土壌  テロワールに含まれる条件その3

目次

他の植物と同様、ブドウの樹の栽培にとっても土壌の性質は非常に重要です。
特に地中深くまで根を伸ばすブドウにとっては、表土の下の地質も品質に大きく関わってきます。

ブドウの樹の栽培条件 土壌その1

 ブドウの樹は、基本的に水捌けの良い土地でよく育つとされています。
表土付近に常に十分な水分がある土地では、根が浅い部分で止まってしまい土中の栄養素を十分に集められませんし、場合によっては根腐れなどの問題に発展する場合もあります。
また、良質なブドウの育成には昼夜の寒暖差も必要ですので、表面に近い部分に蓄熱性の高すぎる岩石などがあっては困ります。
急な斜面に作られた畑の場合は、雨で流出して行ってしまうタイプの表土だと、強い雨のたびに根が露出してしまう可能性も。

 成分的には、野菜を育てる普通の畑のような栄養に富んだ土はかえって良くなく、一般的に「痩せた土地」と表現されるような地質が適しています。
表土付近に栄養素が十分にあると、水分のときと同じように根が浅い所で止まってしまいます。
しっかりと根を張っていない樹は環境の変化や夏の水分不足に対応しきれず、本来なら果汁の凝縮したブドウを実らせるような理想的な天候で逆にダメになってしまうことも。
人間と同じように、甘やかしすぎは禁物なのです。

表土と地層 土壌その2

 通常、未開拓の地面や農業用に整備された土壌は、表土と地層に分類できます。
表土とは、地面の表面を覆っている有機物由来の層です。
動物や植物の死骸が分解されたものと、岩石の混合物で形成されています。
岩石よりもやわらかく、雨や風などで容易に移動することから、特に斜面では層がかなり薄くなっているケースが少なくありません。
植物の育成に必要な栄養素を豊富に含むため、農業において重要な部分と言えます。
ただし、ブドウを育てるための土壌としては、表土よりもその下の地層の方が重要です。

 地層とは、表土の下の主に無機物由来の岩石などの層です。
その成り立ちから、「火成岩」「堆積岩」「変成岩」に分類されます。
一般的に有機物を多く含む表土より固く、栄養素も多くはありません。
しかし、表土からは吸収しづらいミネラルを含み、ブドウに複雑で繊細なニュアンスを与えてくれます。
また、土壌の水捌けにも深く関わっているため、ブドウの育成を左右する層と言っても過言ではないでしょう。

 地層は一種類の地質だけで形成されているわけではなく、異なる地質が何層も折り重なって形成されています。
各層とも厚みも密度も一定ではないため、ほんの100m離れただけでも厳密には特徴の違う土壌になります。
それぞれの地質の水捌けや固さ、含有するミネラルの組み合わせが、その土地に根ざすブドウの個性を育むのです。

地層の種類と特徴 土壌その3

火成岩 マグマが固まってできた微小要素の塊

 火成岩は、地表に噴出してきたマグマが冷え固まってできた岩石です。
含まれる鉄やマグネシウム、二酸化珪素などの分量と、どうやって地表に出てきたか、そして冷え固まるまでの経過によって、異なる名称と特徴を持つようになります。
日本でよく知られているのは「玄武岩」「安山岩」「花崗岩」など。
多孔質でもろいものから、非常に硬く密度の高いものまで特質も様々です。

 なかでも、火山灰が主体となる「凝灰岩」は、経過した時間の長さにもよりますが比較的もろく、水捌けのよさとミネラルの豊富さからブドウ畑に適した地質と言えます。
フランス、イタリア、ポルトガル、カリフォルニア、その他過去に火山が活動したことのあるあらゆる国と地域に見られます。
酸とスパイシーな香りを引き立たせ、赤ワインでは確かなスモーキーさも感じられるようになります。

 花崗岩もよく話題に上る地質のひとつと言えます。
鉄やマグネシウムが少なく、二酸化珪素を多く含み、ゆっくりと時間をかけて冷え固まるため結晶が大きくて非常に硬い性質を持ちます。
もちろん岩石として固まったままでは畑としては使えませんので、ブドウ畑の土壌として登場するのは、砕けて礫や砂状になったものが堆積した層です。
フランスのボージョレーやローヌ渓谷など、高級ワインを産出する有名産地の地質として知られています。
まろやかで力強いタンニンとエレガントで独特な香りを引き出してくれます。

