バーデン ドイツのワイン産地6
位置
バーデンはドイツでもっとも南に位置するアンバウゲビート(Anbaugebiete)です。
産地は大きく二つに分かれており、ライン川の右岸に沿って細長く南北に伸びる部分と、スイスとの国境沿いに東西に張り付くようにして存在する部分とで構成されます。
北部ではファルツ(Pfalz)やフランケン(Franken)、ヘシッシェ・ベルクシュトラーセ(Hessische Bergstraße)、ヴュルテンベルク(Württemberg)と接し、南部は東端がヴュルテンベルクの飛び地に近接します。
テロワール
主要産地の中で一番南側に位置するため、ドイツでもっとも温暖な気候に恵まれた地域です。
特に、ライン川沿いの平野で両側を森に挟まれた区域では、ヴォージュ山地とジュラ山地の間のいわゆる「ブルゴーニュの門」と呼ばれる地域から暖かい空気が流れ込んでくるため、さらに平均気温が上がります。
そのため、バーデンはEUの定める気候区分のうち、ドイツで唯一「Bゾーン」に分類されている地域となっています。
これはフランスのアルザス地方やサヴォワ地方と同じ気候帯で、ドイツの他の地域に比べてブドウの熟成を進めるのに有利な条件を持つことを示します。
東西南北に大きく広がる産地であるため、地質も一様ではなく様々な特徴を持っています。
主なものだけでも、ムッシェルカルク(Muschelkalk)と呼ばれる貝殻を主成分とする石灰岩、砂利や礫質、粘土、泥岩、火山岩や火山灰、黄土層などがあり、メインの土壌や地層の割合の変化などによってブドウの質も大きく変わってきます。
ワイン造り
ラインヘッセン(Rheinhessen)、ファルツに次いでドイツで3番目に広い栽培面積を持ちます。
栽培面積は15815ヘクタール(約158.2平方キロメートル)、ワイン生産量は約11.7万キロリットルです。
ベライヒ(Bereich)は13のアンバウゲビートの中で最も多い9つで、グロースラーゲ(Groslage)は16、アインツェルラーゲ(Einzellage)は306となっています。
主なブドウ品種は、白ブドウはミュラー・トゥルガウ(Muller Thurgau)、黒ブドウはシュペートブルグンダー(Spätburgunder、=ピノ・ノワール)。
そのほか、グラウブルグンダー(Grauburgunder=ピノ・グリ)、ヴァイスブルグンダー(Weißburgunder=ピノ・ブラン)、リースリング(Riesling)、グートエーデル(Gutedel)なども栽培されています。
かつては圧倒的にミュラー・トゥルガウが多く栽培されていましたが、近年の赤ワイン転向でシュペートブルグンダーの栽培面積が急速に増えてきており、2018年現在ではドイツで最大の産地となっています。
赤ワイン比率もそれに応じて高く、赤ワイン:白ワインの比率は、約43:57です。
第二次世界大戦後に、ドイツ国内で最も早く近代化に成功した地域のひとつで、協同組合のワインが多いのが特徴とされていました。
しかし近年、小規模な生産者でも高評価を得るところが増えてきているようです。
ベライヒ(Bereich)
ボーデンゼー(Bodensee)
バーデンの生産地のうち、飛び地になっている部分です。
ボーデン湖の北岸と、そこから西に流れ出すライン川沿いに転々と畑が作られています。
東側にはヴュルテンベルクの飛び地であるベライヒ、バイエリッシャー・ボーデンゼー(Bayerischer Bodensee)とヴュルテムベルギッシャー・ボーデンゼー(Württembergischer Bodensee)があります。
川や湖に面した南側の斜面は日当たりが良く日照をかせげるため、標高450m付近まで畑が作られています。
氷河が削っていった岩石が堆積したモーレンと呼ばれる土壌も、斜面と合わせて水はけを良くしてくれるだけでなく、日光を吸収して夜間に熱を放出することで温度が下がるのを防止します。
ミュラー・トゥルガウはもちろん、シュペートブルグンダーも多く栽培されていますが、これは赤ワインよりも「ヴァイスヘルプスト(Weissherbst)」と呼ばれるロゼワインの原料となります。
マークグレーフラーラント(Markgräflerland)
南北に伸びるバーデンの産地のうち、もっとも南側に位置する地区です。
南でスイス、西でフランスと国境を接しています。
8世紀からワイン造りが行われていたといわれており、栽培されている品種も古い歴史を持つグートエーデルが大きな割合を占めるようです。
石灰質の砂質、泥炭質の土壌を持ち、酸味の少ないミネラル感たっぷりの白ワインで知られています。
東側のボーデンゼーと異なり、赤やロゼワインはあまり造られていません。
カイザーシュトウール(Kaiserstuhl)
ライン川沿い、南寄りの地区です。
「ブルゴーニュの門」から吹き込む地中海性気候の暖かい空気の恩恵を受けている地域のひとつで、温暖なバーデンのなかでも特に暖かい地域となっています。
火成岩や火山灰を多く含む風化土壌で、斜面を利用した畑が広がっています。
