フォーティファイドワインの醸造方法 ブドウ果汁が酒精強化ワインになるまで
基本的な製法(蒸留酒を発酵中に加える)(ポートワイン、マディラワイン、ヴァン・ド・ナチュール、マルサラワイン)
醸造の途中で蒸留アルコールを加えるフォーティファイドワインは、主に産地や製法によって名称が規定されています。
厳密に言えばどれも違った作り方をするのですが、大きな分類として「蒸留アルコールを加えるタイミング」でグループわけをすることができます。
もっともポピュラーなのは、発酵途中でアルコールを加える方法です。
破砕、圧搾
フォーティファイドワインはスティルワインと同様、黒ブドウ、白ブドウのどちらも原料として使用します。
黒ブドウの場合は果梗(かこう)を取り除いたあとで果粒を破砕し、流れ出た果汁と果皮や果肉などの固形部分(マール)を一緒にした状態で発酵工程へ進みます。
白ブドウは発酵に入る前に圧搾し、固形部分をすぐに取り除いて果汁だけを使用します。
現代では基本的に機械を使用して破砕、圧搾を行いますが、ポートワインやマディラワインの中でも高級な製品は、今でも人の手(と足)で作業を行うものもあるようです。
アルコール発酵
通常のワイン醸造と同じように、すぐに精製した酵母を加えてアルコール発酵をはじめます。
赤ワインの場合は25度前後、白ワインの場合は15度前後に保った状態で進めますが、1~2週間かけて完全に発酵を進めてしまうスティルワインと違って、まだ発酵途中の3~4日程度でこの工程を終了します。
この際、アルコール度数ではなく糖度をチェックし、最終的に目標とする糖度より少し高い時点で次の工程へ進みます(蒸留アルコールで液体量が増え、相対的に糖度が下がるため)。
蒸留アルコール添加
必要な状態まで発酵が進んだら、蒸留アルコールを加えます。
これは基本的にブドウを原料としたアルコールで、一般に熟成を経ていない無色透明なものを使用します。
ブドウを原料とした醸造酒を蒸留するのですから、この添加されるアルコールは製法的にはブランデーと呼べるものですが、アルコール度数が60~80度以上と非常に高いことや、使用される品種がブランデー用のものでないことなどから、そのまま飲んでも味や香りはあまりよくありません。
アルコールを添加するのは香味の追加のためではなく、アルコール発酵を止めるのが目的です。
発酵を行う酵母は、糖を代謝してアルコールと二酸化炭素を作り出しますが、他の菌と同じように高濃度のアルコールが含まれる環境で生きることができません。
そのため、蒸留アルコールが添加されて一気に20度近くまでアルコール度数が上昇すると、まだ糖分がふんだんに残っていてもそれ以上発酵を続けることができなくなってしまうのです。
どのタイミングでアルコールを添加するかは、残留糖度をどれくらいにするかによって変わり、甘口なら発酵が始まってすぐに、辛口なら発酵終了間際になります。
(一般的には甘口が多いようです)
赤ワインの場合は、アルコールが十分にある状態でなければ溶出してこないタンニンなどポリフェノールをワインに移すために、固形部分と一緒にした状態でしばらく仮熟成を行います。
マルサラワインでは、同時に他の副原料を溶かしたワインなども添加され、独特の味や香りを移します。
熟成
赤ワインは固形部分と分離したあと、白ワインは軽く休ませてすぐに熟成期間に入ります。
フォーティファイドワインの熟成は、製品によっても異なりますが基本的にスティルワインよりもかなり長く、短くとも2~3年、長いものでは数十年に及ぶものもあります。
熟成のさせ方や期間によって味わいが大きく変わってくるため、熟成を終える期間や手法などをワイン法でかなり細かく規定されているものも少なくありません。
マディラワインのように、スティルワインではありえないような高温環境に置き続けて、独特の熟成を促すものさえあります。
長い時間をかけてゆっくりと熟成させることで、高いアルコール度数と糖度を持つにもかかわらず、まろやかな口当たりを獲得していくのです。
滓引き
必要に応じて滓引きを行います。
赤ワインを主体とするものや樽熟成が長いものは滓が多く発生しますが、白ワインからつくったものや樽での熟成期間が短かったものはこの工程を飛ばします。
調合
一部のフォーティファイドワインは、他の樽と混ぜ合わせて風味の調整を行います。
