赤ワインの醸造方法 ブドウ果汁が赤ワインになるまで

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 赤ワインの醸造は、ブドウの果皮や種、場合によっては果梗(かこう)から色やタンニンをしっかり引き継ぎ、かつブドウの香りと酸味にマッチするようバランスを整えるのがポイントになります。
種に含まれるタンニンには不快なものも含まれるため、温度や浸漬期間で好ましいものだけを選択的に溶け込ませるコントロールも必要です。
白ワインよりも複雑で手のかかる、しかしそれだけに醸造家の技術が発揮できる、赤ワインのできるまでを見てみましょう。

果実の破砕(フラージュ)

 赤ワイン造りは、収穫してきた黒ブドウから果梗(かこう)をはずすところから始まります(エグラパージュ)。
果梗とは果実がついている枝の一部で、房で買ってきた食用ブドウを食べ終わると残るあの木質の部分のことです。
伝統的な作り方を再現しているのでもなければ、現代では機械を使って自動で行われる作業です。
また、収穫時に機械摘みで集められた場合は、その時点ですでに果梗から外れていますので、この過程は省略されます。

 ばらばらになったブドウの粒は、カットされるか潰される形で破砕されます。
この時点では圧搾などは行われませんが、果皮が破れて果肉が刻まれることと自重の影響で、通常果汁の7割程度は流出するといわれています。
この流れ出した果汁は、残りの果汁を含んだ果肉や果皮、種などと一緒に大きなタンクへと投入され、次の工程へと進みます。

アルコール発酵(フェルマンタシオン・アルコリック)

 ブドウの果皮には天然の酵母がついており、皮が破れた状態でまとめておいておくと、それだけで発酵が始まります。
こうして貯蔵用のかめなどの中で偶然発酵したものがワインの発祥であるといわれていますが、天然酵母は品質にばらつきがあり、腐造の危険性も高まるため、現代では別途で純粋培養しておいた酵母のアンプルなどを添加する生産者がほとんどです。
酵母菌は黒ブドウの果汁に含まれている糖分を分解して、アルコールと二酸化炭素を生み出していきます。
赤ワインの場合、この発酵時に重要な二つの特徴があります。

浸漬(マセラシオン)

 果汁と、果皮や果肉や種などの固形部分(マール)を分離せず、一緒にした状態にしておくことです。
こうすることで、果皮や種に含まれるタンニンなどの成分と赤い色素(アントシアニン)が果汁にうつり、赤ワイン独特の色と渋みを獲得するのです。
この工程があるため、赤ワインのポリフェノール含有量は白ワインを大きく上回ります。
ちなみに、タンニンは液中にアルコールが含まれていないとあまり溶出しないため、この浸漬工程を発酵前半に中断すると、色がやや淡めで渋みの少ないすっきりしたタイプの赤ワインになります。

櫂入れ・液循環(ピジャージュ、ルモンタージュ)

 発酵中、マールは比重の関係や発生する二酸化炭素の作用で、液面に浮かび上がってきます。
そのままにしておくと板状に固まってしまい、中の成分が十分ブドウ果汁内に溶け込まないため、長い棒でかき混ぜたり下から汲み上げた果汁をマールの上から流し込んだりして、再度混ざるようにします。
発酵期間中にこの作業をどれだけ行ったかによって、同じ品種、同じ発酵期間でもタンニンの量などが変わるため、できあがりの風味をイメージして作業を行う必要があります。
ちなみに伝統的な手法では、数人で発酵中の果汁の中に膝まで浸かって一列に並び、ゆっくりと行進することで撹拌していた地域もあるとのこと。
不効率なので今では通常は行われていませんが、お祭りなどの行事として稀に見ることができます。

 赤ワインの発酵期間は1~2週間。
期間中は25度前後、製品によっては30度近くという比較的高温に保たれ、成分の溶出とアルコール発酵がしっかり進むよう促します。

ワインの分離

 果汁内の糖分がほぼ消費され、十分にアルコール度数が高まった所で、ワインとマールを分離します。
分離する際には、まずはマールに圧力をかけずに自然に流れ出てくるワイン(フリーランワイン)を集め(デキュヴァージュ)、その後圧搾機にかけて残りのワイン(プレスワイン)を搾り取ります(プレシュラージュ)。