土壌から豊富に供給されるミネラルはもちろん、温暖な環境によって熟成の進んだブドウ果汁がどっしりとしたボディとアルコール度数、果実味を味わえるワインを生産しています。
赤、白ワイン共に有名な銘柄も多く、人気の産地のひとつとなっています。
トゥーニベルク(Tuniberg)
ライン川沿いの南寄りの地域です。
カイザーシュトウールに近接しており、温暖な気候や斜面を利用したブドウ畑など共通点も多く、2つの地域を区別せずに同一に扱うこともあります。
ただし、土壌はカイザーシュトウールの火山岩質のものとは異なり、黄土層が主体となっています。
地質的には粘土質で、黒ブドウにしっかりとしたタンニンを与えてくれます。
バリック(Barrique)を使用した熟成も行われており、この地区の赤ワインはバーデンのなかでも高い評価を得ていることで有名です。
品質だけでなく生産量の多さでも上位にあり、カイザーシュトウールとトゥーニベルクだけでバーデンのワイン生産量の1/3以上を占める年もあるため、近年のバーデンの赤ワイン比率が上がっている主要因ともいえるでしょう。
ブライスガウ(Breisgau)
ライン川沿いの中央付近よりやや南寄り、南のフライブルクから北のラール付近までの地区です。
温暖なバーデンの中でも、特に夏の暑さが厳しいことで知られており、2003年にはフライブルク付近で40度を超える気温を観測したほどです。
土壌は石灰質の多い黄土、及び片麻岩の風化土壌が多く見られます。
ルーレンダー(グラウブルグンダーと同一だが、甘口に仕上げるときの呼び方)とシュペートブルグンダーを使用し、発酵前に果汁を混合するという独特の手法で造られるロゼワイン、バーディッシュ・ロートゴールド(Badisch Rotgold)の産地として知られています。
オルテナウ(Ortenau)
ライン川の右岸、バーデンの地域の中でちょうど中心付近に位置する地区です。
ライン川を挟んでフランスのストラスブールと隣り合わせの地域で、近隣の地域と同じく温暖な気候に恵まれています。
土壌は黄土、花崗岩、片麻岩などの風化土壌で、南向きの斜面を畑として利用しています。
降水量は少し多めの地域ですが、土壌の水はけの良さがバランスを取ってくれているとされています。
リースリングを使用したフレッシュな白ワインがメインで、他にバラエティ豊かな赤ワインも造られます。
ドイツの単独畑(アインツェルラーゲ)は面白い名前がついているものが多いのですが、オルテナウの有名な畑のひとつに「アッフェンターラー(Affentaler=サルの谷)」があり、その名にちなんで金色のサルがしがみついているユニークなデザインのボトルを採用していることで有名です。
他にも、昔フランケンの領主が統治していた期間があることから、例外的にボックスボイテル(Boxboitel)を使用している畑もあるなど、ボトルに特徴のある地区となっています。
バーディッシェ・ベルクシュトラーセ(Badische Bergstrasse)
バーデンのベライヒのうち、ライン川沿いのもっとも北側に位置する地区です。
ライン川を挟んで対岸はファルツ、ネッカー川を挟んだ南にクライヒガウがあります。
砂礫や粘土、黄土の土壌で、貝殻石灰質も多く含まれます。
ライン川沿いとはいえ、他のバーデンのベライヒよりも北部に位置するためか、酸味のくっきりとした軽めの赤ワインで知られています。
ハイデルベルク城の約23万リットルという大容量で有名な大樽など、多くの観光スポットを持つ観光地としても親しまれている地域です。
クライヒガウ(Kraichgau)
ライン川と、その支流のネッカー川が合流する付近の地区です。
ライン川を挟んで対岸にファルツ、ネッカー川を挟んで対岸にバーディッシェ・ベルクシュトラーセがあります。
かつてはバーディッシェ・ベルクシュトラーセと合わせてひとつのベライヒとして扱われていましたが、1996年に二つに分けられました。
砂礫や粘土、黄土の土壌で、貝殻石灰質も多く含まれます。
バーディッシェ・ベルクシュトラーセと同じように酸味の特徴的なワインで知られていますが、それよりもややマイルドでバランスの良いタイプが多いようです。
伝統的にボトルのブドウ品種表示は、メジャーな名称よりもマイナーなシノニムが使用されることが多く、一見何を使用しているか分かりにくいという特徴があります。
(実際には他の地域と同じく、シュペートブルグンダーやリースリング、ルーレンダーなどがメイン品種です)
タウバーフランケン(Tauberfranken)
バーデンのベライヒのうち、北側に飛び地のようになっている地区で、マイン川の支流、タウバー川沿いにあります。
その名からも分かるようにかつてはフランケンに属していましたが、1803年にバーデンに編入されました。
ライン川から大きく離れ、フランケンに近接しているため、大陸性の厳しい気候帯に属しており、降水量もかなり少ない地域です。
石灰岩の土壌を持ち、ミネラル豊富な白ワインやスパークリングワインも有名。
QmP以上のワインについては、フランケンと同じようにボックスボイテルを使用することが許可されている地域のひとつでもあります。