特にトウニータイプのポートワインなどは、収穫年の違うものも熟成期間が近ければ原酒として使用して、できる限り望ましい味わいに近づけます。
清澄、濾過
この工程も製品によって行うかどうかが変わります。
例えばポートワインの場合は、タイプ別に製法が厳格に定められており、清澄・濾過もルビータイプでは行わず、それ以外のタイプでは施すことになっています。
赤ワインが原料となる場合は卵白やゼラチンなど動物性たんぱく質を含むもの、白ワインが原料となる場合は卵白や牛乳から抽出されるカゼイン、ベントナイトと呼ばれる粘土などが使用されることが多いようです。
完璧を求めてやりすぎてしまうと、本来必要な色や香りまで濾しとってしまうことになりかねないため、慎重な判断が求められる工程といえます。
瓶詰め
全ての工程が終了したら、瓶詰め・打栓が行われます。
そのまま出荷されるものもありますが、多くのフォーティファイドワインは瓶詰め後も長期間熟成させることができるため、セラーでさらに寝かされるものも少なくありません。
ルビータイプのポートワインなど、瓶熟成の最低期間が規定されているものもあります。
蒸留酒を果汁に加える(ヴァン・ド・リキュール)
フォーティファイドワインの中でも、特に異色を放つのがこのヴァン・ド・リキュールです。
他のワインはどれも、少なくともブドウ果汁を発酵させて味や香り、そしてアルコールを得ますが、ヴァン・ド・リキュールはその発酵工程そのものを飛ばしてしまいます。
そのため、厳密にはブドウ果汁を使用したリキュール、もしくはカクテルではないかと指摘されることも少なくありません。
(実際、日本ではワインを含む果実酒を「果実を原料として発酵させたもの」と定義しており、この用件から外れるヴァン・ド・リキュールは酒税法上、ワインではなくリキュール類として分類されます)
しかし、ヨーロッパではワイン法の制定よりずっと前から造られてきた酒だということもあり、伝統的にフォーティファイドワインの一種として扱われているようです。
圧搾
アルコール発酵を行わないヴァン・ド・リキュールの場合、使用するブドウ果汁は基本的に白ワインと同じようにすぐに圧搾して固形部分(マール)と分離したものです。
主に果皮や種子に含まれる、赤ワインの色の元となるアントシアニンや渋味とボディの基礎を作るタンニンなどのポリフェノールは、果汁に十分なアルコールが含まれていないとほとんど溶出してこないため、ヴァン・ド・リキュールでは利用できません。
製法によっては、この果汁をさらに煮詰めて濃縮し、糖度を上げた状態で使用することもあるようです。
蒸留アルコールの添加
アルコール発酵をさせずに、ブドウ果汁に直接蒸留酒を添加します。
他のフォーティファイドワインでは、お酒というよりも純粋なアルコールに近いくらいのものを使用しますが、ヴァン・ド・リキュールの場合は産地や原料がAOCで規定されたブランデーを使用します。
発酵を経ていないブドウ果汁を使用するので、この添加する蒸留酒が最終的な香りや味わいに直結するからです。
ヴァン・ド・リキュール自体も添加するブランデーの種類によって呼び分けられ、分類としてはコニャックを添加するシャラント地方の「ピノー」、アルマニャックを添加するガスコーニュ地方の「フロック」、マールを添加するジュラ地方の「マックヴァン」などがあります。
この工程によって、淡い黄緑や金色だった水色に琥珀色が混ざり、明るいオレンジからピンクゴールドのような色合いになります。
熟成
すぐに瓶詰め工程に移るものもありますが、基本的にはアルコールと果汁がしっかり馴染むまで樽熟成を行います。
ただし、熟成期間は長くても2、3年程度。
ブドウ果汁の持つフレッシュさを生かすため、果実味が残るうちに完成とします。
瓶詰め
製品によっては火入れや亜硫酸塩の添加などを行い、瓶詰めします。
果汁を濃縮したり良質なブランデーを使用した高級なものは、ここからさらに瓶内熟成を狙って寝かせるケースもあるようです。
蒸留酒を熟成中に加える(シェリー)
「酵母の活動を抑えてアルコール発酵を中断する」という前提に当てはまらないフォーティファイドワインが辛口のシェリーです。
(極甘口は他と同じように発酵途中で蒸留酒を加えます)
辛口シェリーでもアルコール添加の理由は酵母の活動停止ですが、その種類が違っているのです。
圧搾
