ドイツのワイン造り 特徴、製法など
一度大きく衰退したワイン産業
ドイツは西暦前から続く長い歴史を持つワイン生産国ですが、15世紀ころから20世紀まで続いた長い混乱や戦争による産業の衰退を経験した地域でもあります。
ドイツの前身である神聖ローマ帝国は、半分独立国のような性質を持つ領邦をキリスト教のネットワークを利用してまとめあげる独特の支配体系を持っていましたが、15世紀に始まる宗教改革がカトリック教会の力を殺いだことで統治力が弱まってしまいました。
当時はワインの生産を主導していたのもキリスト教の修道院でしたので、その力が弱まったことは業界にとって大きな痛手となります。
また、カトリックとプロテスタントの陣営に分かれた領邦同士が対立したことや、その混乱が周辺国にまで飛び火したことで争いが拡大。
最終的にヨーロッパ全体を巻き込んだ30年戦争が起こり、神聖ローマ帝国は実質的な支配力をほぼ失うこととなりました。
この戦争によって人口が大きく減り、既存のブドウ畑の多くが破壊、もしくは放棄されてしまいます。
その後、ナポレオンの侵攻によってワイン造りに修道院が関わらなくなったことで技術や知識の断絶が起こったこともあり、ドイツのワイン造りはその伝統の多くを失うこととなってしまったのです。
それでもなんとか生き残った例外的な銘柄もあるものの、現在では比較的「新しい」ワイン造りが主流となっています。
しかし、それは必ずしも悪い面ばかりではありません。
栽培比率や生産タイプの急激な変動
ドイツのワイン生産者は確かに古くから続く伝統の一部を失いましたが、それは裏を返せば自由度の高いワイン造りができるということでもあります。
ヨーロッパの他のワイン生産国では「土着の品種」「伝統的な製法」「味わいの方向性」など厳しい条件が定められているところが多く、特に格付け上位の名称を使用する場合には、独創的な工夫の入る余地は基本的にありません。
しかし、ドイツの場合はそもそもその根拠となる伝統自体が失われているケースが多く、一部の例外を除いて使用品種や製法の厳しい条件がつくことがないのです。
そのため、現在でもテロワールに合った品種や醸造方法などの試行錯誤が行われており、世界的な需要の変化や嗜好の多様化にも対応していることから、近年でもブドウ品種ごとの栽培面積が大きく変動しています。
また、赤ワイン・白ワインや甘口・辛口の比率も変わっており、20世紀に定着した「ドイツワインといえば甘口の白ワイン」というイメージも、統計的にはすでに過去のものとなっています。
こうした柔軟性は通常新世界の生産地域で見られる特徴で、ヨーロッパの、それも2000年を超える歴史を持つ国としては異例の特徴であるといえるでしょう。
白ワイン・辛口ワインが主流
近年では品種や栽培方法、醸造手法の研究が進んだこと、そして世界的な需要の変化から赤ワインの生産も急激に伸びてはきていますが、それでもドイツワインの6割以上は白ワインです。
高緯度の産地が多く、基本的に寒冷な気候帯に属するドイツでは、黒ブドウよりも白ブドウの栽培に適した土地が多いのです。
ローマ帝国時代には、最初に黒ブドウが伝わったものの、イタリアなど低緯度地域に比べて栽培がうまくいかず、白ブドウに切り替えられていったといわれています。
特に白ブドウのリースリングの人気が非常に高く、ラインガウやモーゼルを中心にドイツ各地で生産されており、その栽培面積は世界全体の60%以上に達します。
また、寒冷な天候のため果汁の糖度を上げづらいドイツでは、古くは十分なアルコールを得るために糖を消費し尽くすまで発酵を進めるのが一般的だったため、近世以降は長らく甘口のワインのほうが積極的に生産されていました。
そのため、ドイツワインといえば甘口というイメージが広まっていますが、現在では世界的な嗜好の変化もあり、辛口の割合のほうが高くなっています。
収穫時点の糖度が品質の基準に
フランスのワインは、ボルドー地方ではシャトー(生産者)ごと、ブルゴーニュ地方では畑ごとの格付けが行われていますが、ドイツではこの基準が「ワインの原料となった果汁の糖度」となっています。
前述の通りドイツはブドウの糖度を高めにくい寒冷地であり、味わいや香り以前にしっかりとアルコール発酵が進むブドウを造る必要がありました。
また、19世紀にはフェルディナント・エクスレ(Ferdinand Oecsle)氏によって比重差を利用した糖度計が発明され、これが広く使用されるようになったことから糖度が品質の基準として一般的に認識されるようになったのです。
ただし、これは飽くまで「果汁の糖度」についての話で、発酵が終了した時点で消費されずにワインに含まれているいわゆる「残糖」ではありません。
そのため、格付けが上位のカテゴリーに含まれるワインでも、辛口や中辛口のワインも理論上は存在することになります。
とはいえ、プレディカーツヴァイン(Prädikatswein)の6ランクのうち、下位のカビネット(Kabinett)やシュペートレーゼ(Spatlese)くらいまではともかく、それより上となると通常の発酵方法で糖を消費し尽くすのは難しいため、イメージ通り甘口のものがほとんどのようです。