウム、カリウム、リン、ヨウ素などのミネラル、そしてワインの2倍ほどの糖分などがあげられます。
含有する成分の種類についてはワイン(特に赤ワイン)の方が多いのですが、ひとつひとつの成分の量はビールに軍配が上がるようです。
糖類はアルコール発酵期間が短いタイプのビールほど多く残る傾向があり、麦芽になった時点での焙煎や副原料との煮出し工程などで加熱されカラメル化することで褐色に変化します。
これが、あのビールの独特の色や香ばしさの元となります。
糖類が多いにもかかわらずカロリーはビールの方が少なく、ワイン100mlあたり平均75 kcal前後に対して、ビールは100mlあたり平均40kcal前後となっています。
これはアルコールの含有量がワインの半分以下であるためで、飲量を調整してアルコール摂取量を同量にそろえると逆にビールの方がカロリーが高くなってしまいます。
(実際、ビールもワインも同量飲む、という方は少ないでしょう)
低アルコールで比較的飲みやすいビールは、酔いが回る前に大量に飲んでしまいがちですので、ダイエット中はワインのほうがいいかもしれませんね。
健康面で言うと、ビールは痛風の原因となるプリン体の含有量が多いと思われがちですが、実際にはレバーやにぼしなどの食品に比べると100分の1程度でしかなく、あまり気にする必要はないとされています。
ちなみに、ワインに含有されるプリン体の量は、ビールのさらに10分の1です。
ただ、アルコール飲料自体が過剰摂取を続けることで痛風の原因となるため、ビールでもワインでも、飲みすぎは禁物です。
ビールの価格帯との比較
ビールはもともとワインに比べて日常的な、安価に楽しめるアルコールとして親しまれてきました。
古代エジプトではピラミッド建設の日当の一部として支給されていましたし、ヨーロッパに渡ってからも上質なワインが行き渡らない人々用のアルコールとして浸透していきます。
これは、ビールはワインと違ってキリスト教での教義的な役割を持っていなかったこと、大麦がブドウと違って栽培しやすく一般的な穀物であったことなどが原因として考えられます。
現在でもこの位置関係はあまり変わっておらず、高価なものであればボトル一本で数十万から数百万円のものも珍しくないワインに比べ、ビールは同量でも数百円から数千円で購入できます。
チャリティの出品用だったり南極の氷を溶かした水で仕込んだりといった、いわゆる色物系の商品でさえ10万円前後ですので、ワインとは比べ物にもなりません。
この点から見ても、ワインの価値はその長い歴史の中で培われてきた部分が大きいことが分かるでしょう。
ビールの賞味期限との比較
ビールはアルコール度数が低く、ポリフェノールもワインに比べて少量しか含んでいないため、長期間の保管の難しい酒とされています。
日本の一般的なビールの場合、賞味期限は9ヶ月程度に設定されているものが多いようです。
健康を害さないための期限である「消費期限」ではありませんので、多少オーバーしていても飲めないことはありませんが、味わいや香りが劣化していってしまいますので、遅くとも製造から1年以内には飲みきったほうが良いとされています。
ただ、例外的にアルコール度数や糖度を高めた「バーレーワイン(大麦ワイン)」のような製品もあり、ものによっては数年の熟成が可能なケースもあるようです。
この「長期間の保管ができない=資産としての価値はない」という点も、ワインとビールの価格差に影響を与えているのは間違いないでしょう。
ビールとの比較 まとめ
ビールはメソポタミア文明で生まれ、ワインと同じようなルートで拡散・発展してきましたが、文化的・宗教的な地位がワインよりも低かったことなどから、現在でも日常的なお酒として親しまれています。
最初から糖分を持っていない大麦を発酵させるため、発芽による糖化という工程を経ねばなりませんが、原料の栽培のしやすさや栄養素の高さなどから世界中で造られるようになっており、現在ではワインの7倍もの製造量を誇る世界最大の醸造酒となっています。
副原料の使用が認められていることや、各国で独自の製法が発達していることなどから、味やスタイルは数え切れないほど無数にあり、文化に根ざした進化を今も続けています。