調合(アサンブラージュ)

 フリーランワインとプレスワインをブレンド・調合します。
これらは同じタンクで発酵したワインとはいえ、全量を一緒にするわけにはいきません。
フリーランワインは雑味が少なくすっきりとしていて、プレスワインはタンニンを多く含むどっしりとした味わいになっているので、最終的な味わいのイメージに合わせてそれぞれの分量を調整する必要があるのです。
一般的にはフリーランワインがメインとなり、そこにプレスワインをブレンドする、という形式になりますが、通常よりずっと重めのワインを目指す場合は主従が逆になることもあります。

樽熟成とマロラクティック発酵(エルヴァージュ、フェルマンタシオン・マロラクティック)

 ワインが経験する一回目の熟成と、二回目の発酵です。
アルコール発酵を終了し、ブドウ果汁からワインへと成長したあとは、数ヶ月から数年間、タンクか樽での休息期間に入ります。
この期間中に、残っている酵母や重合したタンニンが滓となって沈み、適切に酸化することで落ち着いた風合いをまとうようになります。
また、ブドウ由来のリンゴ酸が乳酸菌によって分解されるマロラクティック発酵によって、フレッシュでとげとげしさのある酸味が薄れ、渋みやコクとバランスの良いまろやかな酸を手に入れるのです。
樽を使用して熟成する場合には、樽由来のタンニンがワイン中に溶け出し、さらにどっしりとした味わいになります。
この溶出するタンニンは樽が新しいほど多くなり、中には新品の樽を二個はしごさせて普通にはないほどのタンニンを持たせるワインもあるようです。

滓引き(スティラージュ)

 樽熟成中に底に沈殿した滓(おり)を取り除きます。
これは比較的大きめな浮遊物(固形成分の残り)や、熟成中に活動していた酵母、高度に重合したタンニンなどです。
見た目や口当たりに悪影響を及ぼすため、分離する必要があります。
静かに置いておくことで自然と沈殿するので、上澄みを別の樽に移す、という作業を数回繰り返すことで行われます。

二酸化硫黄の添加(シルフィタージュ)

 酸化防止剤である二酸化硫黄(亜硫酸塩)を添加します。
基本的に火入れを行わないワインにとって、酵母の活動を抑えて雑菌の繁殖など劣化を防止する、という意味合いも大きく、ほとんどのワインについて行われています。
ただ、近年では人工的な化合物の添加を行わない「自然製法」のワインも生産されるようになってきており、添加物を忌避する人々や二酸化硫黄に反応して頭痛を引き起こしてしまう体質の人に支持されています。
ちなみに日本では、輸入するワインについては安全面での基準が厳しく、本国で販売されているよりも二酸化硫黄の量が多くなっていますが、国内で生産されたものは(日本酒と同じように火入れを施されているものもあり)酸化防止剤無添加のワインも少なくないようです。

調合(アサンブラージュ)

 産地によっては、許可される範囲で他の畑や生産者の原料ワインとの調合が行われ、香味の最後の調整を行います。

清澄、濾過(コラージュ、フィルトラシオン)

 ここまでの工程で除去しきれていない微細な浮遊物などを、清澄剤を使用して取り除きます。
清澄剤とは、液中の浮遊物を吸着して除去しやすくしてくれる性質を持つ物質で、主に動物性のたんぱく質が利用されます。
ワインの種類によって使用される物質が異なり、赤ワインでは卵白やゼラチンなどが使用されます。
かつてはウサギなど家畜の血液を使う醸造家もいたとか。
基本的には衛生面の問題が出ないよう精製された粉末状のものを使用しますが、伝統的な製法にこだわるごく一部のワイナリーでは、いまでも生の卵が使用されているそうです。

瓶詰め

 全ての工程を経た赤ワインは、瓶などの容器に詰められ栓をされます。
近年では、早飲み用の安価なワインはペットボトルや缶、箱型の容器を使用することもあるようです。
一方高級ワインは、光を遮断する濃い色の瓶に入れられ、長期熟成に耐えられる長めで質の良いコルクで打栓されます。
そして全世界の販売店、もしくは熟成用のセラーへと送られるのです。