堆積岩 水捌けを司る粒状の岩石

 堆積岩は、いろいろな種類の岩石や化石が砕け、長い時間をかけて堆積して形成された岩石です。
主体となる岩石のかけら(粒子)のサイズによって呼び分けられます。
粒子のサイズによる名称と、それぞれを主体とする堆積岩は以下の通りです。

2mm以上 礫(れき)(巨礫~細礫)

1/16mm以上2mm未満 砂(極粗粒砂~極細粒砂)

1/256mm以上1/16mm未満 シルト(粗粒シルト~極細粒シルト)

1/256mm未満 粘土

礫岩 礫を主体とする岩石

砂岩 砂を主体とする岩石

シルト岩 シルトを主体とする岩石

泥岩 粘土を主体とする岩石

また、生物の化石などを主体とする場合は、別の呼び方になることがあります。

石灰岩 石灰質の殻を持つサンゴなどを由来とする岩石

チャート 二酸化珪素(石英)の殻を持つ珪藻などを由来とする岩石

 基本的に岩石の粒子が粗くなるほど水捌けがよく、細かくなるほど水分を溜め込む性質を持つようになります(成分によって例外はあります) よって、礫岩や砂岩の混合であるいわゆる「砂利」質の土壌は、水捌けの面から見てブドウ畑に向いた地質であるといえます。
砂利質の土地は山の麓、かつて河が流れていた跡地や大きな川のほとりなどで見られます。
ただそれだけではミネラルなどを含まないため、火成岩や泥土などと混ざり合った状態か他の地層とのコンビネーションのある場所で利用されます。
水捌けの良さによってブドウの樹根の伸長を促し、他の地層や深層の水分を利用できる強い樹に育ててくれます。

 シルト岩や粘土質の土壌は、水捌けの面ではあまり好ましいとは言えませんが、しかしまったくなくてよいというわけでもありません。
上から下まで砂礫質の例えば砂丘などは、非常に水捌けは良いのですが、良すぎて水分を確保できず、ブドウの樹が育つことはできません。
根が深くもぐっていった先に、粘土質の保水層があるからこそ、乾き気味で降水量の少ない土地でも果汁たっぷりなブドウが実るのです。
粘土質の層が厚い場合、水分やミネラルが十分確保できるため、力強いタンニンを持った「重たい」ワインになります。
ただし、これはもちろん水分量が適切だった場合。
保水力の高い粘土層に多めの雨が流れ込んでしまうと、水っぽくて薄い果汁になるか、ひどくすると根腐れを起こしてしまいます。

 石灰岩質の土壌は、まるでワインのためのブドウ作りに合わせて設えたような特徴を持ちます。
基本的には水捌けがよいのですが、乾燥してくると逆に少量の水分を溜めこむ性質があるのです。
そのため、降水量の多い年でも少ない年でも安定して良質な収穫を得ることができ、通常と同じように過剰な水分環境では育たないものの、乾燥状態にも強くないタイプのピノ・ノワールやシャルドネなどの品種を育てるのに最適です。
世界でブドウ畑として利用されている土地の7%程度にしかならない貴重な地質なのですが、実はその半数以上がフランスにあるとされています。
育成に必要とされる適正な負荷を潜り抜けたブドウは、酸と甘さのバランスよい繊細な味わいと香りを身につけます。

変成岩 熱と圧力が作り出す結晶のバリエーション

 変成岩とは、他の岩石が熱や圧力によって変質してできる岩石です。
圧力のかかり方や熱の程度、時間、もととなる物質などによっていろいろな種類に分類されます。
代表的なものとしては、泥岩が元となり薄い板が積層したような状態になった「千枚岩」や石灰岩がマグマの熱によって結晶化した「大理石(結晶質石灰岩)」、いろいろな岩石が地殻移動などによって高い圧力を受けて方向性を持った結晶配列になった「片岩(結晶片岩)」などがあります。

 片岩質の地層はヨーロッパ各地の斜面に見られる特徴です。
いわゆる「石くれ」で割れると尖った石片になる片岩は、砂礫と同じように水捌けが良くブドウ栽培向きの(というより、他の作物の育ちにくい)地質です。
ポルトガルのポート地方やフランスのコート・デュ・ローヌ地方、ロワール地方の一部などが有名。
すっきりとした素直な味わいに仕上がりますが、それが行き過ぎて面白みのないワインとみなされていることも。
また、粘土質と組むことでどっしりとしたタンニンを楽しめる味わいにも変化することがあります。