シェリーに使用されるブドウは全て白ブドウ品種で、圧倒的にシェアの多い「パロミノ(Palomino)」、極甘口用の「ペドロ・ヒメネス(Pedro Ximénez)」、同じく甘口用でレーズンにも使用される「モスカテル(Moscatel)」のいずれかになります。
ペドロ・ヒメネスの場合は収穫後に陰干しして果汁を濃縮するケースもありますが、いずれにしても白ワインと同様、すぐに圧搾して果汁と固形部分(マール)を分離します。
アルコール発酵
通常の白ワインと同じように、酵母を添加してやや低温でアルコール発酵を始めます。
ポートワインなど一般的なフォーティファイドワインの場合は、この工程は3~4日程度ですが、辛口のシェリーの場合はスティルワインと同じく1~2週間。
果汁由来の糖分がしっかりアルコールに変わるまで発酵を進めます。
(極甘口の場合は1週間前後のものが多いようです)
ワインのアルコール度数が10%を越え、酵母の働きが鈍くなったら次の工程へ移ります。
熟成
ワインを樽に移して熟成を開始しますが、ここでもっとも重要なのが「産膜酵母」の活動です。
通常、スティルワインを樽熟成する場合は、樽一杯にワインを入れて隙間をなくし、栓をつめて密閉します。
これは過剰な酸化を防止する他に、アルコール環境でも活動できる好気性菌の繁殖を防ぐ目的がありますが、シェリーの場合はあえて樽の7~8分目くらいまでしかワインを入れず、しかも開放状態にすることで酸素と触れ合える状態にし、産膜酵母と呼ばれるサッカロミセス属の酵母を呼び込みます。
この酵母が発生すると、空気に触れているワイン液面に「フロール」と呼ばれる膜があらわれ、酸化を防止すると同時に独特のコクや香りをワインに与えてくれるのです。
この「フロール」こそが、シェリー造りの最大の特徴といえます。
菌類の活動なので、時には完璧な条件なのに膜ができなかったり途中で消えたりとコントロールが難しい工程ですが、うまく産膜酵母の活動が始まったら、そのまま数週間二次発酵を続け、十分に香りを引き出します。
蒸留アルコール添加
二次発酵が進んだら、頃合を見てようやく蒸留アルコールを添加する工程に入ります。
この時、どれくらいまでアルコール度数を高めるかによって、どのタイプのシェリーになるかが変わってきます。
ポイントは「フロールの状態」です。
アルコール度数を15%程度に抑えると、蒸留アルコール添加後もフロールが残り、酸化していない白ワインに近い水色を保った「フィノ」と呼ばれるシェリーになります。
一方、アルコール度数がちょっと高めの17%前後になるまで添加すると、産膜酵母の活動が抑えられてフロールが消滅し、酸化が始まります。
そのあとどれくらい熟成させるかにもよりますが、酸化が進んだシェリーはブランデーやウイスキーのように茶褐色の水色を獲得し、「オロロソ」と呼ばれるタイプになります。
その他、フィノのつもりでアルコール度数を抑えたのに、なんらかの理由でフロールが消えてしまった「アモンティリャード」や、フロールがうまく発生しなかったため途中でアルコール度数をもう一段階高めた「パロ・コルタド」など、フロールと酸化の状態でシェリーは様々なタイプに分類され、それぞれのタイプごとに熟成期間に入ります。
二次熟成
シェリーの熟成は、「ソレラシステム」という独特の方式で行われます。
これは積み上げた樽の一番下から出荷用の酒を注ぎ出し、減った分をひとつ上の樽から補充。
その樽も減った分をさらに上の樽から補充する、というシステムのことです。
樽を完全に空にしてしまうことがなく、前の酒にちょっと新しい酒を注ぎ足していくため、品質のばらつきが抑えられ熟成された酒の風味を維持することができるのです。
衛生上の問題から、他のワインの製造にソレラシステムを使用することは禁止されてしまったため、現代では伝統的にこの手法で作られてきたシェリーだけが利用できるシステムとなっています。
熟成期間は数年から数十年。
12年を超えて熟成した場合は、Vinos de Jeres con Indicacion de Edad(VJIE)などの文言をラベルに表示することが許可されます。
瓶詰め
熟成が終わったら、ソレラシステムの一番下の樽から注ぎ出されて瓶詰めされます。
辛口や極甘口の場合はそのままですが、それらをブレンドした「甘口」というカテゴリーもあり、これは最終的な甘さによって「ドライ」「ミディアム」「ペイル・クリーム」「クリーム」などに分類されます。