シェリー 産膜酵母とソレラシステム 熟成方法と飲み頃その6

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 シェリーはスペインの南部にあるアンダルシア州で造られるフォーティファイドワインです。
デノミナシオン・デ・オリヘン(Denominación de origen/DO/原産地呼称制度)では、「ヘレス=ケレス=シェリー」が正式名称とされ、アンダルシア州南西部にある、「シェリー三角地帯(ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ、サンルーカル・デ・バラメダ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアの三都市を頂点とした三角形の地域)」一帯にある、認定を受けた畑で生産されています。

熟成工程の前半で決まる「フィノ」と「オロロソ」

 シェリーの最大の特徴は、蒸留酒の添加タイミングです。
一般的なフォーティファイドワインは、アルコール発酵の途中で蒸留アルコールを添加して発酵を止めますが、シェリーは極甘口のものを除いて、アルコール発酵が終了したあとの熟成時に蒸留アルコールを加えます。
アルコール発酵によってもともとの果汁に含まれていた糖分は消費しきってしまうため、シェリーは基本的に辛口になるのです。
(極甘口シェリーは通常のフォーティファイドワインと同じように発酵を止めるため非常に甘くなり、甘口シェリーは辛口と極甘口のブレンドです)
そして、この蒸留アルコールの添加割合によって、その後の熟成の進み方やどの種類のシェリーになるかが決まります。

 アルコール発酵が終了したシェリーの原酒ワインは熟成のための樽に移されますが、この際に樽一杯までワインを詰めずに2,3割の空間を残すか、もしくはふたを除いた開放状態の樽を使用します。
一般的なワインでは酸化を避けるために樽内部に空気が残らないようにワインを詰め、コルクなどでしっかりと密閉しますが、あえて空気に触れさせることで好気性の酵母(産膜酵母)が発生し、これが脂肪酸を精製することで浮いてきてワイン液面に酵母の膜が現れます。
この「フロール」と呼ばれる膜によって過剰な酸化が防がれ、さらにシェリー独特の風味が生まれるのです。
フロールが発生した後、蒸留アルコールを全体のアルコール度数が17度程度になるように添加すると、産膜酵母が活動を停止しフロールが消滅します。
液面の膜がなくなることで酸化が始まり、ウイスキーやブランデーなどのような香ばしい風味と、琥珀色の水色に変化していきます。
これは「オロロソ」と呼ばれるタイプのシェリーになります。
しかし、全体のアルコール度数を15度程度に抑えると、蒸留アルコールの添加後もフロールが維持され、酸化しないまま熟成が進むようになります。
水色ももともとの淡い金色のまま、味や香りもシャープですっきりした状態をキープし、「フィノ」のいうタイプのシェリーになります。
その他、フィノにするつもりで控えめに蒸留アルコールを添加したにもかかわらず、フロールが途中で消えてしまった「アモンティリャード」や、フロールが形成されなかったため途中で蒸留アルコールを増やした「パロ・コルタド」など例外的なタイプもありますが、いずれにせよこの時点までで味や香りの方向が決定することに変わりはありません。

品質のばらつきを軽減する知恵 ソレラ・システム

 アモンティリャードやパロ・コルタドの例を見ると分かるように、産膜酵母の活動は制御が難しく、思ったような結果が得られないことが珍しくありません。
フロールの形成以外についても同様で、この時点までのシェリー原酒の品質は、樽やロットによってかなりばらつきがあると考えられます。
これをできるだけ均一化し、常に一定の品質のシェリーを出荷するために考案されたのが「ソレラ・システム」です。

 ソレラ・システムとは、端的に言うと熟成の期間ごとに樽から樽へ原酒を移動していく手法のことで、古い酒を一部残した状態で新しい酒を移動することを最大の特徴とします。
通常、樽はピラミッド状(ある段の樽の数がひとつ下の段よりひとつ少ない)に3~5段に積まれ、一番上の段が新酒、一番下が出荷直前の最も熟成が進んだワインが入っている状態になっています。
熟成を終えたワインは樽から瓶詰めされますが、この際一般的なワインと異なり樽の中のワインを全て出さず、8~5割程度残った状態にします。
そして、一段上の樽から減った分を補充、つまり上の段の二つの樽と残ったワインをブレンドするのです。
さらにその二段目の樽も三段目の樽から補充し、これを一番上の樽まで繰り返します。
異なる品質のワインを何度もブレンドすることでそれぞれの品質を均一化し、古いワインと合わせることで出荷年による差もなくすことができます。
また、常に樽にはワインが残った状態で更新されていくため、理論上生産者がシェリー作りをやめない限り無限に熟成を重ねることが可能になります。
酒造りにおいては、沖縄で造られる泡盛の古酒(クースー)の一部などで同じシステムが見られますが、日本国内でもっと身近な例としては、焼き鳥やうなぎの「秘伝の注ぎ足したれ」がわかりやすいでしょう。
歴史あるシェリーのボトルには、たとえ最近のものであっても数十年、ものによっては百年を超える熟成を経験した酒が入っているとも言えるのです。
このシステムを採用しているため、シェリーには通常ヴィンテージの概念がありませんが、例外的に単一年度の原酒だけでソレラ・システムを使用せずに熟成される「アニャダ」と呼ばれるヴィンテージシェリーも存在します。
また、オロロソやパロ・コルタドなど、一部のシェリーで新酒の熟成開始からの年数が一定以上のものについては、下記の特別な表記が許されているものもあります。

Vinos de Jeres con Indicacion de Edad(VJIE)
熟成期間12年以上

Vinum Optimum Signatum(VOS)
熟成期間20年以上

Vinum Optimum Rare Signatum(VORS)
熟成期間30年以上