コルク栓ってどんなもの? 作り方から種類まで コルク栓のいろいろ

目次

 ワインの瓶をイメージするとき、栓はどんなものを考えますか?
ほとんどの方は、何も見なければ円柱状のコルク栓をイメージされるのではないでしょうか。
現在ではスクリューキャップや他の種類の栓も利用されていますが、ワインの栓といえばやはりコルクが最初に思い浮かびます。
実際、様々なタイプの容器や栓が普及しつつある現在でも、コルクにこだわる生産者がほとんどだといわれています。
それは単に伝統であるからとかそういうイメージがあるからというだけではなく、科学的にも根拠のあることなのです。
ここでは、ワインの重要な脇役であるコルク栓について解説いたします。

「コルク」とは何か

 コルクとは、「コルクガシ」という樫の木の一種の樹皮をはがし、加工したものです。
コルクガシの樹皮は一般的な木の皮に比べて分厚く、中に空気を含んだような弾力を持っています。
これを十分な厚みが出るまで8~10年程度成長させてから収穫し、いろいろな加工を施したものがいわゆる「コルク材」です。
元が樹脂ですので耐水性に優れ、柔らかさと弾力に富むため加工が容易なコルクは、人工的な軟質弾性素材であるスポンジやゴムが発明されるまで、様々な用途で使用される重要素材でした。
一時期は他の新素材やスクリューキャップなどの技術によって衰退していくものと思われていました。
しかし、コルクが性質的に非常に優秀であること、生産や加工の流れが確立しており安定して利用できること、さらにコルクガシの樹皮だけを利用する(コルクガシ自体は100年から200年もの間伐採されずに成長する)ことから資源の利用方法としても理想的だということもあり、現在でも一般的な素材として利用され続けています。

コルクの加工方法

 未加工の樹皮は「コルクバーク」と呼ばれ、表面は黒ずんで固く、でこぼことした不均一な形状をしています。
コルクバークは前の収穫から年数を重ねるほど厚みを増しますが、同時に表面の固い部分も厚くなり、かかる時間に比べて利用できる割合が非効率になっていくため、通常は8~10年ほどの間隔で収穫されます。
木本体に傷をつけないよう注意しながら縦に切込みを入れ、木から引き剥がすようにすると繋がった状態でぺろんと剥けるため、収穫直後のコルクバーグは木の形に丸まっています。
このコルクバークに熱を加えながら圧力をかけてやると、(完全ではありませんが)平らな状態になり、加工しやすくなります。
また、この工程によってコルク内部の密度が増し、小さな気泡のような空洞も潰すことができます。
こうして密になった板を必要なコルク栓の長さに細長く切り出し、切断面から円柱型の刃を押し込む専用の機械を使用してコルクの形に抜いていきます。

 板状のものから円柱を抜き出すため、コルクバークにはどうしても利用しきれないあまりの部分ができます。
これはもちろん捨てたりせず、細かく粉砕して色や粒度によって仕分けされ、少量の接着剤と一緒に押し固められてブロック状の材料に再利用されます。
ここから板状に切り分けて円柱状に抜き、そのあまりは再度粉砕してブロック状に固め直し・・・というように、コルクは無駄な端材をほとんど出すことなく効率的に利用することが可能なのです。
(ただし、何度も再生を繰り返したものはワインの栓に使用されることはあまりなく、緩衝材や建築部材などにまわされます)

コルク栓の歴史

 コルクがワインの栓に利用されるようになったのは、1800年代のことだとされています。
もともとワインは近代までは樽の状態で酒屋へ流通し、樽から直接カップなどへと注がれるものでした。
当然、流通は今よりもずっと不便な状態でしたし、樽から出されたワインはもちろん、隙間が出来て空気の入った樽のワインも急速に品質が低下してしまうため、長期の保存は望めませんでした。
そのため、やがて高品質で丈夫なガラス瓶が生産できるようになると、高級なワインを中心に次第に瓶詰めで販売されるようになります。
しかし、ここで何で栓をするかが問題になります。
初期の頃は布や蝋で栓をしていましたが、当然完全な密封状態にはならず、輸送中の劣化や漏れ出しが頻繁に起こってしまいました。
すりガラスや木を削って作った栓が試されることもありましたが、開栓するためには瓶を割らねばならず、コストも恐ろしくかかってしまうため実用的ではありません。
それでもあきらめることなく、より長期間、確実に密封しておける栓が各地で模索され、やがてもっとも適した素材としてコルクが見出されることになったのです。
誰がコルクによる栓を使用し始めたかは定かではありませんが、古代ローマ時代には口の細い陶器の瓶にコルクで栓をする、という使い方をしていたこともあったそうなので、誰かがその記録を元に再現してみたのかもしれません。
その密封性や再栓の手軽さなどから瞬く間に各地で採用されたコルク栓は、コルクガシの栽培やコルクバークの加工技術とともに広まり、現在に至るまでおいしいワインの熟成と輸送を助け続けています。

コルク栓の特徴 長所と短所

 コルク栓には、他のタイプの栓にはない優れた特徴がいくつもあります。
その中でももっとも重要なのが「密封性」です。
コルクのように強い弾力があり、しかも長期間それを失わない素材は、近代までほとんどありませんでした。
瓶の口よりほんの少し大きなコルクを強く押し込むことで、気体や液体さえ通過できないほどぴったりと隙間をふさぐことが可能です。
コルクは極度に乾燥しない限り、何十年、物によっては百何十年もの間、ワイン瓶の気密状態を確保し続けてくれます。
(過乾燥を防ぐため、ボトルを横にしてコルクとワインが触れている状態にする必要があります)

 さらに、「加工や栓のしやすさ」も重要です。
従来のすりガラスや木片、布と蝋による栓は、非常に手間のかかる方式でした。
ガラスの加工技術自体、現代に比べればまだずっと未熟だったため、そもそも瓶の口の形やサイズが不均一なのです。
それに合わせて「押し込むことができるが密封性の高いジャストサイズの栓」を作るのは難易度の高い作業ですし、布と蝋を詰めていくにしても一つずつが手作業になります。
その点、弾力のあるコルクは瓶の口径より大きい分には、多少のサイズの差は問題になりません。
木材やガラスに比べて柔らかいため、一つ一つの加工にかかる労力も少なめです。
布を丸めてぴったりふさがるように詰めたあと蝋を溶かしてつけて・・・といった複雑な工程もなく、ただまっすぐ押し込むだけ。
その利便性や工場生産にも向く単純さは、現代に至るまで廃れることなく利用され続ける理由にもなっています。

 忘れてはいけないのが、「抜栓、再栓のしやすさ」です。
かつての方法では、ぴったりと密封できる方式だとそもそも抜くことができず、瓶の首を割り折るしかありませんでした。
布の場合はそこまでせずとも取り除けましたが、今度は再栓しても十分な気密は得られません。
コルクなら、コルク抜きなどを使うことで簡単に栓を抜くことが可能ですし、コルク自体を壊してしまわなければ、口に押し込むだけで何度でも簡単に再密封することができます。
ワインが庶民にとっていまより高級品で、現代よりも保存環境や衛生面で問題のあった時代、この機能は非常に大きな意味を持っていました。
さらに、実はこれは高級なワインを何十年にもわたって熟成させる場合にも重要な性質と言えます。

 「抜栓、再栓のしやすさ」と合わせてワインの長期熟成にとって重要なのが「適度な換気性」です。
ワインは瓶内でも長期間熟成を続ける飲み物です。
数十年、ボルドーなどの最高級品質のワインともなると百年に及ぶ熟成に耐えるものも少なくありません。
そして、その熟成に大きく関わってくるのが、微量の酸素の存在です。
瓶内のワインは、中の空間にほんの少しだけ存在する酸素によって、ごくゆっくりと酸化していきます。
このスピードが速すぎると、ワインは熟成を通り越して劣化してしまうため、密封性が重要になるのですが、かといって熟成中に酸素が枯渇してしまうほど完全にシャットアウトしてしまうと、今度は熟成が止まってしまいます。
また、酸素が少ない状態で(温度の上昇などによって)無理に熟成が進むと、「還元臭」という好ましくないにおいが発生してしまう可能性もあるのです。
そのため、望ましい酸化スピードを維持するため、基本的には気密を保ちつつも適切な量の換気が行われる必要もあるのです。
コルクバーグから直接打ち抜いて作ったコルク栓は、この絶妙なバランスの酸素コントロールを行うことができます。
(一般的には未加工のコルクバーグを打ち抜いて作った栓のほうが、端材を再加工して作った栓よりも高級とされますが、それは再加工品のコルクでは必要以上に換気が起こってしまうからです)
ただし、気体の出入りがあるということは、わずかながらワインが揮発していってしまうということでもあります。
実際、何十年も棚に置かれたままのワインは、最初に詰められた量よりも目減りしていることが良くあります。
ワインが減ると瓶内の空間が広がり、酸素量が増えて劣化する恐れがあるため、理想的には熟成中は10年~15年ごとにワインを一度開栓し、同じワイン(同一銘柄、同一ヴィンテージ)を補充する必要があります。
これは経験を必要とする手間のかかる作業ですが、抜栓しやすいコルクだからこそ行える作業であるともいえます。

 万能なように見えるコルクですが、実はデメリットもないわけではありません。
そのもっとも大きなものが、コルク臭によるワインの汚染、いわゆる「ブショネ」です。
コルクはもともと天然素材であるため、人工的に管理された素材に比べて、成分が不均一な部分があります。
そして、TCA(trichloroanisole/トリクロロアニソール)という成分が偏って多い部分をコルク栓として使ってしまうと、このにおいがワインに移ってしまうのです。
TCAはごく少量でもわかるほどの不快臭の原因となる物質ですが、栓として加工された時点では見分けることはほとんど不可能なので、ワインの栓として使用し、そのワインをあけてみるまで、ブショネが起っているかどうかを知ることはできません。
近年では事前加工によってある程度減らせるようになってきていますが、それでも全体の1%前後は存在するといわれています。
つまり、コルク栓を使用したワインは、100本に1本の割合で見分けようのない問題品が含まれているということになります。
高級なレストランなどでは、ソムリエがワインを開栓してくれたあと、コルクを手渡してくれますが、これは「ブショネが起っていないか確認してください」という意味なのです。
レストランであれば、その時点で気づくことができればソムリエが確認し、(大抵は)新しいものに変えてもらうことができます。
しかし、自分で購入したワインでブショネが起ったものに当たってしまったら、もうどうすることもできません。
これはコルクで栓をされたワインを飲む際に、どうしても避けて通ることのできないリスクといえるでしょう。

 またもっと身近な問題としては、開栓時にコルクが壊れてしまうリスクがあげられます。
コルクは柔らかく弾力に富むため、加工しやすい反面、素手でも折ることができるほどもろい物質でもあります。
ソムリエナイフやワインオープナーの使い方がまずいと、抜栓時にコルクがだめになってしまったり、最悪のケースでは途中で折れて下半分が瓶内に残ってしまうことも。
そのまま中に押し込んで無理やり開栓することはできますが、コルクのくず(しかも軽いので沈まずに水面に浮いてくる)が混入してしまいますし、再栓することもできなくなってしまいます。
これについては、正しい方法でワインオープナーを使用することである程度回避することが可能ですが、厄介な問題であることに違いはありません。

 しかし、これらの問題点を差し引いても、長年にわたってワインを守ってきたコルクの実績は大きく、コルク栓はいまもなおもっともメジャーな方式として活用されています。
ワインのイメージからコルクが消えることは、まだしばらくなさそうですね。